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All Chapters of おいしい契約恋愛: Chapter 351 - Chapter 360

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351.巡る運命⑨

「依那。少し歩いて帰ろうか」それからお店を出て、慧さんがそう声をかける。「はい」慧さんの隣に並んで歩きながら、あたしも返事を返す。「慧さん。今日は一緒に来てもらってありがとうございました」「ん」慧さんが微笑みながら返事をしてくれる。「二人に慧さんのこと、紹介出来てよかったです」「うん」「あんなに女将さんも感動してくれるなんて思ってなかったです。帰り際に、ホント涙ぐんで、慧さん紹介したこと、すごい喜んでくれてました」「そう……なんだ……」「はい。女将さんと知り合ってから、あんな女将さん初めて見たんで、ちよっとビックリしたんですけど」 女将さんは、どちらかといえば、いつも明るくて、感情的になるとこはもちろん見たことがなかった。女将さん、あんなにこども食堂に思い入れあったんだなぁ。でも、それほど思い入れあるのって、どうしてだろう。何か理由あったりするのかな……?「依那は、あのお店のご夫婦と知り合ったのは、どういうきっかけだったんだ……?」すると、慧さんが隣から尋ねてくる。「あぁ。あたしが高校生くらいに父が偶然見つけたお店なんですけど。たまたま新しく出来たお店だったらしくて、最初の頃からの父が常連なんです。そのうち、家族みんなで行くようになってって感じですかね」「そう……。あの女将さん、依那の母親代わりみたいなもんだったって言ってたけど。向こうには子供も本当にいないって……?」「あっ、はい。そうみたいです。夫婦二人であーやってお店やっていけることで十分幸せだからって」「そう……。いないのか……」「はい。自分に子供がいない分、愛が足りていない子供たちに、少しでも自分たちが力になってあげたいって女将さん言ってました」「愛が足りない……ねぇ……」慧さんは、その話を聞いて一人ボソッと呟く。「依那さぁ。あの、女将さんの名前って、知ってる……?」「えっ? 名前ですか?  えーっと、確か……、小夜子さんです」ん?  慧さん、なんで女将さんの名前なんか?「…………」「慧さん……?」名前を聞いてきたのに、なぜか慧さんは無反応でただ黙り込んでいる。なんか今日こんな慧さん多い気がするのは気のせいだろうか。あんまりこんな慧さん見たことないだけに、少し気にかかる。あたしと話してて、こんな風にボーッとして黙り込むこととか今まで一度もな
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352.巡る運命⑩

そんな慧さんが気になって、隣を歩きながら慧さんを見つめていると……。「ハハッ……。まさか本当にそうだったとはな……」慧さんが少し視線を落としながら、なんだか悲しそうに笑ってそんな言葉を呟く。「え……?  どうしたんですか? 慧さん……」あたしがそう聞き返すと、慧さんは。「うん……」あたしの問いかけに微妙な反応を示す。何か多分、慧さんの中で思ってることがあるのは違いなくて。だけど、それを自分の中で考え込んでいるような、そんな感じに見えてしまう。あたしはそんな慧さんを感じ取りつつ、それ以上何も聞けなくて、そのまま慧さんの隣を歩く。そんな時間がどれくらい続いただろう。何分もそんな沈黙が続いて、あたしはただひたすら慧さんが話始めるのを待っていた。「あの人……。あの女将さん……」すると、ようやく口を開いた慧さん。そしてその言葉はなぜか女将さんの名前。「はい……」「母親だった……」「え……?  母親って……?」慧さんのその言葉にあたしは、立ち止まって聞き返す。「オレを昔捨てた母親だよ……」「えっ……? 嘘……。あの、女将さんが……、慧さんの、お母さん……?」えっ、そんなことってある……? まさかの女将さんが慧さんのお母さんだなんて……。「母親のことはなんとなくしか正直覚えてなかったんだ。あの頃の記憶は曖昧というか……自分の中であまり思い出したくない記憶になってたから……。だけど不思議なもんだよな。なんとなくわかっちゃうんだよ、そういうの……」「慧さん……」「最初は特に気付かなかった。でも、ふと笑った時の表情とか、やっぱ面影あんだよな……」慧さんはどこから気付いてたんだろう……。どんな気持ちであの時あの場にいたんだろう……。そんな気持ちの中、慧さんはそれを隠して、ちゃんと挨拶までしてくれたってこと……?慧さん、一切なんの動揺もしてなかった。それどころかいつものように余裕があって……。だけど、そんな慧さんが唯一気弱になってしまうのは、ご両親の話になる時で……。そんな原因かもしれないお母さんが、女将さんで……、その人が目の前にいて、それであたしが感謝までしてる存在として紹介して挨拶するだなんて……。どうしよう、そんな辛い想いさせてただなんて……。言葉にならないほどの後悔と切なさと辛さで、胸が苦しくなる。
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353.巡る運命⑪

