All Chapters of あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した: Chapter 21 - Chapter 30

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21話 華凜の誤算

華凜視点:私は自分の部屋でイライラして歩き回っていた。(峰月杏……彼女はまだ龍月の心の中に居る……)(せっかく追い出したのに!妊娠まで偽装して、離婚させたのに!)峰月杏は龍月の両親と仲が良くて、私はいつも龍月の両親から疎まれていた。私が大学生の頃、峰月杏は孤児だった。篠江家に保護され、養育されていたのだ。それは峰月杏の母親が龍月の両親を庇って事故に遭い、その命を落としたからだ。その恩に報いる為に龍月の両親は峰月杏とその弟、桃李を篠江家で養育し、更には杏を将来の篠江家の夫人にまでさせようとしていた。だから私は母を杏の父親と結婚させた。私と杏は義理の姉妹になった。義理とは言え、姉妹なのだから私という存在は無視出来なくなるだろうと思ったからだ。けれど。龍月の両親は何故か、私を嫌っていた。まるで全てを見透かしているかのようだった。そう、私が自分の母を杏の父親と結婚させ、密かに杏に嫌がらせしていた事も、そしてあの事故も。私は龍月の事をもちろん、ずっと前から知っていた。世界的な大会社・篠江グループの御曹司。イケメンで少し冷たさのある顔立ち、背が高く、スラッとしていて、立っているだけでモデルのようだと持て囃されていたからだ。私は大学に入ってすぐに龍月と出会う事が出来た。こんなに完璧な人は居ないと思った。美しく儚げな私と釣り合うのは龍月だけだった。だから私は時間をかけて龍月との距離を縮めていき、やっと付き合えるところまで漕ぎ付けた。龍月の心さえ私にあれば、龍月の両親も杏との結婚を強行しないだろうと思っていたけれど、そうじゃなかった。杏と結婚しなければ、篠江家を継がせないとまで言われたのだ。冗談じゃない。篠江龍月は篠江家の御曹司だから、その価値があるのだ。だから私は考えた。一度、結婚をさせ、その後、無一文で杏を追い出してやろうと。そしてその時には杏を庇護している龍月の両親が事故で死んでしまえば、誰も杏の味方は居なくなる、そう考えた。けれど、事故は龍月の両親を怪我させただけで終わってしまった。私は焦って、自分を同じ男に誘拐させた。誘拐され怪我をすれば龍月はまた私に付きっきりになる。妻という立場を手に入れたとしても、杏はただのお飾りで本当に愛されているのは私だと、杏に示せればそれで良かった。けれど、その裏で今度は龍月の両親から大金を渡され、海外に行くように言われたの
last updateLast Updated : 2025-10-19
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22話 運命のいたずら

週末。私は子供たちを連れてショッピングモールへ来ていた。翌年に控えた小学校への入学の為に色々な物を揃えないといけない。こういう事は早めに動いた方が良いのだ。ランドセルを売っているお店に行き、桜丞も苺果もそれぞれ自分の好きな色をのランドセルを選んでいる。私はそんな二人を見ながら微笑む。もう小学生か。そうなれば今よりももう少し、自分の事を自分で出来るようになるだろう。「ママ―、私、これにするー」苺果がそう言って見せて来たのはキャメル色のランドセル。「僕はこれにするー」そう言って桜丞が見せて来たのは黒と青のランドセルだった。「じゃあ、これにしよう」そう言って店員さんに包んで貰い、住所を伝える。ランドセル二つを持って帰るのは私一人では無理だからだ。私が店員さんと話している間、二人には大人しく待っているように伝えた。「こちらの品にはオプションとして~」店員さんが説明をする。それを聞きながら私は二人のランドセル姿に思いを馳せた。入学式の服は二人がもう少し大きくなることも考えて、大きめのものを買うか、ギリギリまで待つか。悩ましいところだ。目を離したのはそれ程、長くはなかった筈だった。けれど店員さんとやり取りを終えて、振り返った時には二人の姿は無かった。「桜丞?苺果?」名前を呼びながら私はお店の中を一周する。支払いも配達の手配も済んだ私はお店の中を見回ったけれど、二人は居ない。(どこへ行ったの?)そう思いながら私はお店を出る。店員さんも心配してくれて、もし見つかったら連絡をくれるというので電話番号を伝えた。お店から出て周囲を見回す。どこにも居ない。少しずつ焦りが出始める。ここに居た方が良いだろうか。それとも歩き回った方が良いだろうか。とにかく私は一旦、桃李に電話をした。今日、商業施設に来ている事は事前に伝えてあったからだ。桃李に一通り説明すると、桃李はすぐにここへ来てくれる事になった。しかも、診療所の同僚たちも一緒に来てくれると言う。(普段は私から離れて遠くまで行くような子たちじゃないのに)店員さんが気を利かせてくれて、店内放送もしてくれる事になった。時間が経つにつれて焦りが募って来る。(もしかして誰かに攫われたの?)そんな嫌な想像さえ、してしまう。けれどうちの子たちを誘拐したところでお金なんて……そう思っていると、声が掛かる。「姉さん!」桃
last updateLast Updated : 2025-10-20
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23話 予感と予測

