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不幸な養女のしあわせな契約結婚 のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

41 チャプター

4 愛とはなんですか?……5

しっかり手を握ってくれていて安心もするし、今までに経験したことがない幸せな気持ちが湧き上がってくる。「キラキラとしていて綺麗!」「そうだな。ほら、あっちを見てみろ」 横を見ると顔がすぐ近くにあって心臓が破裂しそうになった。私たちは夫婦なのにまだキスしかしていない。しかも、たった一度だけ。 クリスマスプレゼントにそれ以上のことをしたいと言われていたけれど、あれは本気だったのかな。 もしかしたら動揺する私のことをからかうだけの発言だったのかもしれない。 これだけ大きな財閥なら跡継ぎが欲しいと思うのは普通のことではないか。 でも私たちは、今日まで大人の関係にならなかったのだ。それには何か意味があるのではないかと考えてしまう。 あっという間に素敵な時間が終わり、地上に戻ってくると、悠一さんはバラの花束を私に手渡した。「メリークリスマス!」「わぁ! 綺麗。ありがとうございます」「これからも毎年一緒にクリスマスを過ごしていこう」「はい。ありがとうございます」 バラの花束の意味は真実の愛。人のことを信じられなくて疑ってしまう気持ちもあったけど、彼は私のことを好きだと思ってくれているのかなって、すごく感じた。 それなら私も本当の自分をぶつけていくべきだ。 幸せの中、私たちは家に戻ってきた。 今日は私の手料理が食べたいとリクエストしてくれていたので、帰ってきたらすぐに食べられるようにビーフシチューを用意しておいた。テーブルには買ってきたチキンとケーキも置く。私たちは乾杯をした。 私からもプレゼントを渡すとすごく喜んでくれる。「大事にするから」「はい」 ゆっくりと食事をして満腹になった。
last update最終更新日 : 2025-09-01
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4 愛とはなんですか?……6

 私たちはソファーに並んで座り、将来の夢を語り合った。「子供は何人欲しい?」 考えたことがなかったので想像してみる。「賑やかななほうがいいですね」「そうだな。三人はほしい。俺に似た男と美月に似た美しい女。想像するだけで夢が膨らむ」 楽しそうにしている横顔を見るのが私は嬉しかった。「どんな家庭にしていきたい?」「明るくて穏やかな……」「俺も賛成だ」 そして話が途切れると彼は熱い眼差しで私のことを見つめてきた。「今夜はずっとそばにいてほしい」 まるで甘えるかのように言って、私の手をそっとつかんだ。 彼は私の手の甲に優しくキスを重ねてくる。くすぐったくて気持ちよくて不思議な感覚だった。「私も、ずっとそばにいたいです」 大きな手のひらが私の頬を包み込み、ずっと見つめていた。 恥ずかしさと幸福感で包まれて、心臓がドキドキとしてきた。 ゆっくりと顔が近づいてきて、私は素直に瞳を閉じた。彼の柔らかい唇がくっつき、キスした。 顔が離れると、彼は穏やかな視線を向けてくる。 そして長い腕で私のことを力強く抱きしめてくれた。本当に彼が私のことを好きだという気持ちが伝わる。 立ち上がった彼は私のことを横抱きにして寝室に連れて行った。ベッドに寝かされて何度も何度も口づけをした。「今日はクリスマスだ。約束どおり、プレゼントとして美月がほしい」「……こんな私でよければ」 同じベッドの上で目を覚ました朝。 昨夜の夜のことを思い出し私の顔はだんだんと熱くなった。 大切に、自分が雛鳥になったかのような感覚が覚えるほどの、甘くて素敵な時間だった。 私たちは身も心も本当の夫婦になったのだ。 だからこそ気になるおじい様のこと。 勇気を出して聞いてみようと思う。 背中に感じる彼の体温に私は幸せを覚えていた。
last update最終更新日 : 2025-09-03
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4 愛とはなんですか?……7