「ごめんなさい……」あたしはその場で立ち止まって、俯いたまま慧さんに告げる。すると、少し前まで歩いていた慧さんが振り返って。「え? どした? 依那」逆にそんなあたしに心配そうに声をかけてくれる。「慧さんのお母さんだなんて知らなくて、あたし……」知らないとはいえ、あんな無神経に会わせてしまったこと。あたしの母親代わりだなんていって紹介してしまったこと。そんな中で、慧さんにお付き合いの挨拶をさせてしまったこと。今起きたすべてのことに申し訳なく思えて、泣きそうになる。「フッ。なんで、依那が泣きそうになってんの」そして、泣きそうになるのを堪えてたあたしを、傍まで近づいた慧さんが顔を覗き込み、そんなあたしを見て優しく笑う。「だって、何から謝ったらいいか……」いろんな想いは溢れてくるのに、どう言葉にすればいいのかわからない。何から謝ればいいかわからない。「いや、違うから。オレは依那をそんな悲しませたくて言ったんじゃない」「だって……」「でもまぁ、そっか、こんなタイミングで依那はいきなりそんなこと聞かされたらそう思っちゃうよな」あたしを覗き込んだ慧さんは、変わらず優しく微笑む。「依那」あたしの名前を呼んで、そんなあたしの手を握る慧さん。「家に帰って、ゆっくり話しようか」「はい……」「ん」そう返事したあたしの手を、慧さんはちゃんと繋いで、隣に並んでまた歩き始める。慧さんのが絶対苦しいはずなのに、どうしてこんなにこの人は優しいんだろう。関係ないあたしが泣いちゃダメだとわかっているのに、慧さんの辛さを考えると、胸が痛んで涙が出てしまう。こんな状況なのに、あたしを包み込んでくれる慧さんが優しすぎて涙が出てしまう。そんなあたしの手をしっかり握って引っ張って歩いてくれる慧さんは、ホントに頼もしくて。そして、その手からは、慧さんの気持ちが伝わってきそうな、優しさの中に少し強さがあるような……。だけど、なんだかその繋ぎ合っている手から、慧さんの隣にいていいんだよと言ってくれてるようで。慧さんとしっかり手を繋いで、今隣で歩けていることに、嬉しさで心が温かくなった。
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354.二人が出会った意味①

