国弘はまだ産褥期にある由奈を家から追い出し、赤ちゃんも児童養護施設に送った。そもそも、彼が修也と由奈の結婚を許したのは、由奈が修也との子どもを妊娠したと言ったからだ。修也がもはや紛れもない廃人となってしまった今、この子を後継者として育て上げることに、国弘は望みを託していた。だからこそ、あれほど体裁を重んじる彼が、世間の指弾を覚悟の上で、二人の結婚を認めたのだ。しかしその目論見は、見事に外れた。この子は、時枝家の血を引いていなかった。国弘は心を鬼にした。命さえあれば、やり直しはきく。まずは自分自身が生き延び、再起を図らねばならない。修也はもう使い物にならない。ならば、彼の最後の価値を徹底的に搾り尽くす。国弘は密かに資産を海外へ移し、会社の法人名義を修也に変更し、彼に巨額の負債をすべて背負わせた。修也が裁判所からの召喚状を受け取った時、国弘はすでに国外へ高飛びしていた。裁判所は、修也の全財産を差し押さえ、彼のすべての銀行口座を凍結した。何世代かかっても返済しきれないほどの、莫大な負債を目の前に、修也はようやく気づいた。先日父に言われるがままサインした契約書は、自分を身代わりにするためのものだったのだ。修也はすべてを失った。幸いにも、かつて彼が助けた友人たちが、彼が路頭に迷うのを見かねて金を出し合い、住む家を借り、家政婦まで雇ってくれた。修也はまるで抜け殻のように、毎日ベッドに横たわり、ショート動画を眺めながら時間を潰していた。そんなある日、彼は何気なく円のSNSで、彼女と静のツーショット写真を見た。写真の中の静は、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いている。【親友の可愛いお姫様のご誕生、おめでとう!本当に素敵な人と結婚すると、こんなに幸せなのね】写真の中の幸せそうな静の笑顔を見て、修也の心は、鋭い刃物でえぐられるように痛んだ。この幸せは、本来なら自分のものだったはずだ。心の奥底で燻っていた無念の炎が再び燃え上がった。修也は、柏木市へ行って、静に会おうと決意をした。結果がどうであれ、この想いを直接彼女に伝えなければならないと彼は考えた。明日死ぬとしても、今日、後悔だけはしたくない。柏木市までの航空券代は、友人に借りた。彼は不安な気持ちを抱えながら、病院の長い廊下を、車椅子を進ませた。静の病室は、
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