Semua Bab 春の終わりに、別れを告げよう: Bab 11 - Bab 20

景雄は平気そうな顔を装っていたが、家ではずっと窓の外を見つめていた。書斎で仕事をしてもミスばかりで、彼の胸の中は苛立ちでいっぱいだった。一方その頃、翌日、千桜はきっちり時間通りに清のドアをノックした。入浴中の清はバスタオルを体に巻き、ドアを開けて困惑のまなざしで彼女を見た。「もう八時だよ」清は顔の水を適当に拭き取り、理解したように言った。「早すぎる。会社には十一時に行く」千桜はがっかりして背を向けたが、清に手を掴まれた。危うく彼の胸元に倒れ込みそうになった彼女は、慌ててドア枠を掴んで体を支え、眉をひそめて清を睨んだ。清は手を伸ばし、彼女の額に付いた粉末を拭った。「顔に壁の粉が付いてる」千桜は白い目を向けた。「それはファンデーションがちゃんと塗れてなかっただけよ。今まで彼女ができなかったの？」清は一瞬きょとんとしたが、素直に首を横に振った。千桜は非常に驚いた。何せ、清は今年二十九歳で、あと数か月で三十歳になるところだ。有能で見た目も良く性格も悪くないのに、ずっと独り身だったとは不思議だ。沙織は笑いながら冗談を言った。「清はあなたの許婚だから、当然あなたのために貞操を守ってるのよ」冗談めかした言葉だったが、千桜は彼の澄んだ優しい瞳を見て、彼がそれを否定していないと気づくと、胸の奥に不思議な感情が湧き上がった。朝食の間、千桜は上の空で食べていた。車に乗ってから、彼女は訊いた。「それで、どんなタイプの女の子が好きなの？可愛い系？」清はただ静かに彼女を見つめ、喉を鳴らしたが、視線をそらして淡々と言った。「違う」あのピンクのアイコンを思い出し、千桜は心の中でため息をついた。愛し合う二人を引き離すのは仕方ない。あとは、彼と離婚し、彼をその相手に返すだけだ。ところが会社に着くと、ピンクのアイコンを使うアカウントの持ち主と鉢合わせた。愛らしい顔立ちの少女が白いストッキング姿で弁当を抱え、勢いよく清に押し付けた。清は思わず一歩下がり、その拍子に弁当の中身がこぼれて千桜の服を汚した。少女の白いストッキングにも飛び散った。やっと千桜に気づいた少女は、彼女の顔を見て一瞬固まり、すぐに怒りに満ちた声をあげた。「あなた誰？予約はしたの？」清はティッシュで千桜の服の汚

人事部長の呆然とした顔を見て、景雄は胸にこみ上げる怒りを抑えきれず、コップを投げつけそうになった。「彼女は俺の特別補佐だ。退職するには俺のサインが要る。お前は一体何をやってる？仕事をしたくないなら、さっさと辞めろ！」オフィスの外で景雄のための手作り弁当を持ったままうろついていた知佳は、突然顔を上げてドアを押し開けた。「そうよ、労働契約を結んだ以上、彼女が勝手に辞められるはずがないわ。景雄が寛容だから、彼女は何度も好き勝手をするのよ」「お前は何様のつもりだ。彼女のことに口出しするな」その一喝に知佳は呆然と立ち尽くし、瞬時に目に涙を溜めた。しかし今回、景雄は彼女を一瞥すらしなかった。人事部長は困り果てて泣き言を並べつつ、慌てて千桜の退職手続き書類一式を差し出し、自分の仕事にミスがなかったことを証明した。自分の署名をはっきりと見た瞬間、景雄の心は激しく揺れ、頭がくらむほどの稀有な恐慌が胸に広がった。とりわけ、千桜と連絡がつかないと告げられた瞬間、景雄の心を覆う恐慌は最高潮に達した。彼はすぐにスマホを取り出し、暗記している番号をかけたが、相手は出なかった。ラインもブロックされていた。その時、寺のボランティアから電話が入った。「江口さん、佐倉さんにお電話お願いできますか？どうしても連絡がつかなくて。前回ご予約の灯明に不具合があったので、新しいものに替えようと思うのですが、価格はほぼ同じで大丈夫でしょうか？」知佳はすかさずスマホを奪い取った。「佐倉のことはその本人に聞きなさいよ。いちいちここにかけて来ないで。もしかして彼女が金を渡して、あなたたちに芝居を打たせてるの？滑稽だと思わないの？」だが、その一言で景雄の目に一筋の光が宿り、スマホを奪い返すと大股で立ち去った。寺に着いたのは午後だった。どこを探しても千桜の姿はなく、景雄は必死に心を落ち着けた。「彼女を出してくれ。俺はもう彼女を許したから、迎えに来たんだ」ボランティアは奇妙な目で彼を見た。「江口さん、佐倉さんがここにいるとおっしゃるのですか？もし本当にそうなら、私も心からそうあってほしいですよ」その時、同行していた秘書が近寄ってきた。「社長、佐倉さんは見つかりませんでした。監視カメラ映像を確認しましたが、確かにここには来ていま