「ママは?」そう聞くと女の子の方が言う。「ママはランドセルのお店に居ると思うの」話している女の子の方も不安なんだろう、泣きそうになっている。「そうか」そう言って男の子を立たせ、言う。「君は男の子だろう?泣いてばかりではダメだぞ?こういう時は男の子が女の子を守ってあげないといけないんだ」そう言うと、男の子は涙を拭き、泣くのを堪えている。その姿を見ると俺まで何だか泣きそうだった。「良し、偉いぞ。良い子だ」そう言って二人の子の頭を撫でる。二人の子はどこからどう見ても男の子は俺に似ているし、女の子は杏に似ている。胸が高鳴る。もしかしたら杏がここに居るかもしれないのだ。「篠江様、あの……」背後で海原グループの人間が俺を急かす。抜けられない仕事である事が悔やまれた。俺は言う。「門田、二人を母親の元まで送れ」そう言うと門田が頷く。「はい、龍月様」◇◇◇「ママ―!」二人の子供たちが走って来る。「桜丞!苺果!」私は走って来る二人を抱き留める。「どこに行ってたの!」そう言いながら二人を抱き締める。二人は泣きながら私にしがみついている。ゆっくりと歩いて来る人の気配がして、私は顔を上げる。そこにはあの、篠江グループ、龍月の秘書である門田さんが居た。「奥様……」門田さんはそう言って、私を見ている。彼を見た事で一気に状況が分かる。(龍月がこの街に来ている……?)そう思ったけれど、もしかしたら門田さんだけで来ているかもしれないと思い直す。私は立ち上がり、言う。「もう私は奥様じゃないわ」そう言うと門田さんが苦笑する。「杏様、お久しぶりでございます」門田さんが礼儀正しくそう言う。「そうね、久しく会っていないわね」そう言って私は子供たちを背後に隠し、言う。「もう行くわね。子供たちを送り届けてくれてありがとう」そう言うと私は門田さんに背を向ける。話したくない。そう思ったからだ。一度だけ振り返る。門田さんは礼儀正しく私に頭を下げたままだ。まるでロボットのような人だなと思う。感情が読み取れない人だ。私はすぐに桃李に電話をかけ、子供たちが見つかった事を伝え、ランドセルのお店の方にも謝意を伝える。桃李と合流し、家路につく。マンションに入り、部屋に入ってやっと一息付けた。「姉さん、何かあった?」そう聞く桃李に私は言う。「今日、モールで誰を
last updateLast Updated : 2025-10-21
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24話 二人の子供

