婚約者が警察に連行され、私に身柄を引き取ってほしいと電話をかけてきた。私が到着して初めて知った。彼が人と殴り合いをして捕まったのだと。そして、その喧嘩の理由は、なんと彼自身が浮気相手として、現場を押さえられたからだった。「俺はただ、幸与の身を案じて付き添っただけだ。幸与の彼氏は俺を信じてくれないが、お前は信じてくれるだろう?早く金を払ってくれ」彼は薮井幸与(やぶい さちよ)を抱きながらそう言った。ベルトには引っかかったレースの下着が透けて見えていた。かつての私なら、怒鳴り散らして詰問したに違いない。だが今の私は、ただ平然と署名するだけ。警官に彼との関係を尋ねられ、ペンを握る手が一瞬だけ止まった。しばし考え込んだ末、ようやく口を開いた。「私は彼の雇い主です」署名を終えたあと、兄にメッセージを送った。【例のお見合い、行くことにする……日取りは三日後にしましょう】……警察署を出たあとも、幸与の恋人はまだ傍らで大声を張り上げていた。その一方で、宗像広夢(むなかた ひろむ)は幸与の肩を抱き寄せ、まるで自分の所有権を誇示するかのようだった。そして幸与自身も広夢を庇うように同じことを口にした。数分も経たぬうちに、その男は罵声を残して彼女と別れ、立ち去った。私、出羽和音(でわ かずね)は彼ら二人が気持ちを通じ合っている様子を見るに堪えず、さっさと助手席に乗り込んだ。ちょうどシートベルトを締めた瞬間、幸与が私の手を掴んだ。しかし彼女の視線は私を越えて運転席の広夢へと注がれていた。「広夢くん、私、ひとりで後ろに座るのが怖いの……」そう呟いたとき、涙が瞳にたまり、清らかにきらめいて見えた。最後の言葉を言い終えると同時に、涙は静かに頬を伝って落ちていった。絶妙な弱さの演出。それこそが広夢の最も好むものだった。私は苛立ちを抑えきれずに彼女を急かした。「じゃあ、自分で歩いて帰りなさい」騒がしかった空気は一瞬で凍りつき、場は気まずい沈黙に包まれた。そのとき広夢が冷ややかに私を叱責した。「和音、お前はなんて冷酷なんだ!こんな寒さの中、こんな距離を歩かせるつもりか。幸与を殺す気か!お前が後ろに座れ!」拒む隙もなく、彼は私のシートベルトを先に外してしまった。言葉を発する前に、幸与
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