「また行きたいな、あのカフェ」 悠真が、何気なく言うと、ひよりの声が、少しだけ真剣なトーンになった。「うん! 私も! それでね、悠真くん」 ひよりは、一度言葉を切ると、小さく息を吸い込む音がした。まるで、何かを決意したかのように。「あのね……その、また、二人で……一緒に、どこか行きたいな、って……」 ひよりの声は、少しずつ小さくなり、最後はほとんど囁き声のようになった。だが、その言葉には、今日のデートの終わりに彼女が見せた、あの小さな勇気が宿っていた。「今度は、どこ行こうか?」 ひよりが、少しだけ声を弾ませて、尋ねてきた。その言葉を聞いた瞬間、悠真の心臓は、耳元で雷鳴のように轟いた。(え!? 今度!? また二人で……デートじゃん!) 悠真の胸には、喜びが爆発したかのように広がった。ひよりからの、確かな誘い。断る理由など、どこにもない。いや、むしろ、彼が最も望んでいたことだ。電話の向こうで、ひよりが彼の返事を、息を潜めて待っているのが分かった。「っ、うん! 行こう! どこでも行こう! ひよりが行きたいところ、どこでも付き合うよ!」 悠真は、喜びのあまり、思わず大声になってしまった。彼の声が電話の向こうに届いた途端、ひよりが「やったー!」と、本当に嬉しそうに声を上げた。その無邪気な喜びの声が、悠真の心を満たしていく。「ふふ、じゃあ、今度のお店、私が見つけておくね! また電話するから!」「ああ! 楽しみにしてる!」 電話を切った後も、悠真はしばらくの間、スマートフォンを握りしめたまま、その場に呆然と寝転がっていた。ひよりが、自分から次のデートに誘ってくれた。その事実が、悠真の全身を幸福感で満たし、この夏の夜を、忘れられないものに変えていった。♢夏の夜、予感の始まり うだるような夏休みが始まった。両親から久しぶりの長期休暇で旅行に行かないかと誘われた悠真は、一瞬迷ったものの、すぐに断りの言葉を口
Last Updated : 2025-10-06 Read more