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第14話

Auteur: 秋月静葉
このところ、凌也はあらゆる手段を使って紬希と連絡を取ろうとした。

彼女のすべてのSNSにメッセージを残し、繰り返し謝罪の言葉を送り続けた。

【紬希、俺が間違っていた。本当に自分の愚かさを今さら思い知った。ようやく気づいたんだ、心の中で一番大切なのはずっと君だったって。どうか、もう一度だけ俺にチャンスをくれないか?】

【紬希、俺はもう玲奈とは完全に縁を切った。あんな女の嘘を信じた俺が馬鹿だった。君を傷つけたこと、もう二度と取り返せないと分かっている。それでも、この想いだけは本物だった。君が俺をどれほど想ってくれていたかも、今なら分かる。これからの人生をかけて君に償わせてほしい】

【君がどう思おうと、俺はずっと国内で待ち続けるよ。これからの人生、君だけがすべてだ。『ただ一人の心に添い、老いるまで共にいる』――昔、誓った言葉は今も本気だ】

……

その言葉の数々を目で追いながら、紬希の胃の奥に鋭い吐き気がこみ上げてきた。背中を冷たいものが這い上がるような、不快な感覚が止まらない。

――なぜあの頃、自分はこんな偽善的な男に夢中になってしまったのだろう。

今となって彼女は、もうすっ
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