友人の結婚式に招かれると、彼女が冗談めかして聞いてくる。「紗月(さつき)、あなたはいつ結婚するの?」「半年後だ」「もう少し待ってくれ」私と深沢慶人(ふかざわ けいと)の声が重なる。その瞬間、彼の視線には苛立ちと問い詰めるような色が宿る。「そんなふうに俺を追い詰めて、楽しいのか?」その夜、彼は「独身最後の夜」を口実に、幼なじみのもとへ行き、帰ってこない。――最初から、私と結婚するつもりなんてなかった。けれど私は引き留めなかった。スマホを取り出し、冷静に指示を飛ばす。「式は予定通り進めて」幸いなことに、私が本当に嫁ぎたい相手は、彼ではないから。……深夜零時、私のスマホに一本の動画が届く。見知らぬ番号からのものだ。タップして再生する。画面の中では、男も女もダンスフロアで体を揺らしている。その中で、私がずっと守ってきた慶人の白い肌が、ひときわ目立って映る。音楽のリズムに合わせて狂ったように踊る彼は、まるで場末のカラオケにいるホスト気取りだ。女が体を寄せても拒まない。むしろ素直に、腰へと絡みつく手を受け入れる。曲が盛り上がる瞬間、女が彼の顎を掴む。慶人は口元をわずかに歪め、身を屈めて――ためらいもなく唇を重ねる。その女を私は知っている。いや、私たちの周りなら誰でも知っている。それは、慶人の初恋の相手――篠宮悠里(しのみや ゆうり)だ。友人から聞いたことがある。二人は大学時代、模範的なカップルだったと。校内では、いつも一緒に歩く姿をよく見かけたそうだ。ただ、なぜかその恋は突然終わりを迎えた。当時の私は、さほど気に留めなかった。学生時代の一瞬のときめきに過ぎないと思っていたから。幼なじみだろうと関係ない。今、彼の隣にいるのは私――そう信じている。だが今。動画を見つめるうちに、胸の奥に残っていた最後の希望が音もなく消えていく。慶人の顔が目の前で歪んでいくように見える。私は慶人に電話をかける。……出ない。その番号の持ち主から、さらに挑発的な一文が送られてくる。【たとえあんたが彼と結婚しても、彼の心にいるのは私よ】私は返信しない。ただ無言でその番号をブロックする。少し考え、慶人の仲間に電話をかける。通話が繋がると、私は単刀直入に言う
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