俺はホテルを取った。本来なら自身の住んでいる南陽市に戻れる距離だったけれど、明日には関グループとの会合がある。それを理由に俺はこの東山市に居残る事にしたのだ。杏がこの東山市のどこかに住んでいる。門田が子供たちを送ったのであれば、杏も俺がこの街に来ている事も分かっただろう。逃げるだろうか。それとももう関係無いと開き直るだろうか。「杏は元気にしていたか?」部屋でソファーに座り、そう聞くと門田が言う。「はい、お元気なご様子でした」そう言われて思わず笑みが漏れる。(そうか、元気にしていたのか)俺はグラスの中のワインを揺らしながら聞く。「子供たち……男の子は俺に良く似ていたと思うんだが、お前はどう思う?」門田が珍しくほんの少し微笑み言う。「はい、龍月様に良く似ておいででした」そう言われて俺が感じた、俺によく似ているという感覚は間違いでは無かったと思う。「女の子の方は杏に良く似ていたな」そう言うと門田が頷く。「はい、良く似ていると思います」まさか杏が双子を産んでいたなんて。そんな事だとは露ほども思っていなかった。双子か、産むのもここまで育てるのも大変だっただろう。医師の弟が居るとは言え、産んだのは杏なのだから。(俺はこの5年、何をしていた?)最初は否定した。杏が両親の事故に関わっていると、そんな手紙が来て、俺はその手紙の内容を信じ、更にその時に誘拐された華凜の言葉を信じた。杏が去って行き、その直後に杏の妊娠が分かった時にはもう遅かった。杏は完璧にその消息を絶った。俺は狂ったように杏を探し、人を使って探させた。けれど杏の行き先が分からなかった俺は、その後、しばらく酒に溺れた。何故、自分がこんなにも憤っているのか、分からなかった。俺は華凜と付き合い、華凜の事を愛していた筈なのに。結婚してからも杏とは両親の顔を立てる為だけに夫婦として過ごして来た。結婚式の翌日には自分を縛るように感じた指輪を外し、仕事だと言って、極力、杏との距離を取った。杏は俺に不満そうな顔を一度も見せず、俺に従順だった。篠江夫人という名前を与えてやったのだから、それで良いだろうと思っていた。孫を、後継者を望む両親の為に義務で夫婦生活もあったが、それは俺にとっては義務だった筈だった。酒を飲み、俺は想像の中で腕の中に居る女が華凜だと思い込もうとまでしたのだ。あの細くて小さな体で双
last updateLast Updated : 2025-10-22
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25話 それぞれの思惑

それでも杏の行方は杳として知れず、私は安心していた。どこを探しても杏が居なければ、杏の産んだ子供たちが居なければ、私の存在は龍月の中では絶対である筈だった。龍月は何をもってしても、私の言う事を信じてくれたし、疑う事も無かったのだから。龍月が帰って来たら、また体調不良を言い訳にして、龍月との時間を増やそう。そして今度は本当に妊娠する為に龍月を誘惑すれば良い。杏に子供が居ようが居まいが、私自身が子供を授かれば、杏の子供になんて目もくれなくなるに決まっているんだから。◇◇◇その日のうちに何か動きがあるかもしれないと思っていたけれど、何の動きも無かった私は拍子抜けしていた。(あの篠江龍月が何も仕掛けて来ないなんて、有り得るの?)でも私は篠江龍月とは離婚した身。今はもう龍月は華凜と結婚しているかもしれないし、その可能性が大きい。私にはもう用は無いかもしれない。私を探していると風の噂に聞いたのも、ここへ越して来た5年前の話だ。その後からはそんな噂も聞かなくなっていた。だから私はここ東山市に腰を据えのだ。今日は昨日、頼んだランドセルが届く日だ。朝から子供たちはウキウキとしながらランドセルを待っている。「昨日は送ってくれたおじさんがあなたたちを見つけたの?」そう聞くと苺果が首を振る。「ううん、別のおじさんが転んだ桜丞を起こしてくれたんだよ」(別の人……龍月かもしれない)「どんな人だった?」そう聞くと今度は桜丞が言う。「すっごく格好良いおじさんだったよ!」格好の良いおじさん、か。そう思って笑う。確かにそれが龍月なら、あの容姿は国宝級だろう。そしてその遺伝子は確実に桜丞に受け継がれている。成長するに従って、桜丞は龍月に似て来ている。「男なら泣いてばかりいないで女の子を守らないといけないって言ってた!」女の子を守らないといけない……確かに龍月ならそう言うだろう。彼はずっと華凜を守って来たのだから。チャイムが鳴る。インターフォンで確認して、ドアを開ける。配達人が大きな箱二つを届けてくれた。子供たちは大喜びで箱を開ける。中には昨日選んだランドセルが入っている。それぞれランドセルを取り出し、背負って見せてくれる。可愛い子供たち……龍月が華凜と結婚し、子供が居るなら私との子たちには興味は無い筈だ。龍月の今については、何も知らなかった。興味も無い。私の龍月に対す
last updateLast Updated : 2025-10-23
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26話 再会

