「御堂司(みどう つかさ)をベッドに誘うチャンスが19回あるわ。一度でも成功すれば、あなたの勝ちよ。でも、19回全部失敗したら、御堂家の夫人という肩書きを諦めて、彼と離婚しなさい」藤原知奈(ふじわら ちな)は、夫の初恋の人である白鳥麗(しらとり うらら)を見つめた。麗は賭けの契約書を彼女の前に差し出した。新婚ほやほやの知奈にとって、これはまったく難しくないことだった。彼女は自信満々に契約書にサインした。「ええ、この賭け、受けて立つわ」しかし、結果は残念なことに、最初の18回の誘惑の試みはことごとく失敗に終わった。19回目、知奈はついに夫に媚薬を盛った。セクシーな透け感のある服を身にまとい、司のベッドに潜り込んだ。今度こそ絶対に成功すると確信していた。ところが、司は薬の苦しみに耐えながら、全身を震わせつつも、彼女を容赦なくベッドから蹴り落としたのだ。「これ以上、俺の食事に薬を混ぜるような真似をしたら、夫婦の情も顧みないぞ」端整な顔を紅潮させ、薬の効き目で全身を震わせながらも、彼は最後の一線を死守し、知奈と関係を持つことを頑なに拒んだ。男がよろめきながらベッドから降り、運転手を呼びつけ車で家を出ていくのを見て、知奈はよくわかっていた。彼は薬を解消できる人を探しに出かけるのだ。そしてその相手こそが、彼の亡父の元愛人――白鳥麗に他ならない。そう考えると、知奈は惨めな笑みを浮かべた。冷たいベッドの上に座り、知奈は一晩中ぼんやりとしていた。頭の中は、司が彼女に内緒の結婚を提案した時の約束でいっぱいだった。彼は一生を大切に過ごすと言ったのに、結婚後は彼女に触れることすらしなかった。彼は彼女を悲しませないと言ったのに、彼女を悲しませているのは他ならぬ彼自身だった。翌朝、夜明けとともに、そのベントレーが別荘に戻ってきた。降りてきたのは司ではなく、麗だった。彼女は上機嫌そうな様子で知奈の前に立ち、離婚届を差し出しながら、ほほえんだ。「19回も失敗したんでしょ?一年前は『絶対に勝てる』って自信満々だったくせに。彼があなたを妻にしたからって、毎晩寝床を共にすると思ったの?私が彼の父親の女だったことを知れば、私を忘れられると思った?」知奈は歯を食いしばった。麗の言う通り、彼女と司のこの一年の結婚生活は、性もなく、愛もない
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