   * 年末年始の休暇期間に入り、世の中は世話しなく動いている。私は世の中に役に立つことができているのだろうかと自問自答することが多かった。 夫からはたくさんの愛情を受けている。今までの自分があまりにも不幸だったから、素直に幸せだと思って暮らしていることが申し訳なく感じるのだ。 自分の心次第で、捉え方で見え方は変わってくるのかもしれない。 素晴らしい人と結婚したのだから自分自身、もっと成長していければなと思っている。でも、何をしたらもっと成長していけるのだろうか。「美月、ちょっと話を聞いてほしいんだが」「なんですか?」「なかなか話すタイミングがなかったんだが、俺には大事にしている祖父がいる」 ずっと気になっていたことを突然話し出したので私は息を飲んだ。そしてじっと耳を傾ける。「ただ体調が悪いんだ。美月が妻になったと紹介したかったんだが……もう長くは持たないらしい」「……そうだったのですね」「彼は幼い頃からいろんな話を聞かせてくれて、御曹司として生まれてきた辛さも理解してくれた。趣味も多彩で教養もあって素敵な人で……。心から愛している人がいると言ったら、その人と絶対に結婚しろと背中を押してくれた人なんだ。父のことも一緒に説得してくれた」 せつなそうに話しているところを見ると私も胸が締めつけられる。この話からしてきっと本当に素敵な人なのだろう。「結婚式を終えてこっちに戻ってきた夜に電話をして結婚したと伝えたらすごく喜んでくれた。近いうちに連れてきてくれと言われたのだが……。次の日から意識が朦朧としていて、会話ができる状態ではなくなってしまったんだ。危険な状態が続いているから面会もできない」 辛い気持ちを一人で背負っていたのだと思うと、私は悲しくてどうしようもなくなってしまった。 でも結婚した当初は何も信じることができず、私自身の心が凍ってしまっていた。 笑顔も作れずうまく話すこともできなかったし、避けるような態度をしていたかもしれない。だからもっと早く言うことができなかったのだ。そのことで深い罪悪感を覚えた。「美月を強引に東京に連れてきて慣れてもいない生活の中で、体調の悪い祖父の話をするのはかわいそうで言えなかったんだ」 私は近づいて彼の手をそっと握った。「気を使わせてしまっていたのですね。ごめんなさい」「いいんだ」「これか
last update最終更新日 : 2025-09-04
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4 愛とはなんですか?……8

 それから一ヶ月後、おじ様は天国へと旅立たれた。 葬儀が終わり忙しい日々から日常へと変わっていった。 いつものようにスーツに着替えている夫の姿を私が後ろから眺めていた。「じゃあそろそろ行ってくるよ」「大丈夫ですか?」「あぁ。美月にも負担をかけたね。なるべく早く戻ってくるから」「いってらっしゃい」 平気そうなふりをして仕事へ出かけていく悠一さんのことが、心配でたまらない。 大切な身内がいなくなってしまうという感情は想像を絶するものだろう。 私には本当の家族はいないけれど、もし、夫である悠一さんがこの世の中から消えてしまったら……。 日常生活をまともに送れないほど落ち込むことが予想できる。 彼にとって私という存在はどれほど重要なものかわからないが、私はそっと寄り添おう。 ほんの少しでも心に温かい日差しを灯すことができれば幸いだ。   *「ただいま」「おかえりなさい」 待ってくれている人がいるというのは幸せだ。 彼女の笑顔を見るだけで、俺の心は癒されていた。 最愛の祖父が亡くなってしまい、体に力が入らない毎日だ。 もし結婚せずに暮らしていたら、深い悲しみからなかなか抜け出すことはできなかったかもしれない。「美月、ハグさせてくれ」「もちろんです」 俺の胸にすっぽりと収まる小さな彼女。 天然の花のような甘い香りがして、温かくて柔らかくて、愛おしくて仕方がない。 両親とはまた違った妻という立場の存在が俺にとっては本当にありがたかった。 体が温まるような食事を作ってくれ、何も言わずにそばにいて一緒にテレビを見てくれたり音楽を聞いてくれたりする。 言葉数は少ないが、美月は心が綺麗な人だ。 彼女の励まそうとしてくれる気持ちが伝わってきて、悲しみが軽くなっていく。 彼女が妻になってくれて本当に良かった。「美月、ありがとうな」「私は何も……」「もう大丈夫だから」「どうか無理だけはしないでください」 決して祖父のことは忘れることはない。 俺たちが幸せになっていく姿を見せることが、祖父にとっての供養につながると思う。そして祖父も大事にしていた会社をより素晴らしいものにしていくという決意に満ちた。
last update最終更新日 : 2025-09-04
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5 契約結婚の結末……1