沙織が仕組んだのは、千桜と清に景勝地のチケットを取って、一緒に登山に行かせることだった。千桜はまだ包帯を外していない足を見下ろし、ためらいながら言った。「本当に山に登るの？」沙織も場所を間違えたと気づいたのか、慌てて千桜の手を取り、自然に清の腕へとかけた。「清、千桜をちゃんと見ててね」千桜はどうしても沙織の常軌を逸した手配を受け入れがたかった。車に乗ると、清にそう言った。「チケット通したら、あなたは登って。私は下で待ってるから」清は一瞥してうなずいた。だが入山するとすぐに、手を伸ばして千桜を背負い上げた。突然の宙吊り状態に加え、周囲の好奇の視線にさらされ、千桜は思わず顔を覆った。「恥ずかしすぎる。もしネットに投稿されたらどうしよう。絶対甘えん坊とかって叩かれる……」清は思わず笑った。「そんなことない。この山は財運祈願の山だから。寝たきりの人だって必死に登ってくるんだ」「違うわよ、財運祈願の山なんかじゃない！」力強い女の声が響き、振り返ると登山ウェア姿の容子がいた。容子は千桜を一瞥して、顔を背けた。「ここは良縁祈願の山よ。あなたたち、どうせ頂上までは登れないわ」穏やかな性格の清が、このとき珍しく声を冷たくした。「試してみなきゃ、誰にも分からないだろう」容子の目がたちまち赤くなり、トレッキングポールを握りしめると、振り返りもせず駆け上がっていった。「悲しくないの？」千桜の問いを不思議に思ったのか、清は笑った。「彼女が健康のために来てるのに、俺が悲しむ理由なんてない」気まずい雰囲気を察した清は、笑みを引っ込めた。「ただ、彼女が自分の時間を浪費してしまったことを残念に思う。その時間を使えば、両親にどれほどの孝行ができただろうか、どれほどの喜びを得られただろうね」千桜が本当に聞きたいことを察したのか、清は少し首を傾け、誠実に言った。「悲しくもなく、心も動かされない。ただ惜しいと思うだけ。でも君が彼女と一緒に川に落ちて、どっちを助けるかって聞かれたら、俺は君を選ぶ。同時に救助要請もする。だって彼女も生きている人間だから」下山の途中、まるで予言のように風が唸り、土砂降りの雨が容赦なく降りかかってきた。日が暮れても雨はやまず、三人は狭いテントに身を寄せ合い、互

