直樹は椅子に崩れ落ち、手に持ったファイルを震わせながら呟いた。「綾乃と蒼真が、柚葉を傷つけてた……?柚葉は、あの子のことも知っていた……?」その二つの言葉を何度も繰り返しながら、表面上は信じたくないふりをしても、心の奥ではすべて分かっていた。柚葉が自分にこんなに強く離婚を迫るのは、それ以外にありえない。思い至ると、直樹は突然立ち上がり、慎一に別れも告げず病室を飛び出した。その様子を見送って、慎一はゆっくりと携帯を取り出し、柚葉に電話をかけた。「なに?直樹が離婚に同意しない?」柚葉の声は震え、顔は真っ青になっていた。「どうして離婚したくないの?まさかやり直せると思ってるの?お願い、お兄ちゃん、助けて!」「心配するな」柚葉の声に胸を締めつけられ、慎一も思わず声を柔らげる。「何があっても必ず、あいつに離婚のサインをさせてみせる」電話を切ると、柚葉はぼんやりと窓辺に座ったまま、胸が苦しくてたまらなかった。東都を離れて、直樹のもとを離れれば、何もかも元通りになると思っていた。もう二度とあの人に傷つけられることはない、そう信じていた。けれど、最後の最後で直樹が離婚を拒むことだけは、まったく予想していなかった。なぜ?彼はもう自分に何の未練もない。いや、もともと愛なんてなかったはずだ。それなのに、どうしてこんなにも自分に執着するのか。柚葉は苦しそうにこめかみを押さえ、ふと窓の外を見ると、遠くから晴斗(はると)が走ってくるのが見えた。晴斗と再会してから、ようやく心に平穏が戻った気がした。何年も離れ離れだったのに、やっぱり血のつながりは消せない。この半月、一緒に暮らすようになって、二人はすぐに本当の親子のように心を通わせるようになった。柚葉の顔色が冴えないのに気づくと、晴斗はすぐさま駆け寄って、彼女の腕にしがみつく。「ママ、どうしたの?もしかして、僕が何か悪いことした?」その一言に、柚葉の胸がまた締めつけられる。晴斗は幼い頃から親の愛情を知らず、ひとりで児童養護施設で育った。人の顔色をうかがうのが、彼にとっては生きていく術だった。そんなことを思いながら、柚葉はぎゅっと息子を抱きしめ、その小さな頬にそっとキスをした。「晴斗のせいじゃないよ。ママを困らせたのは、別の悪い人なの」「じゃあ、その
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