All Chapters of 不幸な養女のしあわせな契約結婚: Chapter 21 - Chapter 30

41 Chapters

3 約束を守ってくれたんだ……4

「一度手紙が届いて私はその手紙を読みました。返事をしようと思ったんですが、母が私にはふさわしくない方だから忘れなさいと言われ、ペンを取らせてもらえませんでした。それからは手紙を受け取ってはいません」「そうなると、送っていた手紙は見ていなかったのか?」「……はい。一通目の手紙以外は見ていません」 私の答えを聞いて彼は大きなため息をついた。「そうだったのか。美月の手に渡っていなかったということなんだな。ずっと無視されていると思ってたんだ。だから悲しくて落ち込んでいたんだが……。やはり定期的に会いに行くべきだった」 まさか手紙を送り続けてきているとは知らなかった。母が勝手に手紙を読んで破棄していたのだろう。「申し訳ありません」「美月は悪くない。だから謝らないでくれ」 悠一さんのことを想い続けていたように、私のことも考えてくれていたのだとわかって胸が温かくなる。(でも……おじい様を安心させるために結婚したはず……母の言う言葉だから信じないほうがいいかもしれないけど、人のことを疑うようになっちゃったんだよね。信じるのが怖い) 続いて白身魚のポワレ、その次はメイン料理の牛肉。じっくりと煮詰めた赤ワインソースがかけられていてフォアグラも添えられていた。 赤ワインと一緒に食べると美味しすぎて頬が落ちてしまいそうになった。「すごく美味しいです」「喜んでくれて嬉しい。これからもいろいろと美味しいものを食べに行こう」「……はい」 楽しい気持ちになってくるのに、楽しんでいることが罪悪感に襲われる。「どうかした? 急に顔が暗くなったから」「いえ。何でもありません」 彼は心配そうに私に視線を送っていた。 最後にデザートが運ばれてきた。「全ての料理に手が込んでいてシェフのおもてなしの心を感じます」「そんなことを言ってくれたら、ここのシェフも喜ぶだろう。うちの妻が喜んでいたと伝えておくよ。総料理長が知り合いなんだ」「そうなんですね」 生きる世界が違いすぎて不安になり、ついついうつむいてしまう。「心配なことがあるなら言うんだぞ」 その声で視線をゆっくりと悠一さんに向ける。 やっぱり私のことを大切にしてくれているというのが伝わってくる。でも……どう応えていいのかわからない。そして信じていいのかまだわからない。「美月は、俺に会いたいと思ったことはあ
last updateLast Updated : 2025-08-21
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3 約束を守ってくれたんだ……5

   * それからも、悠一さんは、毎日のように愛情を伝えてくれた。 朝起きるといつも私の体調のことを気にかけてくれる。「熱はない?」とか「今日は顔色が少し白い感じがする」とか。 空いている時間には、スマホにメッセージを送ってくれる。仕事で忙しいはずなのに部屋に一人でいる私のことを気遣ってくれるのだ。 夜になれば会社近くの美味しいケーキを買ってきてくれたり、たまには可愛い小物を買ってきてくれたりもした。 一緒に暮らし始めて二週間が過ぎ、私の凍りついていた心に温かい言葉をかけてくれ、少しずつ溶かしていってくれた。 何かお礼がしたい。与えてもらうだけで何もできていない。申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。「夕食……作ってみようかな」 今日は早く帰ってくると言っていたので、お礼に手料理を振る舞うことにした。今までは家政婦さんが作り置きをしてくれていたり、ケータリングすることが多かったけれど、手料理を食べてもらいたい。それに、実家にいた頃は毎日のようにやっていたことなので苦にはならない。 家政婦さんにはお掃除だけしてもらい、料理は自分ですることにした。 彼の口の好みに合うかわからないが準備をして待っていた。 六時過ぎに玄関の扉が開く音がして迎えに行くと、満面の笑みを浮かべてくれる。「ただいま、美月。今日も早く会いたかった」 帰ってくると必ず長い腕で抱きしめてくれる。 毎回のようにドキドキするけれど、緊張というよりは喜びのほうが大きいかもしれない。
last updateLast Updated : 2025-08-22
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3 約束を守ってくれたんだ……6