門田にそう聞くと門田が言う。「入るには入っていましたが、ここは海原グループと関グループが仕切っている街です。杏様を探すにしても正当な理由が無ければ、難しい事であった事は事実です」正当な理由と言われてしまえば、それを覆す事は出来ない。正式な手順を踏んで杏とは離婚している。離婚した以上、俺が杏を探しているなどと、公には出来なかった。しかも俺は杏と離婚した後、華凜との関係を隠さなかった。今では華凜が次の篠江夫人とまで言われて久しい。ただ俺の両親がそれを許さず、華凜とは結婚出来ていないが。「今の様子はどうなんだ?」そう聞くと門田が言う。「杏様は弟の桃李様とご一緒に、杏様がお産みになった双子のお子さんを育てたようです」俺は気になっていた事を聞く。「男の影は?」そう聞くと門田が言う。「男性の庇護は受けていないようです。いつも常に弟の桃李様が傍に居たようです」そう聞いてホッとする。「そうか」そう返事をしながら、俺はホッとしている自分に笑う。俺にその資格があるのか?まだ離婚する前なのに、華凜を傍に置き、華凜を妊娠までさせた俺が、杏に対して何か言う事が出来るのか?杏が慰謝料も受け取らずに出て行ったのは、ただ意地を張っているだけだと思っていたが、俺からの慈悲も庇護も必要無いのだと、あの離婚届を受け取った夜に気付くべきだったのだ。ふと笑いが漏れる。(俺は何も見ていなかったんだな……)「杏に会う」そう言うと門田が言う。「はい、龍月様」俺は車で移動しながら、両親に電話した。「あ、母さん?」電話に出た母さんにそう言うと、母さんが言う。「龍月、どうしたの?昨日は帰らなかったじゃない」俺は少し笑って言う。「仕事だったんだよ、少し遅くまでかかったから、こっちに泊まったんだ。それよりも」そう言って言葉を区切る。「見つけたんだ、杏を」そう言うと母さんが言う。「見つけたの?やっと杏を見つけたのね!どこに居るの?杏はどこ?」そう矢継ぎ早に言われ、笑う。「これから会って来る。話をしてくれるか分からないけど、それでも会ってみるよ」そう言うと母さんが言う。「杏に誠心誠意謝るのよ、何を言われても反論せず、とにかく戻って来るようにお願いするの。あの子はあなたの子を産んでいるんでしょう?」そう言われ、俺は頷く。「あぁ、二人の子供にはもう会ってる」母さん
last updateLast Updated : 2025-10-24
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27話 再会はほろ苦く

着いたのはショッピングモール。(龍月がここでランチ?)そう思ったけれど、どうやら商業施設からほど近いレストランへ行くようだった。(そうよね、龍月が庶民のお店でランチなんてする筈無いもの)そう思って笑う。すぐに個室が手配され、私たちは個室へ案内される。(こんな高級なレストランで食事だなんて、久しぶりだわ)そう思う。以前はこれが当たり前だったのだ。「子供たちにも食べやすい料理を用意させるよ」龍月は優雅にそう言って、私の為に椅子を引く。龍月にこんなに親切にされるなんて、初めてかもしれない。どういう風の吹き回しなのだろう。「何でも好きな物を」龍月はそう言ってメニューを渡してくれる。私は思わず吹き出して聞く。「今日はどうしたの?」そう聞くと龍月も苦笑いしている。……という事は自覚があるという事だ。「5年ぶりに会ったんだ、懐かしくて、な」子供たちには食べやすい物が用意され、私はメニューの中から適当に選び、食べる。龍月の目の前には何も並んでいない。「食べないの?」そう聞くと龍月が言う。「昼は食べる事の方が少ないんだ、だから食べる習慣が無くなった」子供たちの食事の様子を見ながら私は言う。「食べないと体に悪いわよ」龍月はそう言う私に笑い、メニューを差し出して言う。「選んでくれ」微笑む龍月を見ながら私は思う。以前はこういう役目は華凜が担っていた筈だ。「おじさんはママが選ばないと決められないの?」苺果が私に聞く。私は笑って言う。「おじさんはいつも美味しいものをたくさん食べているから、飽きてるのよ」龍月からメニューを受け取り、オーダーを出す。食事が一通り終わると、子供たちは動きたくてウズウズしているようだった。それを見た龍月が言う。「誰か人を」そう言う。私はそれを聞いて言う。「良いわ、一通り食事は終わったし、子供たちを連れて帰る」そう言うと龍月が言う。「食後のコーヒーを飲んで行ってくれ」龍月がそう言った時には龍月の言った「人」が来て、子供たちを別室へ連れて行ってしまった。そうされて私は龍月が何か話したい事があるのだと悟る。食後のコーヒーが運ばれて来て、一口飲んだ後、聞く。「で、話したい事は何なの?」そう聞くと龍月が苦笑いする。「子供たちの事だ」そう言われ私は覚悟を決める。「何を聞きたいの?」そう聞くと龍月が聞く
last updateLast Updated : 2025-10-25
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28話 母からの電話

