本来、颯真に勝ち目はまったくなかった。だが最後のコーナーで、彼は命を賭けるようにアクセルを踏み込んだ。観客席から一斉に歓声が上がり、その声に押されるように、彼の車はまるで弓から放たれた矢のように突き進んだ。歓声と喝采のなか、颯真は他の車を振り切って、真っ先にゴールラインを通過した。しかしスピードがあまりにも速すぎたせいで、ブレーキが効かなくなった。車はそのまま国道方面へと突っ込んでいった。車体がどんどん制御不能になっていくのを見て、観客たちの心臓は凍りついた。刹那の判断で、颯真はタイミングを見計らってドアを開け、飛び降りた。「ドンッ!」という鈍い音とともに、埃が舞い上がり、彼は道路脇のフェンスに激突。額を打ち付けて血が流れた。彼のわずか200メートル先で、車がフェンスに衝突し、「ドカン」という爆音と共に炎上。破片が四方に飛び散った。火の熱風に吹き飛ばされ、彼は再び地面に叩きつけられた。だが、不思議と痛みは感じなかった。むしろ口元には笑みが浮かんでいた。立ち上がろうとするが、体に力が入らなかった。視界がぼやけ、周囲のすべてがスローモーションのように感じられた。その中で、彼はあの人を――静香を必死に探した。そして、見つけた。彼女は、背を向けて去っていくところだった。声をかけたくて、唇を動かした。「見てくれ、俺はやったよ……!」でも、声が出なかった。意識がどんどん遠のいていった。ついに、颯真はその場に崩れ落ちた。目を覚ましたとき、全身がトラックに轢かれたような激痛に襲われた。顔は青ざめ、汗がにじんだ。壁の時計を見ると、七日間の約束まで、もう1時間も残されていなかった。彼は迷わず点滴の針を引き抜き、看護師や秘書の制止を振り切って、ふらつきながらも霍見家の別荘へ戻った。だが、静香はすでに別荘を出ていた。颯真の胸に鋭い痛みが走った。彼は静香の元へ向かい、必死に立っていられる体を支えながら、弱々しい声を絞り出した。「静香……君は、俺が一位を取ったら……って……」「おめでとうございます」彼女の声は氷のように冷たかった。彼は彼女の手を掴み、懇願した。「お願いだ、行かないでくれ……」あとから追いついた秘書は、彼の姿に思わずため息をついた。かつての霍見颯真――誰もが見上げる男が
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