「お料理、作ったんですが……。もしよければ召し上がりませんか?」「作ってくれたのか?」「はい、お口に合うかわかりませんが」「ありがとう」 こんなにテンションの上がった姿を見たことはない。 テーブルに食事を並べる。今日はハンバーグとワカメのスープと、ポテトサラダを作った。 悠一さんは瞳を輝かせている。いつも真剣な表情をして仕事のことを考えている。彼からは想像がつかない可愛らしい顔だった。母性本能をくすぐる。「いただきます」「どうぞ」 口に入れると何度も覗いてくれた。「美味しい。美月の手料理を食べられる日が来るなんて感動だ」「そんなに喜んでくれるなんて……よかったです」「実は家庭料理をほとんど食べたことがないんだ。母は料理が得意じゃなくて、家政婦さんに作ってもらっていたから。それぞれ作ってくれていた料理は美味しかったけど、家の味というのがなくて」 そう言って残さず食べてくれた。 財閥の息子として幸せそうと思われてしまうこともあるかもしれないが、彼なりに辛い思いをしてきたのだろう。「そうだったんですね」「あぁ、母は料理は不得意だけど優しくて素晴らしい方だ。仲良くしたいと言っていたし、母ともお茶をしてあげてくれ」「わかりました。私でよければお供させていただきます」「過去はずっと……両親のことを憎んでいたんだ。親の決めたレールの上を歩かされているって思っていたんだけど。美月に会ってから気持ちを入れ替えて、全てのことに感謝しながら接するようになって。そうすると親の態度もだんだんと変わっていった」 穏やかな表情で話しているのを見て私は少し安心した。「美月、ありがとな」「いえ……私は何も」 悠一さんの笑顔を見ることができたら私はそれだけでいい。そんなふうに思ってしまった。
last updateLast Updated : 2025-08-22
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3 約束を守ってくれたんだ……7

   *  私は料理することを毎日の張り合いにして頑張っていた。その理由は悠一さんが『家に戻ってくるのが楽しみだ』と言ってくれるからだ。 実家にいた時は一生懸命食事を作っても、誰も喜びの言葉を言ってくれなかった。感謝の言葉もなかった。 それでもいいと思っていた。私のことを引き取って育ててくれた恩返しだと考えていたから。 でも、好きな人のために料理を作り、そしてその人が喜んでくれるというのは幸せだ。 こんな経験をさせてくれるだけでも私は幸せで感謝しなければならない。 一緒に住み始めて二ヶ月半がすぎ、平穏な日々を送っている。 平穏って言えばそうなんだけど、ドキドキしたり、キュンキュンしたりで私の心臓は忙しない毎日だった。 そろそろ夕食を作ろうかと考えていたところ、悠一さんから電話がかかってきた。 仕事が早く終わりそうなので、会社の近くで夕食を摂って帰ろうという誘いだった。 せっかくだから会社にもおいでと言ってくれ、私は少しでも早く会いたくて行くことにした。 結婚してすぐに会社にお邪魔したことがある。予想していたよりもはるかに大きな自社ビルで、度肝を抜かれてしまった。 こんなに大きな財閥の一人息子の妻として生きていくのは、大きなプレッシャーがのしかかった。 悠一さんの妻として、出席しなければいけない会に参加したり、パーティーについて行ったこともある。 それでも自分はまだ妻という立場に自信を持てない。 悠一さんのお母様が自宅に招いてくださり、心得というのを教えてもらった。そして最後には『一日も早く跡継ぎを作ってくださいね』だった。 まだキスすらしたことない私たち。 もう一歩、進んだ関係になるべきなのか。 彼には考えがあるのかもしれない。 一緒に暮らしていくと、悩みがだんだんと大きくなっていく。もっと外見も中身も磨いてふさわしい女性にならなければと毎日思っている。何からどうやって努力すればいいのだろう。
last updateLast Updated : 2025-08-23
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3 約束を守ってくれたんだ……8