関麗グループとの商談が終わる。関陽斗はまだ若いが実力があった。昨日の海原グループとの商談よりも関麗グループと組んだ方が利益は見込めるだろう。だがそんな事は度外視しても、俺は関麗グループと組む事をほとんど決めていた。それはもちろん、杏が関麗グループで働いているからだった。我が篠江グループが関麗との提携を決めれば、もしかしたら杏とも会う機会が増えるかもしれない。そんな打算もあった。「そういえば御社にはデザイン部に優秀な人材が居ると聞いていますが」俺がそう切り出すと関陽斗が言う。「弊社には優秀な人材が揃っております。どの人物も他社に引けを取らない人材です」関陽斗は杏の事を知っているのだろうか。それとも数多く居る社員の一人なのか。「最近、随分と速いスピードで昇進した女性が居ると、風の噂で聞きましたよ」そう言うと関陽斗が笑う。「あぁ!そうですね、彼女はうちの自慢の人材ですよ」一応、杏の事は認知はしているようだと察する。「ご興味が?」関陽斗にそう聞かれ、俺は頷く。「えぇ、大いに興味がありますね」そう言うと関陽斗が笑う。「参りましたね、うちからヘッドハントされても困りますので、その女性は隠しておかないと」ただの冗談だと分かっていても、まるで杏を所有物のようにそう言う関陽斗に少し苛立つ。提携の契約書にサインし、握手をする。「篠江グループさんと提携出来るなんて、光栄です」社交辞令なんだろうという事は分かってはいるが、関陽斗から聞くと何だか嫌味のようにも聞こえる。「この後、食事でもいかがですか?提携のお祝いでも」そう言われたが俺は固辞する。「いや、この後、予定があるので」そう言うと関陽斗が微笑む。「そうですか、それでは食事はまた今度」車に乗り込み、門田に聞く。「杏は家に居るのか?」門田が言う。「はい、ご自宅までお送り致しました」俺は窓の外の景色を見て、息を付き、スマホを取り出す。杏にメッセージを送る。~商談が終わった、食事でもどうだ?~スマホをずっと眺めながら返事を待つ。その間にも実は華凜からメッセージが何通も来ていた。どれもくだらない内容だった。返事をするのも面倒だと感じるくらいには。メッセージが返って来る。~お誘いありがとう、でも結構です~たったそれだけの文章だった。それを見て苦笑いする。断る為の理由すら書かずに、断られ
last updateLast Updated : 2025-10-26
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29話 目覚めの兆し

