「一度手紙が届いて私はその手紙を読みました。返事をしようと思ったんですが、母が私にはふさわしくない方だから忘れなさいと言われ、ペンを取らせてもらえませんでした。それからは手紙を受け取ってはいません」「そうなると、送っていた手紙は見ていなかったのか?」「……はい。一通目の手紙以外は見ていません」 私の答えを聞いて彼は大きなため息をついた。「そうだったのか。美月の手に渡っていなかったということなんだな。ずっと無視されていると思ってたんだ。だから悲しくて落ち込んでいたんだが……。やはり定期的に会いに行くべきだった」 まさか手紙を送り続けてきているとは知らなかった。母が勝手に手紙を読んで破棄していたのだろう。「申し訳ありません」「美月は悪くない。だから謝らないでくれ」 悠一さんのことを想い続けていたように、私のことも考えてくれていたのだとわかって胸が温かくなる。(でも……おじい様を安心させるために結婚したはず……母の言う言葉だから信じないほうがいいかもしれないけど、人のことを疑うようになっちゃったんだよね。信じるのが怖い) 続いて白身魚のポワレ、その次はメイン料理の牛肉。じっくりと煮詰めた赤ワインソースがかけられていてフォアグラも添えられていた。 赤ワインと一緒に食べると美味しすぎて頬が落ちてしまいそうになった。「すごく美味しいです」「喜んでくれて嬉しい。これからもいろいろと美味しいものを食べに行こう」「……はい」 楽しい気持ちになってくるのに、楽しんでいることが罪悪感に襲われる。「どうかした? 急に顔が暗くなったから」「いえ。何でもありません」 彼は心配そうに私に視線を送っていた。 最後にデザートが運ばれてきた。「全ての料理に手が込んでいてシェフのおもてなしの心を感じます」「そんなことを言ってくれたら、ここのシェフも喜ぶだろう。うちの妻が喜んでいたと伝えておくよ。総料理長が知り合いなんだ」「そうなんですね」 生きる世界が違いすぎて不安になり、ついついうつむいてしまう。「心配なことがあるなら言うんだぞ」 その声で視線をゆっくりと悠一さんに向ける。 やっぱり私のことを大切にしてくれているというのが伝わってくる。でも……どう応えていいのかわからない。そして信じていいのかまだわからない。「美月は、俺に会いたいと思ったことはあ
Last Updated : 2025-08-21 Read more