「もう大丈夫だから」 あの言葉はどういう意味だったのだろうか。 もう私がそばにいなくてもいいという意味なのかな。 もしかしたら、私の役目は終わってしまったの? 私と彼は契約結婚だったのだ。 契約結婚をしようと言われたわけではないけれど…… 私は実家を救うため。彼はおじい様のため…… 結局はあまり役に立つこともできずに、一緒に過ごしていたのかもしれない。 恋愛小説やドラマでは契約結婚から生活を始めて愛が芽生えるパターンをいくつも見てきたけれど、現実の世界ではそんなに甘くないのだ。 もし離婚を突きつけられたら私は自分の力で生きていかなければならない。実家に戻るなんて絶対に嫌だ。 それに私は悠一さんのことを愛してしまっている。この感情をどうやって整理してこの先の未来を生きて行くべきなのだろう…… そう思いながらカレンダーを見ると、月のものが来ていないことに気がついた。 最近体調が悪いことも多かったし吐き気もすることがあったので、もしかしたらと思った。 大事なおじい様の喪に服している時に、もし妊娠してしまっていたら…… 悠一さんは、自由の身になりたいと思っていて、迷惑だと感じるかもしれない。 おじい様がいなくなってしまったら私と結婚生活を続けている意味なんてないと考えている可能性だってある。
last update最終更新日 : 2025-09-08
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5 契約結婚の結末……2

 子供ができていたとしても産むことを許してくれるだろうか。 もしかすると、産むことすら許してくれない可能性だってある。 本当に妊娠していたら私は絶対に子供を産みたい。 悠一さんの本心はわからない。私に対する愛情はないかもしれない。 でも私は彼のことを間違いなく愛しているのだ。 だんだんと気持ちが暗くなっていく。 考え込んでいても前には進めない。わかっているけれど恐怖心が支配し頭も体も動かなかった。 少し気持ちをつかせるために温かいお茶を飲んで深呼吸を繰り返した。 こんなことばかりしてはいられない……。 まずは事実確認をしなければと思い、私は妊娠検査薬を購入することにした。 外出する準備を済ませ外に出るけれど頭の中がぼんやりとしていた。 近所のドラッグストアに入ったが、妊娠検査薬がどこにあるのかすぐには探せなかった。普段迷ってしまったら店員に「どこにありますか?」と質問するけど、今回はなかなか勇気が出なくて自力で探すことにした。 やっと見つけたけれどなかなか手に持つことができない。 現実を受け止めなければいけないと思っているのに、どこか目をそむけたい自分もいる。 妊娠検査薬を手に持つと私は誰かに見られたら困ると思ってダッシュでレジまで向かった。 購入するだけでも緊張で手が震えてしまった。
last update最終更新日 : 2025-09-10
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5 契約結婚の結末……3

 家に戻ってきて深呼吸をしてからお手洗いに入る。 結果が出るまでそんなに長い時間ではないはずなのに永遠かと思うほど長い時間だった。 結果は陽性だった。 心から愛する人の子供がお腹の中にいるのだと思うと、体の底から湧き上がってくる歓喜に包まれる。「……赤ちゃんが、ここにいるの?」 まだ全然膨らんでいないお腹を見て不思議な気持ちになった。 お腹にそっと手を触れて何度も撫でた。 喜びと不安と困惑が一気に感情が押し寄せてきた。 まだ病院に行ってないから確実ではないけれど、タイミングからして、あのクリスマスの夜に初めて抱かれた日だろう。 愛されていると感じた聖なる夜の出来事。「……産みたい」 素直な気持ちが口に出た。 でも、もしもおじい様のために結婚したのであれば……。 亡くなってしまった今、私の存在は鬱陶しいだろうし、子供ができたことも喜んでくれないかもしれない。 もし嫌な顔をされてしまったらどうすればいいのだろうか。考えるとだんだんと怖くなってきた。 悠一さんには、すぐに知らせるべきなのか。確実になってから知らせるべきか。とても自分で勝手に病院を決めていくのも何か違うような気がする。 ホルモンバランスが崩れているせいか、考えても悪いことばかり想像してしまう。「どうしたらいいの……」 つぶやいた声は静かな部屋に消えていった。
last update最終更新日 : 2025-09-11
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5 契約結婚の結末……4