それから家に帰って、いつものようにリビングのソファに二人並んで座る。「依那。まず約束してくれるか?」「えっ、何を……ですか?」「今からする話で、依那が悪いと感じて謝るのは禁止。依那が気にすることは一切ないから。今から話すことは、オレとあの人との話だから」「でも……」「依那がそんな気持ちで聞くなら、この話はしない」「――嫌です! 慧さん一人で抱えるなんて絶対嫌です!」「ん。オレは、依那には悲しむんじゃなく、支えてほしい」「慧さん……」「今はオレの隣には依那がいる。だから大丈夫だ」「はい……」「ん」あたしにそう伝えながら、隣で優しくあたしの手を握って微笑む慧さん。こんなんじゃ、どっちが悲しんでるんだかわかんないや……。「慧さんは……、平気ですか?」「あぁ。依那がいてくれるから平気だ」「あたしが、いるから……ですか?」「そう。……まぁ、本音を言えば、まったく平気かって言われれば、そうとは言い切れない」「……ですよね……」「自分の中でも、自分の中でどう受け止めていいのかもよくわからない」「はい……」「オレを捨てて選んだことには変わりないんだし、そしてそこまでして一緒になりたかった相手があの大将だったんだよな……」そうだ……。慧さんの前からいなくなった理由、それだった……。だけど……、あたしが出会ってからの女将さんは、確かに大将と仲がいいけど、そんなに酷いことをする人だとはどうしても思えなくて……。あたしの母がいなくなってから、女将さんはずっと親身になってくれていた。他人のあたしでさえ、あんなに向き合ってくれていた人なのに、自分の子供を簡単に平気で見捨てるようなそんな人なんかじゃないはず……。大将もすごくいい人だし、理由を知っていれば、そんなことになっていなかったような気さえもしてしまう。だから、慧さんと離れることにならざるを得なかった理由が何かある気がして仕方ない。「でもなんかわかるよ」「え……?」「あの大将。穏やかで優しくて……。あの人が惹かれる気持ちはなんとなくわかる気がする」「そうなんですか……?」「うちの父親とは正反対だから」「え……?」「うちの父親は、自分が絶対主義で、自分が正しいと思うことは曲げない人だった。たまに会う時でも決して温かかったり穏やかな時間なんてものはなかったんだよね。母親の意
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355.二人が出会った意味②

「だけどさ。あの大将は、あの人のやりたいことも、意見もちゃんと聞いてあげてる。話し方も、接し方も、穏やかで……。ちゃんとあの人自身を見てる人なんだなってそう感じた」「確かに……、大将は昔からすごく女将さんを大切にされてるんだなって印象はあります。二人で一緒に二人三脚でやってきたみたいな、そんなイメージというか……」「……そう。あの人は、ちゃんと大切にしてもらえてたってことなんだな……」「はい。それはそうだと思います……」「うん。正直オレを捨ててまで手にした幸せが納得出来ないものだとわかったら、もしかしたらオレはもっと穏やかでいられなかったかもしれない」「え……?」「だけど、オレを捨てたあとに大将との幸せがあったのなら、仕方なかったのかもしれないな」「でもその選択をしたことで、慧さんは……」「うん。辛くて寂しい想いをしたのは事実。だけど、それがなければ、オレは今ここにこうしていなかったと思うから」「え……、どういうことですか……?」「もし母親とずっと一緒にいたら、また違った人生だった」「それは今の慧さんじゃなかったかもしれないってことですか……?」「そうだな……。もし今の状況になってなければ、柾弥とここまでガッツリつるむこともなかったと思うし、今の仕事も一緒にしてなかっただろうな」「そうなんですね……」「父親の家庭に引き取られて転校したから、柾弥と出会えたんだ。柾弥と出会えたから、今の仕事をしようって思ったし、それが出来たことで依那とも出会えた」「そっか……。その選択じゃなければ、あたしは慧さんと出会えてない運命だったかもしれないってことですよね……」そうだ。そういうことだ。慧さんがこの会社を作ってくれたことで、あたしは慧さんに出会えて、今一緒にいることが出来ている。今のあたしは慧さんがすべてで、慧さんがいるから今の自分がいる。慧さんを好きになれたことも、一緒にいることも、好きになってもらえたことも、すべてなかったことになる現実もあったかもしれないんだ……。今のこの現実が違ってしまうなんて……、この幸せが存在しないだなんて……。そんな慧さんといられない未来になっているかもしれないと、そんな想像するだけで怖くなる。「オレさ……、正直、母親に捨てられてから、自分は誰にも必要とされない人間なんだって、ずっと思ってたんだ」「え…
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356.二人が出会った意味③

