いつも冷静な門田が慌てている……。これは珍しい事だった。「何だ?」聞くと門田が言う。「弁護士から連絡が来ました。奥様にお支払いする筈の慰謝料が振り込めないと、そう申しております」(慰謝料が振り込めない?何故、そうなる?)門田が続ける。「そう言われて私からも連絡を取ろうと、奥様……前妻様に連絡をしたのですが、繋がりませんでした。調べてみたところ、前妻様の口座は解約されておりまして、連絡が取れなくなっています」口座を解約している?何故だ。離婚届と一緒に渡した協議書を出す。篠江家として恥ずかしくないように、慰謝料だって破格の筈。協議書にはきちんと篠江杏の口座が書かれている。「人をやって探させましたが、前妻様がどこに行ったのかは分かりませんでした」門田が言う。俺は思い付いて言う。「弟は?篠江グループの系列の病院には居ないのか?」そう聞くと門田が言う。「既に確認しましたが、峰月医師も系列の病院には居ませんでした。どこに行ったのか、全く分かりません」俺は自身のスマホを出し、杏に電話する。呼び出し音すら鳴らずに無情にも自動音声が言う。~この電話番号は現在、使われておりません~そのまま今度は杏の弟の桃李にかけてみる。結果は同じだった。~この電話番号は現在、使われておりません~俺は立ち上がる。「病院に行く」こうなるともうそれしか道が無かった。車の中で考える。杏はどこに行ったんだ?2週間前、彼女には行く宛が無いなら、見つかるまで家に居て良いとそう言った俺の提案を彼女は蹴った。既に行く先を決めていたかのように。家にはもう杏の行く先を示すものは残っていない。(何故、慰謝料を受け取らない?)(俺からの慈悲は必要無いという事か?)イライラが募る。彼女はどうしてこうも俺の心をかき乱すのだろう。頭の痛い問題ばかりだ。「門田」助手席に乗っている門田が俺に振り返る。「はい、龍月様」俺は窓の外を見ながら言う。「例の手紙の主、運転手を見つけ、俺の所に連れて来い」そう言うと門田が頷く。「はい、必ず」3日以内に運転手を捕え、両親の元へ連れて行かなければならない。運転手の口から事の顛末を話させないと両親は納得しないだろう。両親の納得が無ければ、華凜は篠江家に入れない。俺の子を身籠っていたとしても、だ。想定出来る最悪な状況としては、子供だけ産ませて、
Last Updated : 2025-09-09 Read more