二日続けて、和一と梓、それに彩香が見舞いに来た。しかし一夏は誰の声にも応えることはなかった。車椅子に座ったまま、窓の外をぼんやりと見つめる——いったい何を考えているのか、誰にもわからない。実は、一夏の記憶はすでに戻っていた。だが、そのことは誰にも話していない。目覚めてからの些細な出来事が、無意識に頭をよぎるたび、涙が止めどなくあふれる。——五年間の昏睡から目覚めたあの日、彼女は心の底から家族の温もりを期待していた。けれど現実は残酷だった。『身代わり』への偏愛が、胸を静かに、深く裂いていく。再び事故に遭い、記憶を失って目覚めたあと、家族は大事にしてくれた。だが、もう心の中では何もかもが静かに変わってしまった。彼女はもう、両親に可愛がられる娘でもなく、夫の心にとって唯一無二の存在でもなく、姑の目に映る従順で賢い嫁でもなかった。失われた五年の間に、別の誰かがその居場所をすっかり占めてしまっていたのだ。良くも悪くも、その人は皆の心の中にしっかり居場所を作ってしまった。——そんな状況で、自分は何事もなかったようにこの家族と暮らしていけるのだろうか?諒は「やり直したい」と言った。けれど一夏は知っている。彼は、自分が思っていたほど自分を愛してはいない。本当に愛しているなら、どうして替え玉を探し、子どもまで作るのか——。どうしても、そんな夫を受け入れることはできなかった。退院の日、一夏はついに口を開いた。だが口から出た言葉は、諒がもっとも聞きたくなかったものだった。「諒……私たち、離婚しましょう」その日、和一と梓、彩香も来ていた。みんな荷物を整理しながら、あちこち動き回っていた。荷物をまとめていた諒の手が、その言葉を聞いた瞬間、ピタリと止まった。顔色が一気に青ざめる。「……本当に、もう、チャンスはないのか?」諒はゆっくりと、一夏のそばに跪いた。その瞳は、深い悲しみと懇願で濡れている。「……記憶が戻ったの」冷えた声で告げる一夏の瞳には、一片の温もりもなかった。数日前、ようやく見せた笑顔は、もうそこにはない。諒は言葉を失い、うつむいた。まるで全ての力を失ったかのように。しばらくして、ようやく絞り出すように言った。「……それが君の望みなら、わかった」
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