文太郎にはもともと出演予定の映画が2本あり、それぞれ池上監督の『遥かなる和悠へ』と、鈴木安成(すずき やすなり)監督の『母なる海』だ。両監督の実力は互いに引けを取らず、脚本もどちらも良かった。文太郎はどちらにしようか迷っていたが、清香と承平のスキャンダルが報じられた後、すぐに池上監督の映画に出演することに決めた。『母なる海』は華星プロダクションの出資作品で、ヒロインはすでに清香に内定していると噂されていた。文太郎はもともと清香に特に興味はなかったが、鈴木監督の『母なる海』を断ったのは、共演相手がスキャンダルに巻き込まれるのを避けたかったからだ。万一何かのトラブルで映画の公開に影響が出たら困るのだ。文太郎はもう既に清香を嫌悪するようになっていた。3年前から、文太郎は郁梨が結婚していることを知っていたが、相手が誰かは知らなかった。そして今日、承平を見て初めて理解した。郁梨の夫である折原社長は、郁梨を大切にしないばかりか、他の女性とも不適切な関係を持っている。文太郎はようやく理解した、郁梨がなぜ再び演技を始めたのかを!だから、文太郎が承平に好意的な態度を取るなんてもってのほかだ!「郁梨さん、大丈夫か?」文太郎は心配でたまらなかった。さっき承平があんなに強引に郁梨を引っ張ったのに、承平は少しも気遣いを見せない。この3年間、郁梨はどれほどの惨めな思いをしてきたのだろう!「大丈夫です、文さん。早く帰ってお先に休んでください」文太郎は返事をせず、不安に襲われていた。自分が帰った後、承平が郁梨に暴力を振るうのではないかと恐れていた。承平は文太郎が郁梨を見る目が気に入らなかった。承平は郁梨の腰を抱き、自分の方に引き寄せると、夫としての立場で文太郎に感謝の言葉を述べた。「吉沢さん、妻を送って頂きありがとうございます。もう家に着いたので、安心してお帰りになさってください」承平の言いたいことは、詰まるところ文太郎はさっさと帰れ、ということだ!文太郎も手強い相手で、すぐさま言い返した。「ちょっと待ってください?折原社長は中泉さんとお付き合いされていると思っていたので、郁梨ちゃんがどうしてあなたと一緒にいるのか聞こうかと思っていたところです」郁梨「ちゃん」?承平の表情は明らかに険しくなってきた。「どうやらネットのニュースは
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