雨の中、マンションを見上げる。杏の居る部屋は5階だ。もう調べはついていた。傘をさそうとした門田に俺はそれを断り、車で待つように伝える。何故、雨の中、立っているのか。この雨ですべてが流れてくれれば……そういう思いも無かった訳では無い。ここへ来る間中、俺は自分の行動と言動を思い返し、後悔していた。母から聞いた事、自分で思い返してみた事、そして俺のとった愚かな行動や言動すべてが杏を否定していたのだ。雨に濡れるくらいではもちろん、流せない事も分かっていた。これくらいでは何の贖罪にもならない。それでも俺は杏に会わなければならない。会って謝罪をし、許しを乞わなければならない。 (5年だ……5年も俺は杏を見つけられなかった、その間、杏がどれだけ辛かったか……) いや、それだけでは無いだろう。今まで俺はずっと杏を煩わしく思い、邪険にして来た。結婚指輪でさえ、付けて来なかったのだ。俺はどれだけ杏を傷付けたのだろう。 マンションの入り口に人影が見えた。それはタオルを手に持って駆けて来る杏の姿だった。杏が俺の前まで駆けて来ると、すかさず門田が車から出て来て、杏に傘をさす。杏は俺にタオルを差し出し、言う。「何の真似なの?」その声は苛立ち交じりだったが、その実は心配なのだと分かる。俺がタオルを受け取らないでいると、杏は俺の頭や顔をそのタオルでゴシゴシと拭き始める。「風邪でもひいたらどうするの!」まるで母親のような口調でそう言う杏は、俺の知っている杏では無かった。傘をさしている門田の口元が少し緩む。それはそうだろう。こんなふうに俺の頭や顔をタオルでゴシゴシ拭く人間は母親以外では存在しない。俺は杏の手首を掴む。「心配してくれるなら、俺を中に入れてくれ」そう言うと杏は俺を見上げ、言う。「それは出来ないわ。うちには今、子供たちが居て、桃李も来てるもの」 (そうか、弟が来てるんだな) 杏を助け、杏
Terakhir Diperbarui : 2025-10-29 Baca selengkapnya