橋本隆祐(たかもと たかすけ)と結婚して2年目、事業投資のためにペアローンを申し込むことにした。手続き中、銀行員は手元の「婚姻届受理証明書」とコンピュータ画面と何度も見比べた後、戸惑った表情で私に向って言った。「お客様、この証明書は間違っているのではありませんか。システムの登録情報を確認した結果、お客様はまだ未婚ですが……」私は愕然として反論した。「まさか?そんなはずがありません。2年前も婚姻届を提出しましたわ」「システムの登録情報では、橋本隆祐様は確かに既婚者ですが、配偶者欄に記載されているのは山下美幸(やました みゆき)という女性の方ですので、申し訳ありませんが、お客様の申し込みはお受けできません」 眉をひそめたその銀行員は、真剣な顔で説明しがら、コンピューター画面を私が見えるように回してくれた。目を大きくした私の前に、その画面に表示された「山下美幸」といった四文字は、まばゆくて、鋭い刃のように容赦なく私の心臓を貫いた。息をすると、刃がさらに深く突き刺さるように痛みが走る。全身の力が一瞬で抜けた私は、眩暈をして、目の前が真っ暗になり、とうとう気を失い、床に崩れ落ちた。意識が戻った時、私がその銀行員に支えられ、椅子に座らせられた。泣きながらもう一度確認したが、答えは変わらなかった。その瞬間、光も音も感じなくなり、冷たく漆黒なに湖の底に溺れたようだった。しばらくした後、私はようやく立ち上がり、銀行を出た。街を彷徨いながら、自分がゆらゆらと漂う落ち葉のようだと思い、どこへ行けるかもわからなかった。その時だった。携帯が震えた。隆祐からのメッセージだった。【鈴ちゃん、重要な会議を抜けて帰ってきたよ。鈴ちゃんが好きなイチゴも買ってきた。鈴ちゃんに会いたくてたまらないから。鈴ちゃんは?僕に会いたいか?】このメッセージを見たとたん、感情が堪え切れなくなり、涙がこぼれた。この2年間の間、彼は毎日のように愛の言葉を送ってきた。でも、その愛は本物だったのか?隆祐とは幼なじみで、深い絆で結ばれていた。私が彼の最愛の人だと誰も認めた。しかし、私が留学に行った間に、彼は寂しさのあまりに私の「身代わり」として美幸を見つけた。結局、本人の私の代わりに、その「私の身代わり」と法律上の夫婦になったとは。すべては
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