「私と龍月が結婚出来ないのは杏姉さんが龍月のご両親に私の事を悪く言っているせいよ、きっと」「杏姉さんはあなたの事が好きだし、ご両親に取り入るのも、すぐに出来るわよね」「篠江の家で家政婦をやっているんだもの、ご両親から見たら私のような女の方が恵まれている分、ただ遊んでいるように見えるでしょうね……」俺と華凜は華凜が大学生の頃に出会っている。綺麗な子だなとは思ったが、特筆すべき点は無かった。俺はその頃、篠江グループの事について学んでいて、経営の難しさを実感していた。大会社ともなれば、その仕事の量も尋常では無かったからだ。そんな中で華凜は俺に気遣いを見せ、疲れた俺にいつも手作りの食事を用意して届けてくれたりしていたのだ。その頃の杏は篠江家で家政婦のような事をしていた。だから杏には何の能力も無いと俺は杏をいつしか見下していた。(何故、見下していたんだ……?)そう考えた時に思い出されるのはどれも華凜からの言葉たちだ。「杏姉さんは貧しい生まれで出自が卑しいから、篠江家で家政婦くらいしか出来ないって聞いたけど、料理も上手だし家庭的よね」「杏姉さんは龍月のご両親と懇意だから、私の悪口を吹き込んでるみたい……」「私が龍月と付き合っているのに嫉妬して、邪魔をしたいのよね、きっと……」「杏姉さんは家族からも疎まれていて可哀想な子なの。だから龍月のご両親が面倒見てるのよね」(そんな言葉の積み重ねが俺の判断力を低下させていた……?)「あなた、幼い時に杏に助けて貰ったでしょう?その時にあなたが何を言ったのか忘れたの?龍月、あなたは杏とずっと一緒にいたいって、結婚したいってそう言ったのよ?」電話の向こうで母親の声が重なる。俺はずっと杏が俺の事を好きだから、愛しているから、俺の愛を独占している華凜を嫌っているんだと思っていた。俺から見た杏はいつも大人しく控えめで自分の意見の主張などしない、俺が杏をどう扱っても文句など言えない、言える立場じゃないと、ずっとそう思って来た。でも母親に言われて思い出したのは、確かに俺が幼い頃、誘拐されかけ逃げ出し、その時に手を差し伸べてくれたのが杏だった。そして自分が助けてくれた杏に少なからず、好意を抱いていた事もまた事実だ。華凜の言う通り、杏の生まれは裕福では無かったが、それでも華凜が言う程、卑しい訳では無い。それは結婚する前に身上調査
last updateLast Updated : 2025-10-27
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30話 その雨は恵みか懺悔か

門田さんの手配した車で家に帰り着いた私たちは、家に居た桃李に驚く。「桃李、来てたのね」そう言うと桃李は桜丞を抱き上げながら言う。「姉さんこそ、どこに行ってたんだよ」そう言われて私は笑う。「聞いたら驚くわよ」そう言いながら苺果を抱き上げる。「格好良いおじちゃんとご飯食べたんだよ」そう言ったのは桜丞だ。「格好良いおじちゃん……?」訳が分からないという顔をしている桃李に笑う。「ランチしたのは篠江龍月よ」桃李は驚いて私を見ている。「篠江龍月とランチしただって?」私は笑い、苺果を下ろすと、言う。「苺果、桜丞と一緒に向こうのお部屋で遊んで」そう言うと苺果が頷く。桃李が桜丞を下すと、二人は手を取り合って、隣の部屋に行く。桃李が二人が出て行ったのを見届けてから聞く。「一体、どういう事なんだよ、あの篠江龍月とランチするだなんて」私は笑って桃李に椅子を勧め、話す。「今日、ランチをしようと思って外に出たの。そしたら篠江龍月が外で待ってたわ」私はキッチンに行き、桃李の好きなコーヒーを入れる。「昨日話したけど、子供たちを保護してくれたのは篠江龍月よ。門田さんは篠江龍月の命令に従っただけ」桃李にコーヒーを差し出す。桃李はそれを受け取って聞く。「それでどうしてランチなんて事に?」私は笑って言う。「桜丞がね、篠江龍月の車に興味を持っちゃってね。勝手に乗り込んだのよ」子供のやる事に罪は無い。子供ならあんなに豪華な車だったら一度は乗りたいだろう。「それで?篠江龍月は何だって?」桃李に聞かれて私は溜息をつく。「それが目的が何なのか、良く分からなくてね」桃李がコーヒーを一口飲んで聞く。「親権じゃないのか?」そう言われて私は頷く。「私も最初はそう思ったんだ
last updateLast Updated : 2025-10-28
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