「だけど、私はあなたを愛したことなんて一度もないわ。花を置いていったのは、陸が好きだったからよ。彼、以前フラワーアレンジメントを習っていたの。朝食を届けたのは、あなたが結婚式前に死んでしまったら、私の任務が完了できなくなるのが怖かったから」「漫画も、陸が好きなものよ。この3年、一度も定期購読を止めたことなんてなかったわ。ただ、あの時たまたまあなたに見られただけ。あなたに接触した最初から、すべては陸のため。私が愛する人は、彼だけよ。気づかなかった?私、一度もあなたに『愛してる』って言ったことないでしょう?」茂香は柏原若彰の目を真っ直ぐ見つめ、一言一言、言葉を紡いだ。その言葉は、まるで鋭い矢のように若彰の心臓を射抜いた。彼は今になってようやく思い出した。茂香は一度も彼に「愛してる」と言ったことがなかったことを。たとえ彼が茂香を暗い部屋に閉じ込めた時も、美波が茂香をいじめるのを黙認した時も、茂香は彼に命乞いをした。その時の茂香は、全身を震わせ、かろうじて命乞いのような言葉を絞り出すのが精一杯だった。だが、その言葉の中に、彼を愛しているという言葉は一つもなかった。若彰は少し朦朧とした。目の前で落ち着き払った茂香を見て、突然、この3年がすべて夢だったかのように感じた。「嘘だろ......」若彰は受け入れたくないと呟いた。「いいえ、柏原若彰、私は一度も、あなたを愛したことはなかったわ」茂香は最後に若彰に決定的な一撃を与えた。その「一度も愛したことなんてない」という言葉が、若彰のこれまでの甘い夢を打ち砕いた。自己防衛による欺瞞のメカニズムなのか、若彰はまだ自分を慰めていた。茂香が彼を愛していなかったなどと、信じられなかったのだ。茂香が立ち上がるのを見て、彼は彼女の手を掴もうとしたが、裾にすら触れることができなかった。「お引き取りください、若彰。もう二度と私を邪魔しないで」若彰の顔色は、暗く沈んでいた。その複雑な感情は、茂香には理解できなかったが、漠然とした不安を感じさせた。「分かった......行くよ」「邪魔はしない」若彰は打ちひしがれた様子で出て行った。ゲートを出てからもう一度振り返ったが、茂香はすでに家の中に入っており、彼のために一瞬たりとも立ち止まることはなかった。若彰の顔色は、恐ろしいほど悪かった。仕事の
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