華凜視点:私は自分の部屋でイライラして歩き回っていた。(峰月杏……彼女はまだ龍月の心の中に居る……)(せっかく追い出したのに!妊娠まで偽装して、離婚させたのに!)峰月杏は龍月の両親と仲が良くて、私はいつも龍月の両親から疎まれていた。私が大学生の頃、峰月杏は孤児だった。篠江家に保護され、養育されていたのだ。それは峰月杏の母親が龍月の両親を庇って事故に遭い、その命を落としたからだ。その恩に報いる為に龍月の両親は峰月杏とその弟、桃李を篠江家で養育し、更には杏を将来の篠江家の夫人にまでさせようとしていた。だから私は母を杏の父親と結婚させた。私と杏は義理の姉妹になった。義理とは言え、姉妹なのだから私という存在は無視出来なくなるだろうと思ったからだ。けれど。龍月の両親は何故か、私を嫌っていた。まるで全てを見透かしているかのようだった。そう、私が自分の母を杏の父親と結婚させ、密かに杏に嫌がらせしていた事も、そしてあの事故も。私は龍月の事をもちろん、ずっと前から知っていた。世界的な大会社・篠江グループの御曹司。イケメンで少し冷たさのある顔立ち、背が高く、スラッとしていて、立っているだけでモデルのようだと持て囃されていたからだ。私は大学に入ってすぐに龍月と出会う事が出来た。こんなに完璧な人は居ないと思った。美しく儚げな私と釣り合うのは龍月だけだった。だから私は時間をかけて龍月との距離を縮めていき、やっと付き合えるところまで漕ぎ付けた。龍月の心さえ私にあれば、龍月の両親も杏との結婚を強行しないだろうと思っていたけれど、そうじゃなかった。杏と結婚しなければ、篠江家を継がせないとまで言われたのだ。冗談じゃない。篠江龍月は篠江家の御曹司だから、その価値があるのだ。だから私は考えた。一度、結婚をさせ、その後、無一文で杏を追い出してやろうと。そしてその時には杏を庇護している龍月の両親が事故で死んでしまえば、誰も杏の味方は居なくなる、そう考えた。けれど、事故は龍月の両親を怪我させただけで終わってしまった。私は焦って、自分を同じ男に誘拐させた。誘拐され怪我をすれば龍月はまた私に付きっきりになる。妻という立場を手に入れたとしても、杏はただのお飾りで本当に愛されているのは私だと、杏に示せればそれで良かった。けれど、その裏で今度は龍月の両親から大金を渡され、海外に行くように言われたの
Last Updated : 2025-10-19 Read more