「綾乃さん、離婚協議書が届きました」電話越しに、軒也が微笑みながらそう報告した。「時臣はもう署名を済ませています。あとは市役所で手続きをすれば、すぐに離婚証明書が発行されますよ」「時臣がもうサインしたの?」電話の向こうで、綾乃の声は驚きに震えていた。それは、時臣に未練があるからではない。彼女は離婚協議書に、美月に子宮の件で償いをさせることを条件として盛り込み、彼女に代償を払わせようと決めていたからだ。「私が提示した条件、時臣は全部受け入れたの?」綾乃は不安げに尋ねる。「彼が勝手に内容を変えたりはしていないよね?」「その点はご安心ください」軒也は落ち着いた声で答えた。「時臣が協議書を持ってきた後、私が内容を入念にチェックしましたが、一切の改ざんはありませんでした」「あなたが求めるすべての条件に同意しています。美月に代償を払わせることも含めて」「そう……」綾乃は小さく笑みを漏らした。「彼がそれを飲むなんて、本当に……」その後の言葉は、口に出さなかった。それを受け入れるなんて、時臣は無情で冷酷だ彼女だけでなく、美月に対しても同じだった。結局、彼に愛されているのは、自分だけなのかもしれない。だが実際には、時臣は離婚協議書の中身をほとんど読まずに署名した。彼はそもそも綾乃と離婚するつもりなどなく、署名はただの「餌」であり、綾乃の居場所を探るための罠だったのだ。ちょうどその電話の最中、時臣が大金を投じて雇った超一流のハッカーは、電話の電波を利用して綾乃の居場所を特定しようとしていた。ハッカーは軒也の事務所のすぐ下に待機している。距離が近いほど電波が強く、位置特定の精度も高まるからだ。軒也の部屋を出ると、時臣はすぐに階下へ降り、ハッカーのもとへ向かった。「進展は?」時臣は緊張した面持ちで尋ねた。「綾乃がどこにいるか、もう分かったのか?」「まだ解析中です」ハッカーが答えた。「あなたの元妻のスマホには、追跡を防ぐ強力なシステムが仕込まれていました」「このシステムを解除するのには相当の時間がかかります」「元妻だと?俺は綾乃と離婚なんてしていない!」時臣は苛立ちを隠せなかった。「あの離婚協議書は軒也に脅されて無理やりサインさせられたもので、効力はない!」時臣にとって、綾乃との関係は些細なすれ違いに過ぎ
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