悠一さんが帰宅した。「お帰りなさい」「ただいま。手洗いとうがいをしてくる」「はい。夕食の準備をしておきますね」「ありがとう」 いつものように夕食を出すと、彼は嬉しそうに食べて完食してくれる。 この何でもない穏やかな日々が永遠に続いてほしい。だからこそ素直に気持ちを伝えるしかないのだ。「悠一さん、大切なお話があります」 食事が終わったタイミングで私は彼にお茶を出し目の前に座った。「あぁ、何でも話を聞く。どうかしたか?」「今日、七瀬さんがいらっしゃいました」「七瀬が?」 あまりにも予想外だったのか目を大きく見開いて身を乗り出した。「悠一さんのことを大事に思うからこそ、私に話をしに来たんだと思います」「何を言っていた?」 私は言いにくかったけれど勇気を出すしかないと思いはっきりした口調で話すことにした。でも緊張して心臓がドキドキしている。「世襲制を嫌っていて、跡継ぎを欲しいとも思っていないし結婚もしたくないという考えだったと聞きました。そして、この結婚は、おじい様を安心させるために結婚したのだと」 この心に抱えている苦しい思いを解消するためには言わなければいけないと思って発言した。しかし実際に口を開くと彼は少しだけ嫌な顔をした。「世襲性を嫌っているというのは事実だ。実力主義でいかなければ生き残っていけないと思う」 私は悠一さんの言葉にじっと耳を傾ける。
Last Updated : 2025-09-15 Read more