静真は部下に命じて、鷹真をレストランから追い出させた。ここはセレーヌ、彼のホームグラウンド。彼はもう二度と、柚葉を誰にも傷つけさせまいとしていた。鷹真は、当然諦めなかった。柚葉は会ってくれないとわかると、今度は全市を巻き込むような派手な愛の告白を繰り広げた。まるで、あの頃彼女を追いかけていた日々のように。だが今回は、柚葉の心は微動だにしなかった。彼女は知っていた。このままでは、いずれ自分の秘密が暴かれてしまう。だからこそ、自分の口から語ることを選んだ。彼女は記者会見を開いた。そしてかつて鷹真と結婚していたこと。彼の追っかけ女に襲われ、右手を切り落とされ、デザイナーとしての夢を絶たれたこと。それでも彼は、自分を守らずその女と結婚し、3年間も自分に嘘をつき続けたこと。その全てを、公にした。柚葉は袖をまくり上げた。その腕には、彼に傷つけられた痕が、痛々しく残っていた。彼女はまっすぐカメラを見つめ、静かに言った。「夜月鷹真、私たちは『ちゃんとした別れ』すらしていない。それは、もう二度とあなたに会いたくなかったから。あなたの顔を見るたびに、私は過去の傷を思い出す。『愛してる』なんて言いながら、あなたは一度も『本当の愛』を知らなかった。もし本当に私を愛しているなら、どうか私を自由にして。愛していないのなら、もう会う理由なんてどこにもない」その勇敢な言葉に、世間は彼女を全面的に支持した。それからというもの、鷹真が道を歩けば、正義感に燃えた市民から、ドーナツやティラミスを投げつけられるようになった。怒りっぽい彼にしては珍しく、そのすべてに黙って耐えた。彼は見たのだ。満身創痍の柚葉を。そして、そこから立ち上がり、自分の力で輝きを取り戻した姿を。ようやく彼は、自分がどれほど彼女を傷つけたのかを理解した。どれだけ後悔しても、もう戻れないのだ。もしかすると、彼女を手放すことが、彼にできる「最後の愛」なのかもしれない。そしてその日を境に、鷹真は人前から姿を消した。翌日、柚葉の元に、医師からの連絡が入った。彼女の義手は、パラメータの調整次第で、本物の手と遜色ない精度でデザイン作業が可能になると、彼女に教えた。数度にわたる治療と調整の末、彼女の右手は、ついに本物の手と変わらない精密な動作を取り戻した。こうして柚葉は、左右
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