一方、潤一は景凪を教員宿舎の入り口まで送り届けた。「今日はわざわざ様子を見に来てくれてありがとう。……任務、うまくいくといいわね」ドアの前で立ち止まった景凪は、礼儀正しくそう言った。それ以上、彼を部屋へ招き入れる気などさらさらないのは明らかだった。長身の潤一は、ポケットに両手を突っ込んだまま、じっと彼女を見下ろした。唇の端をわずかに引き上げたその笑みは、彼女の心の奥底まで見透かしているかのようだ。――自分には、決して入り込む隙などない。亡き男に囚われ続ける彼女の心は、彼に対して少しの恋愛感情も抱いていない。そんなことは、とうの昔にわかっている。分かってはいるが、どうしようもない。どうしても、諦めきれない自分がいる。無言で射抜くような視線を注がれ、景凪はわずかに居心地の悪そうな顔をした。それを見て、潤一はようやく口を開く。「じゃあな。何か困ったことがあったら、すぐに連絡しろよ」「うん。潤一さんも、気をつけてね」彼が背を向けた瞬間、景凪がホッと安堵の息を漏らしたのを、潤一は見逃さなかった。まったく、俺はどれだけ警戒されてるんだか……内心で呆れながらも、自嘲気味な笑みがこぼれる。彼はひらひらと片手を振って、そのまま闇の中へ歩き出した。宿舎から少し離れた暗がりに、事前に手下に用意させておいたオフロード車が停まっている。運転席に乗り込み、ふとルームミラーを見上げると、ちょうど景凪の華奢な背中が宿舎の中へと消えていくところだった。カチッ。車内にライターの火が灯る。深く煙を吸い込み、ゆっくりと紫煙を吐き出してから、潤一は静かに車を発進させた。景凪には「任務でここに来た」と言ったが、それは嘘ではない。ただ、今回彼が請け負ったのは、本来なら裏社会で名を馳せる凄腕の傭兵である彼が、わざわざ出向くようなレベルの任務ではなかった。彼が無理やり、他の部隊からこの仕事をもぎ取ってきたのだ。ターゲットは、先日彼らの手で壊滅に追いやられた詐欺シンジケートの残党たち。網の目を潜り抜けた数名の雑魚が、この海沿いの辺境に逃げ込み、密航ルートを使って国外へ高飛びしようと企んでいたのだ。潤一は海岸線の闇ルートに部下を配置し、数時間張り込んで、あっさりと全員を拘束した。すでに日はとっぷりと暮れている。
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