 会社に到着した私は、受付で名前を言うと通行許可書を発行してくれる。それと一緒にカードを渡され、キーをかざすと扉が開いて会社の中に入ることができるのだ。 副社長として働いている彼の部屋の前には秘書が常駐している。 七瀬さんが出てきて対応してくれた。「副社長は急用で電話に出ておりまして長引いています。来客室でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」「はい、ありがとうございます」 来客室に案内してもらい、丁寧にお茶まで出してくれた。 まるでお客様のような対応に恐縮してしまう。「主人がいつもお世話になっております」 あまり言い慣れていない言葉なので声が震えてしまった。彼女は鋭い視線を向けてこちらをじっと見つめてくる。 私はなぜか背筋がピンと張ってしまった。「奥様」「はい」「プライベートの話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」「もちろんです」 会話に困っていたので私は笑顔で答えた。「副社長とは、高校時代からの友人なんです。彼のことは全てわかっているつもりで今まで付き添わせていただきました」 初耳だったので、私はただ黙って話を聞いているしかできなかった。「結婚というものに興味がない方なんです。でもなぜ結婚されたかわかりますか?」「……いえ」「副社長が慕っておりますおじい様が体調を崩されています。そのことはご存知ですか?」 母からその話は聞いていたが、悠一さんの口からはその話を聞かされていなかったのだ。私から聞こうとも思ったけれど、話したくないことなのかもしれないと遠慮していた。
last updateLast Updated : 2025-08-24
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3 約束を守ってくれたんだ……9

「そのおじい様を安心させたいために結婚という道を選んだのです。我が社では老舗旅館を買収しようという動きが活発でして……」 それで私の実家の旅館も買収されたのだろう。私のことなんて心から愛していないことくらい分かっていたのに体の中に重たいものが溜まっていくような気がした。「言い方はとても悪いのですが、適当な方が奥様だったのです」 七瀬さんは業務の一環といったように冷静な口調だった。「……そうだったのですね。しかし夫婦となったので、夫が必要と言ってくれる限りは私は支えていこうと思っています」 せめてこう言い返すことしかできなかった。すると彼女は余裕があるような笑みを浮かべて軽く頭を下げた。「秘書という立場なのに余計なことを言ってしまって申し訳なかったです。困ったことがあれば何でもおっしゃってくださいね」 重い空気の中、悠一さんが入ってきた。「お待たせ」 七瀬さんは頭を下げて出ていく。「長引いてしまって悪かった」「いえ、大丈夫でしたか?」「あぁ、行こうか」 悠一さんは、上機嫌で私の手を引いた。「皆さんに見られたら恥ずかしいです……」「どうして? 夫婦なんだから恥ずかしいことは何もないだろう」「しかしここは会社ですよ」「まあそうだな」 廊下に出ると残念そうに手を離した。 ずらりと並ぶ秘書たちは立ち上がり頭を下げてくれる。 たくさんの人に支えられているのだと感動し、会社の経営を担う夫の姿に胸が打たれた。 エレベーターに向かうまでの道でも何人もの社員と挨拶する。 とても偉い人なのに悠一さんはフランクに話をしていた。「この前の企画書、とても良かった。期待しているから」「ありがとうございます!」 まだ若い男の社員が頭を下げて、ピカピカの笑顔を浮かべていた。 迎えに来ていた車に乗る。 会社の近くのホテルに連れて行ってくれ、天ぷら屋さんに連れて行ってくれた。 すごく美味しくてたまらなかったけれど、七瀬さんの言葉が頭の中をグルグルと回っていた。
last updateLast Updated : 2025-08-26
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4 愛とはなんですか?……1

