亜眠の小説が受賞したその日、窓の外には細かな雪が舞い始めていた。彼女は窓辺に立ち、静かに雪景色を見つめていた。ふと気づくと、春執が後ろに現れ、カシミヤのコートをそっと彼女の肩にかけた。「回転レストランに席を予約してある。今夜はお祝いに行こう」二人がレストランに到着すると、案内されたのはプライベートの個室だった。三面の大きな窓は床から天井まで続き、街の夜景が一望できる。中央のテーブルには赤いベルベットのテーブルクロスが敷かれ、クリスタルの燭台と赤いバラが丁寧に飾られていた。春執はグラスを手に取り、そっと彼女のグラスとぶつけた。すると、どこからともなく褪せた赤い紐で結ばれた手紙が現れ、亜眠の前に差し出された。「君へのサプライズだ。開けてみて」亜眠は紐をほどいた。封筒のペン字は薄れていたが、隅にある「アミン」の文字に息を呑んだ。「これは……」「高校時代にペンフレンドの『ハルト』に書いた手紙だよ」春執は落ち着いた声でそう言った。「全部で四十三通。ひとつひとつ大切に取っておいた」亜眠は一番上の手紙を無造作に開いた。見慣れた文字が目に入ると、瞳孔が縮み、無意識に紙の端をぎゅっと握りしめた。その手紙は、十六歳のときに書いたものだった。高校生の頃から小説を書き始めた亜眠は、出版社から何度も拒否されていた。悔しさから、「ハルト」と呼ばれるペンフレンドを見つけ、定期的に原稿を送り添削を受けていた。インターネットが普及していた時代だったが、彼女はこうしたゆっくりした交流を好んでいた。幸い、「ハルト」は同じ趣味を持つ良き理解者で、二人はすぐに親友になった。彼女が送る原稿は、「ハルト」が真剣に読み、丁寧に注釈をつけてくれた。そのおかげで彼女の執筆技術は著しく向上し、ますます自信を深めていった。だが高校卒業の年、「ハルト」は突然、「閉鎖的な訓練施設に送られ、もう返事は書けない」と告げてきた。「ハルト」は彼女の世界から消えてしまった。その頃、林平と美月は知綾に美術を習わせることに熱心で、その逆に、亜眠のすべての原稿を燃やしてしまった。亜眠はその後、すっかり意気消沈し、長い間小説を書く気力を失っていた。しかし今……自分が送った手紙が春執の手元にあるのを見て、亜眠は茫然とした。そし
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