知佳は明らかにこの結末を予想しておらず、呆然と景雄を見つめた。彼女は、彼が自分を気にかけていると思うからこそ、遠慮なく彼の我慢の限界に挑んだ。何せ、彼は五年間付き合った千桜にあれほどの仕打ちをしていたのだから。しかし今、なぜすべてがこんな状況になってしまったのか。知佳の表情が変わるのを見ると、景雄は嘲るように笑い、ナイフで彼女の頬を軽く叩いた。「あの時、江口家に重視されなかった俺が、お前に見捨てられた。そのときから、俺はお前を心底憎んだ。お前に未練など残るわけないだろ。あるのは、奈落に突き落としてやりたいほどの憎悪しかない。愛があるからこそ憎しみも生まれると言うが、残念ながら、俺はお前に対して本当に憎しみしかない」知佳は信じられない様子で彼を見つめた。「私が帰国したら、あなたは結婚しようとした。そして、私が去ろうとしたら、千桜を置き去りにした。それどころか、私のために彼女を殴ったのに、私に愛がないと言えるの？」まるでとんでもない冗談を聞いたかのように大笑いした景雄は、突然彼女の首に手をかけた。「もともと彼女と結婚するつもりだった。ただ、タイミングが良くなかったのと、家の堅物が納得しないかもしれないから、お前を口実にしただけだ。本当に自分がそんなに重要だと思っているのか？お前のためになど？何を夢物語を見ているんだ。帰って親父に聞いてみろ。お前が何度も騒いだせいで、俺にどれだけ補償したか。だが今となっては、もはや補償してもらえるものは何もない」知佳はその場で呆然と立ち尽くし、まさかこんな返答を聞くとは思っていなかった。彼女は父がここ数日ずっと憂鬱だった理由も納得した。元々危うかった会社は完全に倒れたのだ。しかし、彼女はまだ諦めるわけにはいかず、涙をぬぐい、リビングで一晩中立ち続けた。翌日、精巧に化粧を施し、テーブルの上の妊娠証明書を手に景雄のオフィスに向かった。その時、景雄は急ぎすべての仕事を終わらせている。知佳を見ると、ただ一言を吐き捨てた。「出て行け」しかし知佳は突然涙をぬぐいながら床に座り込んだ。「景雄、本当に冷酷ね。私、あなたの子を妊娠しているのよ。千桜のために私と子どもを捨てるつもりなの？」知佳はわざと大きな騒ぎを起こし、江口家の年長者まで呼び寄せた

車内の空気は異常に重く、千桜は何度も話題を振ろうとしたが、うまくいかない。清は相変わらず優しく穏やかな様子で、質問には答えるが、どこか元気が足りない。千桜は少し挫け、急ブレーキで思わず彼の胸に頭をぶつけてしまった。彼は思わず彼女の頭を抱き、俯いて目を合わせた。直立しようとしたが、彼女がしっかりと服の襟を掴んで離さない。「清、私を避けてるでしょ」「そんなことない」「嘘つき」彼が頭をそらそうとすると、千桜は彼のネクタイを掴み、直視させた。仕方なく彼は言う。「離して」彼女は黙って動かなかった。それを見ると、彼は目を伏せ、微かに息を吐いた。「もし君が彼を好きで、彼が君を大切にしてくれるなら、俺は引いても……」言い終わらぬうちに、突然唇が柔らかいものに塞がれた。彼は瞬時に目を見開き、頭が真っ白になった。「清、もう彼のことは好きじゃない。それに、あなたが引く必要もない」しばらくしてようやく正気を取り戻した彼は、耳元で花火が打ち上がるような音が鳴り響くのを感じた。振り向いて彼女を見つめ、彼女の顔に冗談を言っている痕跡がないか、必死に探した。しかし、彼女はすでに姿勢を正し、顔をそむけて窓の外を見つめていた。車のミラー越しに彼女の赤くなった顔が映り、彼は思わず笑いをこぼした。彼女が怒って口を開く前に、彼は後頭部を軽く叩き、座席に押さえつけた。海のように深い瞳を見つめ、激しいキスを交わした後、彼はようやく言葉を発した。「嬉しい、本当に嬉しい」嬉しいのは、君が俺を受け入れたことだ。口紅はすっかり崩れていた。彼女は憤りを感じながらウエットティッシュで唇を拭い、しばらくしてから口紅を取り出して化粧を直す準備をした。しかし彼は手早く奪い取り、口紅の蓋を開けると、少し観察してから、そっと彼女の顎を持ち上げた。彼女は驚いた。「塗ってくれるの？」彼の肯定的な答えを受け、すぐに首を横に振った。「やめて、自分で塗るわ」しかし彼は頑固だ。「ちょっと学べばいい」「じゃあ、まずあなたの唇で試してみる？」千桜は冗談めかして言った。清は一瞬止まり、鏡を探そうとするが、彼女は口紅を奪い、彼の唇に塗ってしまった。赤信号がやけに長く感じられた。その隣のカイエンの中で、景雄は