LOGIN老舗旅館の娘の仙田美月は、養子として育てられ旅館を手伝っていた。夫婦の間に本当の子供ができてからは家政婦のような扱いを受け、生きていく意味を見失っていた。そんなある日……突然契約結婚をすることになって……
View More「美月」 「はい」 「事後報告になって申し訳ないんだが、美月の実家を売ることになった」 「そうだったんですね。従業員はこれからもちゃんと働けるのですか?」 「それは大丈夫だ。契約に入れてある」 「ありがとうございます。それなら安心です」 悠一さんは、私の知らないところで実家の両親についていろいろ対応策を考えてくれていたらしい。 その結果、義堂家と縁を切るのが一番だと思ったらしく、他の会社に売ることが決定したとのことだった。 「勝手に決めてしまって申し訳ない」 「いいえ。私は実家を出る時にどんなことがあってももうここには戻ってこないって決めたんです」 「最後に挨拶に行くか?」 私は少しだけ考えて頭を左右に振った。 「お礼の手紙を書いて終わりにします」 「わかった」 「今まで育ててもらって食べさせてもらった恩は感じているのですが、私はこれから悠一さんと生まれてくる子供と明るい未来を生きていきたいです」 悠一さんは優しい笑みを浮かべる。 「自分の気持ちをちゃんと伝えてくれて嬉しい。美月は強くなったな」 「悠一さんのおかげです」 長い腕で私のことを抱きしめた。 「絶対に大切にする。これからも安心してついてきてくれ」 彼の胸の中は温かい。窓から入ってくる夕日よりもずっと。 生まれてくる子供に夫婦二人で愛情を注ぎ、幸せいっぱいな家庭にしていきたい。 完
『奥様へ。ご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした。私はずっと副社長のことが好きで、いつかは自分と一緒になってほしいと思っていたのです。愛されている奥様のことが羨ましくて、女の汚い嫉妬心から破滅することを願ってしまったのです。こんなに汚い心の私はどうしようもない人間です。深く反省しております。今まで彼のそばで秘書として働かせてもらったことに感謝し、また一から勉強して、まっとうな社会人生活を送れるよう頑張ってまいります。いつでも幸せにお過ごしください』 七瀬さんも悠一さんのことが好きだったのだ。その気持ちを知ってせつなくなった。彼女もどこにいるかわからないけれど、元気で明るく過ごしてほしい。 * それからも順調にお腹の子供は成長し、現在は四ヶ月を迎えたところだ。 まだ悠一さんのご両親にしか公表していない。もう少し時期を見て発表することになっている。 今日は日曜日ということで、自宅でゆっくりと過ごしていた。 少し遅めの朝食を食べて、リビングで映画を観る。 実家にいた時は自由に映画を見ることもできなかったと話したら、プロジェクターとスクリーンを用意してくれた。 最近は映画を見ることがマイブームだ。 お腹の赤ちゃんのためにも好きなことをしてストレスを溜めないように過ごしている。「この映画、すごく面白かったです。続編も観てみようかな」 私がはしゃいでいると彼は自分のことのように嬉しそうに笑ってくれるのだ。
数日後、婦人科を受診することになり、悠一さんも一緒に病院についてきてくれたのだ。彼が紹介してくれた病院は、都内でも人気の産婦人科で、まるでホテルのような作りになっている。 予約が殺到していてなかなかそこで出産することができないらしいが、特別そこで出産できることになったのだ。 しかも担当してくれたのは院長先生。財閥の力を使ったような気もしたけれど、悠一さんの愛情なのだと思って受け取らせてもらうことにした。「おめでとうございます」 私は妊娠していると診断された。「美月、本当に良かった。無理だけはしないでくれ」「大丈夫ですよ。病気じゃないんですから」「それでも心配なんだ」 私と夫のやり取りを新しい秘書がニコニコと笑いながら見ている。 車の中にいて前には運転手と、秘書が同乗していた。 七瀬さんは、あの後、秘書を解任された。 そして、彼女は会社で働くのが気まずくなってしまい、自ら退職を申し入れたそうだ。 悠一さんは『すぐに解雇する』そう言っていたけれど、今まで彼女のおかげで働けてきたところもあるだろうし、最悪なことはしないでほしいと私がお願いしたのだ。でも、七瀬さんの決意は固かったらしい。 退職してから数日後、お詫びの手紙が届いていた。封筒の裏を見ると名前だけが書かれていて住所は書かれていなかった。
