私が離婚を切り出した瞬間、橘凛太朗(たちばな りんたろう)は前に立ち、長い間じっと私を見つめた。あまりに長く、まるで私の体に穴が空くほどだった。私が離婚協議書にサインをした後、凛太朗はようやく我に返り、指でその書類を何度も繰り返しめくった。彼はきっと信じられなかったのだろう。五年も彼をもがき苦しめてきた私が、自ら離婚を言い出すなんて。長い時間が経って、彼はようやく書類を投げ捨て、わずかに嘲笑を浮かべて言った。「この協議書、俺には理解できない。専門の弁護士チームに確認してもらわないと」私はペンを強く握り締め、説明した。「その必要はない。財産分与は要求しない。何もいらないわ」彼は不機嫌な口調で言った。「お前の罠にかかったりしないか、どうしてわかるというんだ?」私は彼を見上げた瞬間、ふと五年前のあの夜を突然思い出した。これだけ時が経っても、彼はあのことをずっと恨みに思っていた。しかし、これだけの年月が過ぎた今、私がそんな人間かどうかは彼が一番よく知っているはずじゃないか。「わかった。協議書を準備してもらってからまた来るよ」私は思い切ってペンを投げ出し、そう言って、立ち上がって去ろうとした。彼は私を遮り、行かせなかった。「ここで待っていろ。すぐ終わる」彼はまるで、一刻も早く私と縁を切りたがっているかのように、足早にドアを開けて姿を消した。恐ろしく静かなオフィスで、私はソファーに倒れ込んだ。耳に蘇ったのは、あの医者の言葉。――「白血病末期です。おそらく骨髄移植の機会さえないでしょう」ため息をつき、入口で消えていた凛太朗の姿を見つめていた。おそらく、彼はまったく気にかけていないだろう。鼻血が流れ出し、手で拭ったが、なかなか止まらなかった。慌ててティッシュで押さえると、彼の机の上のティッシュは瞬く間に大半がなくなってしまった。誰にも見られなくてよかった。すぐに、凛太朗は新しい離婚協議書を持って入ってきた。私が仰向けになり、まだ止血する動作をしているのを見て、少し驚いた。「何をしている?」私は慌ててティッシュをゴミ箱に捨て、平静を装って座り直した。協議書を受け取ったとき、彼が末尾に追加した条項に目が留まった。「花房夕(はなぶさ ゆう)の所有に属さないすべての物品は、すなわち宝石類、衣類、履物等は
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