「それからかな。人と向き合おうと思えるようになったのは」「人と向き合う、ですか?」「そう。仕事でも私生活でも、ちゃんと人と向き合ってみたいって思った。そりゃ中には、自分と合わない人もいるけどさ。でも、ただ合わないってだけで終わるんじゃなくて、なんで合わないのか、どうしたら合うのかってことを考えるようにした」「その人と合うかを考えたってことですか……?」「あぁ。だからといって皆が皆合うとも思ってないし、わかり合えなくても仕方ないこともあると思う。だけど、自分なりに歩み寄りたいとは思うようになったんだ。自分が気付いてないだけでわからないだけで、相手はどう思ってるのかなんてわからないだろ?」「確かに……、わからないと思うだけで何もしなかったら何もわからないし変わらないですもんね」「うん。なんにしてもそれぞれ理由があるとしたら、自分は出来るだけ理解していきたい」「はい……」そっか。だから慧さんは一つ一つの仕事に真摯で向き合える人なんだ……。そんな過去があったからこそ、今の慧さんがあるんだ。その現実から慧さんは逃げずに向き合っているんだ。そんな自分だからダメだと思っていた慧さんを、本村さんが救ってくれて、今では慧さん自身でたくさんの人に気持ちを返している。こんなに素敵な人なのは、そんな過去があることがマイナスなんじゃなく、それがあったからこそ、こんなに素敵な人になったのかもしれない。きっと誰より心の痛みをわかる人。だからきっと何に対しても真剣で心に寄り添える人なんだ。「それでも、もし、わかり合うことが出来なくて自分から離れていく人がいるのなら、それは縁がないということだし、それもきっと何らかの意味があると思ってる」「意味……」「そう。自分がわかり合いたいと思ったとしても、ホントは関わらなくてもいい縁がなくていい人もいるかもしれないし、違う選択の方が幸せになれることもあるかもしれない。それの正解は誰にもわからないけどさ。そういう時は、きっとそれがその時の最善なんだと思うようにしてる。いい意味じゃなくてもそうじゃなくても、それがどこかの自分の人生に繋がってると思うから……」「うん……。そうかもしれないですね。もし今が幸せなら、それまでの選択や、繋がらなかった縁も運命なのかもしれないですよね」うん。たとえわかり合えたからといって、それがいい選
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357.二人が出会った意味④

「ありがと。依那」「え? 何がですか?」「オレと出会ってくれて」「そんなのこちらこそです!」「そうやっていつも依那はオレにずっと向き合ってくれてたから、オレも依那を好きになることが出来た」「あたしはただ全力なだけですよ? それより慧さんが人と向き合おうとしていたからじゃないですか?」「そりゃ仕事ではそうかもしれないけど。でも誰かを愛すことがこんなにも幸せなんだって思わせてくれたのは依那だけだから」「あたし、だけですか……?」「そう。言っただろ。オレは誰にも愛される期待持つのをやめたって」「あっ……」「でも、きっとオレは本当の愛の意味っていうのも知らなかったんだろうな」「本当の愛……」「誰か一人でも自分を信じて愛してくれる、自分が愛することが出来る存在がいるということは、こんなにも自分にとって大きな力になるんだってこと依那がオレに教えてくれたから」「慧さん……」誰も信じることが出来なくて、愛するという意味がわからなかった慧さん。きっとそれは絶対どこかで慧さんへの愛は存在していたはずなのに、慧さん自身はそれを感じることが出来なかった。だけど、あたしが今慧さんをこんなにも好きで、その気持ちをたくさん伝えることが出来る。あたしが誰より慧さんを大切に想っていて、慧さんが誰よりも愛する存在だと、あたしが何度でも伝える。きっとホントは慧さんはとても愛に溢れた人で、それをたくさんの人に分け与えてあげられる人。慧さんの存在で、きっとたくさんの人が幸せになれて救われている。だから、慧さんの存在自体が、それだけすごい人なのだと、これからあたしがたくさん伝えていこう。「じゃあ、これから一緒にもっと二人でいるたくさんの意味、みつけていきましょう」「二人でいる意味……?」「はい。あたしはこれからも慧さんに、慧さんが愛されて幸せだって意味、たくさん伝えていきます」「依那……」「それだけじゃなく、二人でいるからこその幸せな意味とか、一緒にいれる幸せな意味とか、一つ一つ二人だからこその意味をたくさん見つけて、二人の幸せでいっぱいになりましょ?」「……あぁ。そうしよう」「だから慧さんはこれからも安心して、あたしを信じて好きでいてください。あたしが慧さんをたくさん幸せにします」「ハハ。頼もしいな。じゃあ、オレも依那にそれ以上の幸せを返していくよ」
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358.深い絆①

