またこのパターンか郁梨!郁梨の口調は淡々としているのに、口にした言葉はなぜか承平をどうしようもなくさせる。承平はカッとなった。「郁梨!」郁梨は一体いつからこんな風になったんだ?清香が戻ってきたことが郁梨に刺激を与えたのか?それともこれが郁梨の本性なのか?従順で優しくて、賢かった妻はどこへ行ってしまったんだ?郁梨はイライラしながら承平を急かした。「結局できるの?できないの?」承平はまさか自分が仕方なく妥協する日が来るとは思ってもみなかった。「わかったよ、ダメだなんて言えるか?」郁梨の顔に、ようやく笑みが浮かんだ。まだ顔色が青白かったが、その笑顔はやはり美しかった。承平は少し見とれてしまい、ふと郁梨が美人ぞろいの映画学院の中でも、学院一の美少女として名を馳せていたことを思い出した。こんな美しい女性が芸能界にいれば、例え中身がなくても、顔だけで十分売れるのに、ましてや郁梨の演技は非常に優れていた。郁梨の処女作であり、唯一の出演作でもある映画は、あの有名な池上監督が務め、その映画で郁梨は助演女優賞まで受賞していた。ただその時の郁梨はすでに承平の妻であり、郁梨の人気に火がついたことで、自身の結婚の件が暴かれることについて、例え可能性がわずかであっても、承平は決して望まなかった。そこで、折原夫人は働く必要もないし、自分の妻が表舞台に出るのは好ましくないといったことを理由に、郁梨を受賞式にも行かせず、その後一切演技の仕事もさせなかった。承平はふと、母親の蓮子の言葉を思い出した。郁梨は承平のために自分のキャリアを犠牲にしたのだ、これは紛れもない事実だった!そう考えた承平は、納得せざるを得なかった。郁梨が演技をしたければさせればいい、家で悶々として性格まで変わってしまうよりましだ。「まずは家でしっかり療養しろ。スタジオや専属マネージャーの手配もする。華星プロダクションには撮影予定のいい作品がいくつかあるはずだ。回復したらすぐに撮影に参加できるよう調整しておく」郁梨の笑顔が、徐々に消えていった。さすがビジネス界で名を馳せる折原社長だ。こんな短時間で郁梨が再び世間の注目を浴びられるように、承平はその道筋さえも丁寧に整えてやったのだ。夫人としての立場でいるからこそ得られた待遇を、郁梨は光栄に思うべきなのだろうか?
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