茂香が陸の腕の中で泣き崩れている頃、若彰の神経もまた、崩壊寸前だった。翌朝になっても、茂香に関する情報は一切入ってこない。茂香は逃げた。結婚式の真っ最中に彼を置いて、逃げ出したのだ。この既成事実が若彰の脳裏に何度も警鐘を鳴らすが、彼はまだ信じられないでいた。茂香はあんなにも彼を愛していたのに、どうして逃げ出すなどというのか?あんなにも結婚式を待ち望んでいたのは、彼を愛していたからではないのか?まさか、すべてが嘘だったとでもいうのか?いや、そんなはずはない。茂香は彼を愛している。でなければ、丸3年もの間、どうして彼の傍に留まる必要があったというのだ?スマホが鳴った。若彰は反射的に立ち上がったが、画面に表示された名前に、瞳から再び光が消えた。「若彰お兄様、大丈夫か?」美波が、慎重に言葉を選びながら尋ねてくる。「何の用だ」若彰の声は氷のように冷たい。今は誰とも話したくない。特に、美波とは。「いいえ......ただ、お兄様がご無事かお伺いしたかっただけで......結婚式のことは聞いた。私、前から言ってたでしょう?児玉さんは良い女じゃないって。彼女のせいで傷つかないでください。幸い、お兄様も彼女のこと好きじゃないから。政略結婚なんて、お兄様には必要ないのよ......もし辛いなら、私が傍にいてあげようか?」美波が言い終わる前に、若彰は一方的に電話を切った。美波の言葉が彼に問いかけた。彼は茂香のことが好きではなかったはずではなかったのか、と自問した。なのになぜ、今、これほど胸が痛む?いつからか、彼自身にも分からなくなっていた。茂香に対して抱いているこの感情が、一体何なのか。毎日欠かさず届けられた朝食からなのか。それとも、あの漫画を贈られた時からか。若彰が茂香を意識し始めたのはいつからか、彼自身にも分からなかった。捜索に送り出した部下たちが、続々と戻ってくる。だが、予想通り、何の成果も得られなかった。3年経って、若彰は初めて、茂香の過去を知ろうとした。部下が差し出した茂香の資料は、たった2枚の薄っぺらい紙だったが、そこには彼女の二十数年の人生が凝縮されていた。読み進めるほどに、彼の手は震えを抑えきれなくなった。茂香は、こんなにも可哀想な人間だったのか。彼は知らなかった。茂香も彼と同じよう
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