「こんにちは。依那ちゃん」「こんにちは。女将さん」今日、あたしは女将さんと二人で会う約束をした。あの日、女将さんが慧さんのお母さんだと知って、どうしても確かめたいことがあったからだ。「すいません。わざわざ来てもらって」「いいえ。私も依那ちゃんとはゆっくり改めてお話したいと思ってたからちょうど良かったわ」「ありがとうございます」女将さんと待ち合わせしたのは、慧さんが初めて手掛けた本村さんのご両親のお店。あたしは女将さんに、いや……慧さんのお母さんとして、どうしてもこのお店に来てほしかった。それからお互いに飲み物を注文し、少し落ち着いた頃、話を切り出した。「あの……。今日話したかったことというのは……」この話をするのが正解かそうじゃないのかはわからない。もしかしたら慧さんに対しても女将さんに対しても傷つけることになるのかもしれない。だけど、二人を知ってるあたしは、やっぱりこのままではいたくなくて。あたしだからこそ、このままにしておくのはいけない気がして。どんな形でもいいから二人が今思ってることをわかり合ってほしい。お互い想ってる記憶も考えも昔のままとは限らない。それが真実なのかもわからない。それなら今の慧さんと女将さんで、本当の想いをちゃんと確かめ合ってもらいたい。だから、慧さんが知っちゃったら余計なことするなと怒られるかもしれないのを覚悟で、あたしは女将さんに聞こうと決めた。あたしの言いにくそうな雰囲気に女将さんも黙ってそのまま見つめたまま待つ。「あの……、この前お店で会った、お付き合いしていた人、なんですけど……」「……えぇ」「その、慧さん……は。女将さんは、慧さんの……」なかなか言葉に出来ないあたし。すると。「……依那ちゃん。多分。依那ちゃんが思ってる通りよ」「え……?」女将さんがあたしの様子を見て、そう声をかけてきてくれる。「彼は……。慧は……、私の息子です」そして、女将さんは、まったすぐあたしを見つめながら、聞きたかったその言葉を自ら口にしてくれた。「女将さん……。気付いてた、ってことですか……?」「ええ……。もちろん最初はわからなかったの。あたしが彼と別れたのは随分小さい頃だったから……。私の中ではその頃の記憶があるだけ。だから、大人になった彼を、私が今まで知ることはなかったの」「じゃあ、い
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359.深い絆②