 七瀬さんが言っていた言葉を時々思い出して、胸が苦しくなる。 母が言っていた『私は幸せになることができない』との呪縛からも、なかなか逃れられない。 私は幸せにはなってはいけない運命なのだろうか。幸せになってはいけない人なんて居ないはずだ。 どんな人生を歩もうとも、もっと強くなって、気にしないようにするしかないのに、私はまだまだ弱い…… 私はだんだんと彼のことが好きになってしまっている。旅館で出会った頃なんか比べようもないほど心が奪われているのだ。 できることなら一生そばにいたいと思ってしまう。 せめて、悠一さんが私を必要としてくれている間は、そばにいさせてほしい。 悠一さんは、どんなときも気にかけてくれて優しい言葉をかけてくれる。『ここは美月の居場所。誰も嫌なことは言わないし何をしても自由な空間なんだ』 心の中にあいた穴を埋めるかのように毎日言葉をかけてくれていた。 最近は、ここが私の居場所だと思えるようになってきている。 一緒に住んでいてどんどんと彼のいいところが見えるようになった。完璧すぎる人だ。 本当に優しくて、よく気がついてくれる。 たまにソファで眠っている姿を見て、思わず口づけをしたいと考えてしまう。(完全に恋をしているよね) 想いを伝えてみたい。 私も好きですと言ったら両想いになって、本当の幸せがやってくるかもしれない。 しかし、本当の気持ちを伝えた瞬間、彼の態度が急に変わったらどうしようと不安で伝えることなんてできない。
last updateLast Updated : 2025-08-26
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4 愛とはなんですか?……2

 ある日の夜。 母から電話がかかってきた。『うまくやってるようだね。あんたみたいな人間は弱音を上げてすぐに戻ってくると思ってたよ』「……っそんな……言い方」 急に電話をかけてきてひどいことを言うので言い返そうとしたが言葉を遮られてしまった。『なんだい、口答え? 実家に何かお礼の品を送るとか、そういう心遣いはないのかい?』 そのタイミングで悠一さんが入ってきたのだ。 私は話を聞かれたくなくて、慌てて顔を背ける。 廊下へ出て電話の続きをしようとしたが彼が追いかけてきた。 そして私の顔を覗き込んでくる。心配そうな表情をしているので申し訳なくなって早く電話を切ろうとしたが母はぶつぶつと嫌なことをいっぱい言ってくるのだ。「あのね……お母さん」『あんたなんか、幸せになれないんだよ。幸せになろうなんて考えていけないんだからね』 何か嫌なことがあったのか突然八つ当たりをされてしまった。 母は昔から面白くないことがあると私に強い言葉を言ってきたのだ。 大声で叫ばれたので、多分電話の声が漏れてしまっているだろう。 黙り込んでいる私の手から悠一さんは、スマホを抜き取り、ハンズフリーのボタンを押したのだ。 それに気がつかず母はベラベラと話を続ける。『たまたま選ばれて結婚しただけなんだ。勘違いしちゃいけないんだよ。美月はいつか捨てられる運命なんだ。いつ帰ってくるかみんなで予想してるのよ。帰ってきたらまたたっぷりとしごいてあげるから。あんたなんてメイドと同じさ。せいぜい短い東京の生活を楽しんできなさい』 その言葉を聞いた悠一さんの表情がだんだんと曇っていく。「今の話聞かせてもらいました」『え、ゆ、悠一さん? あら、いやだ。お世話になっております。今のは売り言葉に買い言葉のようなものだったのですよ』 明らかに電話越しの母は動揺しているようだった。「違いますね。完全に罵っているようにしか聞こえませんでした。実家にお返しするつもりなんてありません。一生、自分のところで幸せな生活を送ってもらおうと思っています。間違いなく美月を愛していますし、誰よりも幸せにする自信があります。大事な妻のことをこれ以上いじめないでもらえませんか?」 私のことを守ってくれる彼の姿に胸が熱くなる。誰かにこんなに大切に思ってもらえるなんて今までの人生で経験したことがなかった。しか
last updateLast Updated : 2025-08-28
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4 愛とはなんですか?……3

