結婚が間近に迫り、松本光希(まつもと こうき)の幼なじみが彼のためにバチェラーパーティーを開いた。彼の仲間内はみんな、光希が私・木村由香(きむらゆか)を溺愛していることを知っている。私を連れて行かないなら、彼は必ず十時前には家に戻る。周りが盛り上がっていようがいまいが関係ない。だから今回も、みんなは私を熱心に誘った。でも入った瞬間、空気がどこかおかしいと感じた。みんなは愛想よく挨拶しながら、こっそり光希に合図を送っていた。私は事情が飲み込めなかった。全員が席についたころ、ショートカットの女の子がのんびり遅れてやって来た。「ごめん、渋滞で遅くなった!」背が高くて細く、声は澄んでいて歯切れがいい。隣の光希がその場で固まった。誰かの顔に、鼓動が一拍抜ける表情を見たのはあれが初めてだった。彼女が勢いよく私に手を差し出した。「あなたは花嫁だよね?はじめまして、美雪っていうんだ!」その名前を聞いた瞬間、すべてを悟った。安藤美雪(あんどうみゆき)は光希が五年も想い続けた女の子だ。当時の光希は今みたいに落ち着いていなくて、猛烈に彼女を追いかけていたらしい。ビルの前に何万本ものバラを敷き詰めたこともある。海辺で百メートルもの高さに届く巨大な花火を打ち上げたこともある。彼の青春はまるごと彼女で満ちていた。けれど三年前、彼女は迷いなく別の男の子を追って海外へ留学に行った。私が光希と出会ったのは、その時期だ。あの飲み会で、光希はけぶる照明を縫うようにしてこちらへ歩いてきた。私は半分しか飲んでいないのに、もうぐでんぐでんだった。慌てて周りの友だちに彼のことを聞き回った。友だちに背中を押されて彼の前に出たとき、緊張で舌がもつれた。「私は由香だよ。松本さん、苗字は?」周りでどっと笑いが起きた。何か月も寄せていた光希の眉間の皺が、その瞬間ふっとほどけた。付き合ってからの光希は、ほとんどすべてのやさしさを私に注いだ。私の好物も苦手も、全部きっちり覚えている。どれだけ残業が遅くなっても、必ず自分で迎えに来てくれた。どんな記念日でも、彼は必ず心を込めたプレゼントを用意してくれた。SNSに私を載せ、親しい仲間みんなに紹介してくれた。彼の友だちまでやっかみ始めた。「
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