 その日の夜。 私はぼんやりとキッチンに立っていた。「……き、美月?」 名前を呼ばれていることも気がつかずに、ハッとして振り返ると彼が立っていた。「おかえりなさい」「どうしたんだ? 名前を呼んでいるのに気づかないなんて。体調でも悪いんじゃないか?」 心配そうに近づいてきて私の額に触れる。「少し熱っぽい感じもするな。無理しないで休んでいたほうがいい」「……大丈夫ですよ」 目を合わせて話すのも気まずい。 妊娠しているということを隠している自分にもイライラするし、でも伝えたところで嫌な思いをさせてしまうかもしれない。「顔色も悪い。何かあったんじゃないのか?」 私の心を見抜かれているような感じがして、顔を背けた。「もう少しで出来上がるのでちょっと待っててください」「美月……。今は言いたくないことなんだな。ちゃんと話してもいいと思う日が来たら伝えてくれ」 どのタイミングで伝えたらいいかわからず、私は思い悩んでしまう。 誰にも相談できないし不安で怖くてどうしようもない。 妊娠検査薬で陽性と出てから、二週間が過ぎていた。 いつまでもこのままにしておくわけにはいかないし、お腹の子供のことも心配なので通院したい。 勝手に病院を予約して行ってこようかとも思っている。 スマホで近くの病院を探しているとチャイムが鳴った。 訪ねてきた人は七瀬さんだった。 何か悠一さんの大切な書類でも取りに来たのだろうかと思ったがそんな感じでもない。「奥様にお話があってきました。もしよければ、少しお邪魔してもよろしいでしょうか?」 断る理由もないので、リビングに通した。「……どうぞ」 お茶を出す。 張りつめた空気が流れていた。「何かあったのでしょうか?」「とても言いにくいのですが……。そろそろ離婚をしていただけないでしょうか?」「り、離婚ですか?」 頭を金槌で殴られたかのような強い衝撃が走った。
last update最終更新日 : 2025-09-12
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5 契約結婚の結末……5

 夫婦の間で話し合うべきことを、なぜ秘書の七瀬さんに言われなければならないのだろう。(悠一さんが指示をしたの?)「どうしてですか?」「おじい様もお亡くなりになりましたし、自由になりたいと副社長は思っております。副社長は本来結婚したいと思っていなかったのです。仕事にまっすぐに進んで、跡継ぎはいらないと思っています。世襲制を排除したいと思っているのです」 そんなことを考えていることを知らなかったが、親の敷いたレールを歩いてきたと思って辛い思いをしてきた彼にとっては、そういう考えに至っても不思議ではない。 妙に説得力があったので私は話に聞き入ってしまった。「家族が引き継いでいくのではなく、実力のあるものが社長になっていくべきだと言っています。そういう考えのもと、たくさんの人に認めてもらいたいとの気持ちで一生懸命働いているのです。秘書として私は近くで見て痛いほど気持ちがわかりました」 働いている彼の姿というのは、ほとんど見たことがない。 会社に行って社員たちと少し話しをしているのを見ただけだ。 いつもそばにいる秘書でしかわからないところも多々あるだろう。「指示されていらしたのですか?」「いえ、彼はとても優しいお方です。自分の口から言えないので、私が代弁しにやってまいりました」「……しかし」 彼は本当に私のことを大切にしてくれて、愛情表現もいっぱいしてくれた。 だからおじい様のためだけに結婚したというのは違う気がする。 不安で本当のことを聞いてこなかった自分も悪いけれど、悠一さんの態度から彼を信じたいと思うのだ。
last update最終更新日 : 2025-09-15
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5 契約結婚の結末……6

「話してくれた内容は、知りませんでした。でも……」「知らないということは奥様のことを信用していないという証拠ですよね」 きつい言葉を言われて心臓が刺されたかのように痛くなった。 胃がムカムカとしてくる。「こんなに大きな財閥の副社長が簡単に離婚すると世間的に評判が悪くなると思うんです。二人でよく話し合って決めていきたいと思います」 本当は怖くて怖くてたまらなかったけれど、私は強気で言い返した。 すると彼女は眉間にしわを寄せた。「たしかに私が首を突っ込むことではありませんね。大変失礼いたしました。しかし副社長にとってどの道が一番幸せなのかということをお考えになってください」「そうですね」「このことは内密にしてください。もちろん副社長にも。それでは」 七瀬さんは立ち上がり、頭を下げて退出した。 強がってみたものの、怖くて心配で仕方がない。 悠一さんは、無理をしているのではないか。考えれば考えるほど、わからなくなってしまった。 でも落ち込んでいる場合ではない。 お腹の中には新しい命が宿っているのだ。母親としてしっかりしなければならない。 私は大きく頷いて決意をした。 今夜、悠一さんが帰ってきたら気になることを聞いて、産みたいと伝える。「どんなことがあっても、お母さんが守るからね」 子供に向かって話しかけた。
last update最終更新日 : 2025-09-15
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