十一時間のフライトを経て、結衣は無事にA国へ到着した。「ジェイソン教授!お迎えはあなたでしたか」到着ロビーの出迎えの列に、懐かしい顔を見つけて、結衣は思わず声を上げる。それは博士課程の指導教授、ジェイソン教授だった。白髪の頭に穏やかな笑みを浮かべ、教授は結衣を迎えた。「久しぶりだね!君と園田は元気にしているか?結婚したと聞いたよ、おめでとう」結衣は引きつるような笑みを返すしかなかった。かつてA国で博士号を取得していた頃、清志はこの教授の下で助手を務めていた。二人が出会い、愛を育んだのも、この教授の講義がきっかけだったのだ。結衣の表情を見て、国内の噂を耳にしていた教授は、すでに状況を察していた。「江口、君が夢療法の分野で大きな突破を成し遂げたことを、僕は心から嬉しく思う」珍しく真剣な顔で、教授は言葉を続けた。「だが忘れないでほしい。夢は人を欺くこともある」「でも......夢の中の人は無意識のはずです」結衣は首をかしげた。「夢とは潜在意識の投影だ。だが人の感情は複雑だよ。人は強く信じ込んでしまえば、自分自身すら欺ける。夢だって同じことさ」教授は苦笑し、首を振った。「園田は長く僕の側にいた。正直な男ではない。だが、彼が君にまったく愛情を持っていないとは思わない」ホテルへ向かう車中で、結衣は教授の言葉を反芻した。――清志の夢にも「嘘」が混じっているということだろうか?だが、彼の夢の中に現れるのは澪ばかり。あれでどうして「愛していない」と言えるのか。結衣には信じがたかった。新しいSIMカードを差し込むと、結衣はSNSのトレンドを開いた。そこには、またしても清志の話題がトップに上がっていた。公開オークションで、彼が十五億という高値でブルーサファイアのネックレスを落札したのだ。【澪ちゃんはインタビューで青が一番好きって言ってたし、さすが園田教授、気が利く!】【これって澪ちゃんの誕生日プレゼントじゃない?やっぱりプロポーズ近いんじゃ?】【誕生日会で渡すに決まってる!】そんな書き込みは、結衣がこれまで何度も目にしてきたものだ。けれど、実際にその高価なネックレスの写真を見た瞬間、心臓が小さく震えた。――自分はただの代用品な
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