紬希を乗せた専用機は、現地のプライベート滑走路に静かに降り立った。十数時間にも及ぶフライトで、彼女の身体はさすがに疲れていたが、異国の空と新しい景色を窓越しに見つめていると、心の奥に澄みきった風が吹き抜けるようだった。タラップを降りると、出迎えの現地支社スタッフが三列に並び、彼女の到着を盛大に歓迎していた。「深見社長、長旅お疲れ様でした」先頭に立つ男が、事前に用意した花束を彼女に手渡す。「深見社長」――その呼び名は、今の紬希にとても心地よかった。「あなたの名前は?」と、紬希は年若く見えるその男に目を向ける。「深見社長、僕は安原郁弥(やすはら いくや)、エンカプロジェクト部のマネージャーです」男はまっすぐに目を上げ、紬希の視線をしっかりと受け止める。紬希は、この数年間、自分の暮らす街で顔を合わせた名家の御曹司は千人とまではいかなくとも、数百人には上った。たが、目の前の男ほど独特の品と余裕をまとった人間には出会ったことがなかった。郁弥は、端正なスーツに包まれた背の高い体躯、しなやかな肩幅と引き締まったウエストを誇り、きりりとした目元には、柔らかな微笑みと絶妙な集中力が同居している。――凌也ですら、彼の前ではかすんでしまうほどだ。思わず、紬希は彼を二度三度見直してしまう。郁弥は、そうした視線に慣れているのか、自然体でその場に立ち、堂々と紬希に見られるままになっていた。「深見社長、まずはホテルでお休みください。ご宿泊先はすでにご用意してあります」郁弥の言葉に、紬希は我に返る。彼女は軽く咳払いして言った。「いえ、まずプロジェクト部を見ておきたい。今回は進捗管理が目的だから、仕事が最優先よ」「承知しました。エンカプロジェクト部はいつでも深見社長のご視察をお待ちしています」――三十分後、紬希はプロジェクト部に到着した。想像していたよりも質素な環境ではあったが、中はよく組織され、スタッフ一人ひとりがそれぞれの持ち場で黙々と働いていた。だが、これまでのグループレポートでは、エンカプロジェクトは管理の混乱や生産効率の低さなど、数々の問題が指摘されていたはずだ。いったい、どういうことなのだろう?紬希の困惑に気づいたのか、郁弥が一歩近づく。「深見社長、ご期待と違っていましたか?」紬希は正直に
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