「ビックリしました……。女将さんがまさか慧さんのお母さんだったなんて……」今でもなんだかまだ二人が親子だなんて信じられないけど、慧さんも女将さんも同じように気を落としてる姿や雰囲気が、なんだか似ている感じがするのは、やっぱり親子だからなのかな……。その真実を知ってからは、当然女将さんも慧さんのお母さんとして見てしまう。だけど、それは軽蔑とか不信感とかそういうのじゃ全然なくて。今は、慧さんのお母さんとして、今までとはまた近い存在として感じるというか……。勝手に、親近感みたいなそんな感覚を持ってしまう。「彼から、私のことは聞いた……?」「はい……」「そう……。あの子、あたしのこと恨んでるんでしょうね……」女将さんが目を伏せて寂しそうに呟く。その言葉に女将さんの今までの想いがすべて詰まってるような気がして……。そんな女将さんを見て胸が苦しくなるけど、なんとか気持ちを奮い立たせる。「あたしは、慧さんの言葉が、どこまでが本音なのかはわかりません……。だけど……、慧さんはとても傷ついて悲しい時間は過ごされてきたんだと思います」「そうよね。いきなり母親がいなくなるなんて、どんな理由であれ本当はあの子にそんな想いさせたくなかった……」「なら……どうして慧さんを捨てたりなんか……」「……え?  捨てた……?」女将さんは顔を上げて、あたしが言ったその言葉に、すぐ反応をする。そして、なぜか怪訝そうな表情をしている。「あの子が……、慧が……、そう言ってたの……?」「そうです……。あの……もしかして……。違うんですか……?」女将さんはあたしのその言葉を聞いて、さらに泣きそうな表情になっている。「捨てたんじゃないわ……。あの人に……、慧の父親に、慧は奪い取られたのよ……」「え……? 奪い取られたって、どういうことですか……?」「慧は……、あの子の父親に黙って一人で産んだの」「そう、なんですか……?」「ええ。あの人には家庭があったし、決して向こうの家族を壊す気はなかった。私は早くに両親を亡くしていたから、慧がお腹にいるとわかった時、私にまた家族が出来たんだってホントに嬉しかった……。あたしにとってあの子は何よりも宝物だった。あの子の為ならなんだって出来たし頑張れたわ」女将さんは少し目を潤ませながら想いを伝える。「だけどどこかであの人が慧の存
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360.深い絆③

「慧の未来を保証してくれると約束してくれたの」「保証……?」「父親としての認知はもちろん、会社の跡継ぎになるまでの全面サポート。慧が望む学業に金銭面、すべてにおいて面倒見てくれると約束してくれたの」「それで……?」「もしそれをこちらが受け入れなければ、向こうの奥様から不貞行為の相手として慰謝料を請求すると言われたの」「えっ?」「それも……向こうの手口よ……」「手口……?」「当然私と慧は二人だけでギリギリの生活をしていたから、余分に払えるそんな大金あるはずなくて……。ホントに随分悩んだわ。どうすればいいか……」「…………」あたしはそんな胸を締め付けられるような酷い選択を聞いて、何も言えなくなる。そんなあからさまに無理やりな選択……。「そんな選択を迫らされて、正直決めるのは困難だった……。私が慧と一緒にいる幸せを選ぶか、慧が幸せになれる未来を選ぶか……。それで、私は慧のこの先の幸せを選んだ……」そういうことだったんだ……。ただ女将さんは慧さんと一種にいたかっただけなのに。慧さんといるだけで幸せだったはずなのに。だけど、そんな幸せを願うことさえも許されなかったなんて……。「慧が向こうの家の息子として可愛がってもらえて幸せにしてもらえるなら、どれだけ私は辛くて寂しくてもそれでいいと思った……」「女将さん……」「誰より大切で誰より愛しているのは自分だけれど、慧が幸せになれるのなら……、私の代わりに、あの二人が慧をめいっぱい愛してくれると約束してくれたから……」涙をこらえながら、そう語る女将さんを見ると、どれだけその時慧さんと離れるのが辛くて、どれだけ愛しているのかが伝わってくる。女将さんは慧さんの幸せを選んだってことだったんだ……。母親としては、そうするしかなかったかもしれない。慰謝料も払えないのも明らかで、だけど、慧さん自身を幸せにしてくれるという保証をしてくれると約束してくれるのなら……。きっとホントは、女将さんも、慧さんも、二人でいることが一番幸せだったはずなのに……。だけど、きっと実際はそんな約束も守られていなくて。慧さんは一人頑張って……。今の慧さんがあるのは、慧さんが自分でその辛い現実を乗り越えて頑張ったからだ。それを考えると、とても胸が痛い……。どこまで慧さんは辛い状況で耐えきたんだろうと……。「そし
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