このシーンの撮影が終わると、『遥かなる和悠へ』のキャストもスタッフも、皆そろって郁梨に一目置いた。目を大きく見開くだけの単調な演技をする俳優たちとは違い、郁梨の目の演技には見事な奥行きと繊細な変化があった。三年間もカメラの前に立っていなかったとは、とても信じられないほどだった。思えば三年前、郁梨が出演したのはわずか一本の映画だけで、この分野ではほとんど経験がなかった。やはり努力は大切だが、才能も同じくらい重要だ。郁梨はその両方を兼ね備えている。『遥かなる和悠へ』の撮影初日は夜の九時まで続き、年配の俳優の中には疲れ果てて池上のおごりのすき焼きにも顔を出さない者もいた。そのため、最終的に食卓は一卓分だけになった。池上は杯を掲げて言った。「今日は本当にお疲れさまでした。さあ、乾杯して無事なクランクインを祝いましょう!」「撮影順調!」全員が声をそろえて杯を掲げ、湯気の立つすき焼きの上でグラスを軽くぶつけ合う。鍋の香りとともに、賑やかな笑い声が広がっていった。『遥かなる和悠へ』には女優があまり多くなく、郁梨と美鈴は気が合って、自然と隣に座っていた。美鈴はおしゃべり好きで、酒を二杯ほど飲むと、郁梨の耳元でこっそり囁き始めた。「まさか吉沢さんが私たちと一緒にすき焼きを食べるなんてね。あんなに偉ぶらない人だなんて、意外だったわ」そう言うのも無理はない。もし文太郎が『遥かなる和悠へ』に出演する際に通常のギャラを受け取っていたなら、その額はおそらく他の出演者全員を合わせた金額よりも高いだろう。その格の違いは言うまでもなく、美鈴が驚くのも当然だった。郁梨は思わず笑みをこぼした。初めて文太郎と会ったとき、自分も大スターはきっと気難しいのだろうと内心びくびくしていたのを思い出した。「あの方はとてもいい人よ」郁梨が美鈴にそっと囁いたその声は、しっかりと文太郎の耳に届いてしまった。「郁梨さん、何を話してるんだ?みんなにも聞かせてくれないか?」竜二たちがすかさず乗ってきた。「そうそう、二人で何をこそこそ話してるの?もっと大きな声で言ってよ!」当の本人に聞かれてしまい、美鈴も郁梨も一瞬で顔を真っ赤にした。美鈴は慌てて手を振った。「ち、違うの!あなたの話なんてしてないから!」郁梨は額に手を当てて、ため息まじりに思った。まったく
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