「これからは悠一さんに恩返しをして生きていきたいです」「ん? 今でも十分だ。美月のおかげで俺は幸せだ」 私と彼は本当にお互いの気持ちが通じ合い、キスをした。 唇が離れると私は子供ができたことを伝えなければというプレッシャーにかられていた。 きっと喜んでくれるに違いないけれど……。緊張しながら口を開いた。「実は妊娠したかもしれません。検査薬で陽性だったんです」「何だって?」 今までに聞いたことがないくらい一番大きな声で驚いている。「伝えようか伝えないかずっと悩んでいて」「どうしてそんな大切なことを言ってくれないんだ。美月」「私の心の問題でした」「いや、不安にさせてしまっていたということは、俺の愛情がまだまだ足りなかったという証拠だ」 そう言うと顔をぐいっと近づけてきてにっこりと笑った。そして優しく抱きしめてくれた。「愛する人のお腹の中に自分の子供がいるなんて幸せすぎる……」「私もです」 額をくっつけ合っていつまでも体温を感じた。「……悠一さん、私のことを愛していると言っていたのに……なぜ手を」「いったい、何を気にしているんだ。嫌われたくなかったからだ」「そ、そうだったんですね」 気になることが解決しスッキリし、私と悠一さんは楽しい夜を過ごしたのだった。
「ただ後半は間違っているな。祖父を安心させたい気持ちはあったが、何よりも俺は愛する人を手に入れたかった。そして愛する人にも愛してもらうことができたら、子供が欲しい」 ストレートな言葉が心の中に入ってきた。やっぱり彼のことを信じて良かった。 周りの人が色んなことを言うかもしれない。でも私たち夫婦は私たちなりに話し合いこれからの未来を一緒に進んでいく。これが結婚して夫婦になったという証拠なのかもしれない。これからもいろんな困難に出会うことだろう。 今までは自分の気持ちを隠して生きて行くしかないと思っていたけれどこれからは正直に気持ちを伝えていこうと決意した。「初めは私なんか幸せになれない
「話してくれた内容は、知りませんでした。でも……」「知らないということは奥様のことを信用していないという証拠ですよね」 きつい言葉を言われて心臓が刺されたかのように痛くなった。 胃がムカムカとしてくる。「こんなに大きな財閥の副社長が簡単に離婚すると世間的に評判が悪くなると思うんです。二人でよく話し合って決めていきたいと思います」 本当は怖くて怖くてたまらなかったけれど、私は強気で言い返した。 すると彼女は眉間にしわを寄せた。「たしかに私が首を突っ込むことではありませんね。大変失礼いたしました。しかし副社長にとってどの道が一番幸せなのかということをお考えになってください」「そう
その日の夜。 私はぼんやりとキッチンに立っていた。「……き、美月?」 名前を呼ばれていることも気がつかずに、ハッとして振り返ると彼が立っていた。「おかえりなさい」「どうしたんだ? 名前を呼んでいるのに気づかないなんて。体調でも悪いんじゃないか?」 心配そうに近づいてきて私の額に触れる。「少し熱っぽい感じもするな。無理しないで休んでいたほうがいい」「……大丈夫ですよ」 目を合わせて話すのも気まずい。 妊娠しているということを隠している自分にもイライラするし、でも伝えたところで嫌な思いをさせてしまうかもしれない。「顔色も悪い。何かあったんじゃないのか?」 私の心を見抜か
子供ができていたとしても産むことを許してくれるだろうか。 もしかすると、産むことすら許してくれない可能性だってある。 本当に妊娠していたら私は絶対に子供を産みたい。 悠一さんの本心はわからない。私に対する愛情はないかもしれない。 でも私は彼のことを間違いなく愛しているのだ。 だんだんと気持ちが暗くなっていく。 考え込んでいても前には進めない。わかっているけれど恐怖心が支配し頭も体も動かなかった。 少し気持ちをつかせるために温かいお茶を飲んで深呼吸を繰り返した。 こんなことばかりしてはいられない……。 まずは事実確認をしなければと思い、私は妊娠検査薬を購入することにした。