「ありがとうございます……」「ずっと辛い思いをしていたんだな。ひどい親御さんだ。言い過ぎてしまったかと思ったがあれぐらいしても仕方がないだろう」 私のことをかばってくれてすごく嬉しかった。 今までこうして守られたことは一度もなかったから。 彼は私の頬を手のひらで包んだ。「美月、絶対に幸せにする」「今でも十分に幸せです」 本当に幸せだからこの時間が永遠に続いてほしい。 でも不安で仕方がない。 彼の本当の気持ちはわからないけど、今はそばにいたい。 思わず感情が昂ぶって涙がポロリとこぼれてしまった。「美月……。好きだ」「私なんて……」「そんなこと言わないでくれ。それ以上自分を卑下することを言うとキスして口を塞ぐぞ」「えっ?」 私の肩に手を置いて射貫くように瞳を見つめてくる。 キスというキーワードで頭が真っ白だった。「……というか、我慢の限界だ」 顔が近づいてきて唇が重なった。(や、柔らかい……) ファーストキスが自宅の廊下でというのは味気ないかもしれないけど、ここが楽園にいるかのような気持ちになる。 幸せでドキドキして、頭に一気に血が昇るような感覚になった。 そして私はどこまでも飛んでいけそうだなんて思ってしまう。 唇が離れ、親指で私の唇に触れてきた。 熱っぽい視線を向けられて私はクラクラしてきた。 今、母親からの電話でどん底にいたのに、彼のキスで一気に天国に行ってしまったような感じだ。「……もっとゆっくり距離を縮めていきたいと思っていたんだが、すまない」 苦しそうな顔をしている。「そんなこと、ないです」 発言してしまって私は顔が熱くなった。 まるで私もキスをしたかったと言っているかのようだ。「……美月の気持ちが知りたい。好きすぎて辛いんだ」 七瀬さんの言葉が本当だったとしたら…… そんなに気になるならおじい様のことを本人に聞けばいいのに…… でも聞いた瞬間、まるで魔法が解けたかのように真面目な顔をして『おじい様のためだ』と言われたらどうしようかと勇気が出なかった。「このキスを許してくれるか?」 私はこくりと頷く。「これ以上のことは、クリスマスプレゼントとしてもらえるか?」「えっ?」 あまりにも動揺する私は見て彼は楽しそうに笑っていた。「嫌だということをしないがよく考えといてほしい」「……
last updateLast Updated : 2025-08-29
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4 愛とはなんですか?……4

   * 十二月、クリスマス当日の朝になった。  私は密かにネクタイピンのプレゼントを用意していた。今日になるまで特に予定を入れられることがなかったので、もしかしたら忙しいのかもしれないと何も言わずに過ごしていた。  スーツに着替え終えた悠一さんがリビングにやってきたので、近づいてネクタイのチェックをする。  気がついたらこうして毎日ネクタイを見るようになっていた。  視線をチラリと上げるといつも穏やかな表情をして見下ろしている。目が合うだけでドキドキして頬が熱くなった。 「今日はサプライズがあるんだ」 「何ですか?」 「楽しみにしていてほしい」 「わかりました」  会社へ送り出し、私はワクワクしながら時間が来るのを待っていた。 夕方になるといつもと違うリムジンが迎えに来た。悠一さんが車からわざわざ降りてきてエスコートしてくれる。 「おまたせ」 「お仕事お疲れ様でした」 「今日は特別な日だから仕事を早く切り上げてきたんだ」  車に乗り込むと、シャンパンが用意されている。 「今日は思い出に残るような特別な夜にしたい」  いつも忙しくて第一線で活躍しているのに、私のことを第一に考えてくれている彼の姿に涙があふれそうになった。  連れてきてくれたのは、ヘリポートだった。 「すごいです!」 「さあ、行こう」  乗り込むとヘリが上がっていく。東京を見下ろし、空の旅が始まった。
last updateLast Updated : 2025-09-01
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