凌は呆然と悦子を見つめていた。しかし彼女は、蛇蠍でも見るかのように一瞥もくれず、買い物袋を抱えたまま無言で家に入っていった。凌にとって、これほど無力さを感じた瞬間は、生まれて初めてだった。彼は、自分の犯した数々の過ちを痛いほど自覚していた。それでもどこかで、悦子と美々が自分を待ち続けてくれると信じて疑わなかったのだ。だが今、心は空っぽになり、足元がふらつく。数歩後ずさった末、壁に背を預け、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。あふれる涙が視界を滲ませ、胸は無数の針で刺されるような苦しみに満ちていた。まともに息もできず、ただ静かに肩を震わせるしかなかった。自分の非をこれほど反省しているというのに、なぜ彼女たちは一度も振り返ってはくれないのか――愛する者に背を向けられるというのは、ここまで胸を抉るものなのか。悦子は家に入ると、まず美々を優しく抱きしめ、湊に「そばにいてあげて」と頼んだ。そして必要であれば、美々を寝室へ連れて行き、気を紛らわせるよう促した。湊は、ドアの外から微かに聞こえてくるすすり泣きと、テレビの音量を上げる美々の様子に胸を痛めながらも、そっとその頭を撫で、安心させるよう静かに語りかけ続けた。彼にとって驚きだったのは、悦子の態度だった。凌に対し、ここまで冷淡で、しかも揺るがぬ決意を見せるとは――かつて、彼女が凌をどれほど深く愛していたかを知っている湊だからこそ、その変化が信じがたかった。やがて、悦子がキッチンから姿を現した。時間をかけて丁寧に作った料理を前に、落ち着いた表情を湛え、まるで何事もなかったかのように声をかけた。「ご飯よ」湊は気落ちしている美々をキッズチェアに座らせ、料理を運ぶのを手伝った。しかし、先ほどの凌の騒動のせいで、食卓にはどこか重苦しい空気が漂っていた。沈黙を破ったのは、湊だった。「うわぁ、悦子、大学の頃より腕上げたんじゃない?本当に美味しいよ」悦子は口元にわずかな笑みを浮かべて応じる。「たくさん食べてね。あなたの食欲は知ってるから、残さず食べてね」湊は、わざと肩をすくめて見せながら笑った。「了解しました、柳沢シェフ!」そして、黙ったままの美々を見て、先ほどの話題を引き合いに出す。「そうだ、美々ちゃん。さっき聞いたんだけど、スイーツフェア、今度の土曜日
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