蓮子は一日中郁梨に付き添っていた。郁梨は静かにしていて、愚痴ひとつこぼさず、泣きわめくこともなかった。そんな姿が、かえって切なかった。「郁ちゃん、あなたが辛い思いをしたのはわかっている。承平は私が叱っておいたから、承平はもう二度とそんなことはしないわ。だから安心して」二度としない?郁梨こそが二度と期待もできず、二度と望みも持てない人だ。郁梨は微笑みながら返した。「お義母様、もう時間も遅いので、先にお帰りなさってください。私はもう大丈夫です」郁梨は病床にもたれかかり、その顔色は血の気を失ってひどく青白かった。まるで、ひと吹きの風で倒れてしまいそうなほど、弱々しかった。「こんな状態なのに安心して帰れないわよ。承平が来るまで待っているわ」郁梨は軽く頷き、心配そうに尋ねた。「お義母様、私が入院したことをお祖母様は知っていますか?」「心配しないで、お母さんには内緒にしているわ」「よかったです」郁梨は安堵の息をついた。蓮子はさらに胸が痛んだ。「あなたはいつも他人のことばかり考えて、自分がつらくても何も言わずに飲み込んでばっかり。泣く子にしかアメはもらえないってこと、知っているでしょ?」郁梨は口元をわずかに引きつらせ、胸の奥に湧き上がる痛みを必死に押し殺した。郁梨はその道理を痛いほどわかっていた。でも、泣く子もその子を心配してくれる人の前で泣かなければ意味がない。承平にとっての郁梨は、まるで一本の草のように、取るに足らない存在だった。だから、何も言わない方がましだった。——承平は18時に病院に着いた。蓮子は承平に郁梨のお世話をしっかりするよう言い残し、急ぎ足で帰って行った。隆浩は承平と一緒について来て、承平と郁梨の夕食をこれから買って来ようとした矢先に、承平の携帯がタイミング悪く鳴り出した。承平は郁梨を避けもせず、直接電話に出た。「清香」その名前を聞いて、郁梨は承平をチラッと見たが、すぐに顔を背け、窓の外に視線を変えた。郁梨の顔には余計な感情はなく、まるで清香と自分の夫がどんな関係にあるのか知らないかのように平静を保っていた。隆浩はその場を見て、心の中で再びつぶやいた。うちの折原社長は本当に人間じゃない!電話の向こうからは、清香の優しい声が聞こえた。「承くん、今どこにいるの?邪魔してないよね?
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