俺のこと、好きでいてくれないか?この願いを、郁梨は三年間ひそかに抱き続けてきた。かつては、承平に好かれたいと、心から願っていた。けれど、どれだけ待っても、その願いが叶うことはなかった。そして今になっても、承平が口にしたのは――自分が彼女を好きかどうかではなく、彼女がまだ自分を好きでいてくれるか、ということだった。承平は、かつての生活に戻りたがっていた。彼が求めていたのは、自分を想い、すべてを捧げてくれる郁梨だった。だが、あの頃の郁梨は、もうどこにもいない。郁梨は力強く手を振りほどき、何も言わず、ただ階段を上っていった。承平は宙をつかむように手を伸ばし、低くかすれた声で叫んだ。「行かないで……郁梨……行かないでくれ……!」郁梨の足は止まらなかった。彼の呼びかけが耳に入らなかったのか、それとも――最初から戻るつもりなどなかったのか。――承平が酔って帰ったあの日を境に、二人の関係は妙なループにはまり込んだようだった。同じ屋根の下にいながら、互いに干渉せず、顔を合わせることさえほとんどない。承平も郁梨も、まるで意図的に相手を避けているかのようだった。承平は再び以前と同じ生活に戻った。毎朝早く家を出て、夜は各種の接待や付き合いに追われ、いつも深夜に帰宅する。一方の郁梨は、療養院で如実に付き添ったり、自宅で静かに脚本を読み込んだりしていた。月末、映画『遥かなる和悠へ』の制作チームから正式な連絡が届いた――三日後、撮影に参加するようにと。郁梨はあらかじめ荷物をまとめ、いつでも出発できるように準備を整えていた。このまま撮影に入るまで、承平とは平穏無事に過ごせる――そう思っていた。だが予想に反して、撮影に入る前日の午後、蓮子からの電話がかかってきた。「お義母様、うちで食事ってことですか?」郁梨はまるで戦場に放り込まれたかのように、慌てふためいた。蓮子の声はひそひそと、まるでこっそり電話しているかのようだった。「ごめんね、私のせいなのよ。前にあなたの家で食事をご馳走になったあと、何気なく料理がすごく美味しかったって言ったらね、おばあちゃんがじゃあ私も食べてみたいって言い出して。それで最近ずっとお父さんが忙しかったんだけど、今日はたまたま予定が空いて、急に行こうって話になっちゃって……あなたも知ってるでしょ、おばあちゃん
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