♢放課後の教室と僅かな変化 夏期講習の授業が終わり、教師が退出すると、教室は途端に開放的な雰囲気に包まれた。悠真は、隣のひよりがゆっくりと立ち上がるのを見つめた。彼女のブラウスの裾が、椅子の背にわずかに引っかかり、その拍子に白い肌がちらりと覗く。その瞬間、悠真の心臓が再び大きく跳ねた。「風間くん、今日の講習、お疲れ様」 ひよりが、少しはにかんだように悠真に声をかけた。その淡いピンク色の瞳は、夕焼けの光を受けて、どこか儚げに見える。「あ、ああ、ひよりもお疲れ」 悠真は、精一杯平静を保とうとするが、声が上ずってしまう。彼の視線は、無意識にひよりの胸元へと向かう。ブラウスのわずかな隙間から見える鎖骨のラインが、彼を強く惹きつけた。「ねぇ、この問題、教えてくれないかな……?」 ひよりが、手元の問題集を悠真の方へ差し出した。彼女の指先が、問題の行をそっと辿っている。その指先は細く、白い。悠真の視線は、問題集にではなく、その指先へと吸い寄せられた。彼の掌が、昼間に触れたひよりの柔らかな感触を思い出して、じんわりと熱くなる。「あ……うん、いいよ」 悠真は、自分の動揺を悟られないよう、努めて落ち着いた声で答えた。ひよりが、悠真の机のすぐ横に、少し身をかがめて問題を覗き込む。彼女の甘い香りが、より一層強く悠真を包み込んだ。その距離は、彼にとって耐え難いほど近かった。悠真は、彼女の髪の毛が、自分の頬に触れるか触れないかの距離にあることに気づき、息を詰めた。 その時、教室の扉が勢いよく開いた。「あれー? まだいたの、二人とも!」 花城まどかの元気な声が、教室中に響き渡る。彼女の後ろには、結城凛音と白鷺千代も立っていた。まどかの明るい視線が、悠真とひよりの距離を捉え、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。その笑顔は、悠真にとって、甘くも鋭い刃のように感じられた。「まどかちゃん! もう!」 ひよりが、慌てて悠真から身を離した。その頬は、夕焼けの色よりも鮮やかに染まっている。悠真は、その瞬間に失われた温もりに、胸の奥で痛みを覚えた。 まどかの登場により、教室の空気は一変した。悠真は、自分の内に秘めた衝動が、誰かに見透かされているのではないかという不安と、もう少しひよりのそばにいたかったという残念な気持ちが入り混じり、複雑な表情を浮かべた。夏期講習の終わりは、彼にと
Dernière mise à jour : 2025-09-01 Read More