その後も司はF国に留まり、知奈の許しを求め続けた。しかし伊行は苛烈な手段に出て、離婚届にサインを迫った。だが司は頑なに承諾せず、伊行は「表沙汰にできない手段」を使わざるを得なくなった。脅迫、恐喝、暴力…あらゆる手を使ったが、御堂家の護衛隊が阻み、藤原家の者たちは司に近づくことすらできない。膠着状態が続く中、ついに臣が介入した。ある夜、臣から電話が入る。「知奈の件で話がある。古川家へどうぞ」司が屋敷に足を踏み入れると、庭園からかすかな物音が聞こえた。むせび泣くような女の声。そして混ざる男の声は、確かに臣のものだ。薔薇の茂みの向こうで、知奈と臣二人は熱烈に口づけを交わしている。司の瞳孔が鋭く収縮する。頭皮が痺れ、全身が震え止まらない。真紅のドレスをたくし上げた知奈が臣の腰に脚を絡め、甘い喘ぎ声が夜気に溶けた。「臣…もう少し優しく…」臣の手が知奈の肌を這い、激しい動きと共に頬へ憐れみのキスを落とす。「君は熱いぞ。前より感じてるね」知奈は首を伸ばし、その唇を貪るように応えた。「ええ…すごく…」ふと視線を上げた瞬間、司の存在に気づいた。知奈は彼を見つめ、すぐに嘲るような笑みを浮かべた。その時、司の血液が逆流するのを感じた。今この苦悶が、あの時──自分と麗の情事を目撃した知奈の痛みだったのか?これが臣が彼に見せたかった「見せしめ」だった。「どうだい?」臣が司をちらりと見やりながら問う。「見せ物にして気は晴れたか?」知奈は涼やかに答えた。「見せ物?ここに他に誰かいるの?」「そうだったな」臣が彼女を抱き上げる。「他人に見せるものじゃない」そのまま屋敷へ向かって歩き出した。司がよろめいて追いかけ、震える手を伸ばして叫ぶ。「待て!知奈…!君は俺にこんなこと…俺を愛してるんだろう…」次の瞬間、彼の手首が鉄のような力で捉えられた。護衛たちに地面に押さえつけられ、不吉な予感が走ったが、時既に遅し。赤い朱肉に漬けられた指が、離婚届の署名欄に押しつけられた。「やめろ──ッ!」と司が叫んでも、伊行が煙草をくゆらせながら冷たい声で宣告した。「署名がなくても、指紋で十分だ。司、もう俺の妹と縁は切れた」司は絶望に満ちた目で拳を握りしめ、歯を食いしばる。伊行は煙を吐きながら、さらに付け加える。「そうだ、お前
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