悦子の容姿は、もともと若葉より際立っていた。清潔感と爽やかさにあふれ、スタイルも申し分ない。外見だけでなく、人との距離感の取り方や立ち居振る舞いに至るまで、すべてが凌の好みに完璧に適っていた。普段から悦子は外部からの評価も高く、凌に対して感情の揺れを見せる時以外は、常に冷静かつ優雅な態度を保っていた。彼女は決して凌の名を使って仕事を取ろうとはせず、ひたすら実力だけで努力を重ね、数年のうちに業界内で一目置かれる存在となった。性格は控えめで誇り高く、凌の前では余計なことを語らない。凌は知っていた。悦子は誰にも頼らず、ただひたむきに努力を続け、いつか自分と肩を並べられる日を夢見ているのだと。どれだけ道のりが険しく、凌との距離が遠く感じられても、彼女は若葉のように無理を言って、コネに頼ることは決してなかった。もし今、目の前に立っているのが悦子だったなら──凌の嫌うような言葉を口にすることなど、決してなかっただろう。そう思った瞬間、凌の顔にいっそう深い疲労の影が差した。自身の選択に疑問を抱きながらも、すべてが果たして報われるのか分からなくなっていく。平静を装い、声の調子を抑えて言った。「初期段階でもう十分に譲歩した。これ以上、俺からは何も言えない。あとは君に任せる」若葉はなおも食い下がろうとした。「凌……」「もういい、少し休ませてくれ」鋭く断ち切るような凌の言葉に、若葉は仕方なく口をつぐみ、静かに身を引いた。凌は疲れ切った様子で、ソファに崩れ落ちるように腰を下ろした。なぜか、今日の若葉はいつにも増して浮ついて見えた。まるで自分を誇示する孔雀のようにけばけばしく、かつて抱いていたイメージとはまるで違っていた。そのとき、凌ははっきりと自覚したのだ。彼が懐かしんでいるのは、若葉ではなく──若き日の自分が命がけで愛した、あの頃の記憶なのだと。時が経てば、彼女への想いは徐々に薄れ、やがては消えてゆくだろう。そのときが来たなら、また家庭に戻ればいい。何より、美々こそが彼の実の娘であり、深見グループは、いずれ彼女の手に託されるべきものだ。そう考えながら、凌はスマホを手に取り、悦子へLINEを送った。──【今週末、隣の市の温泉に家族で行かないか?】やや堅苦しいと感じて、若葉が好みそうな
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