柚葉には、不思議と人を落ち着かせる空気があった。今の夏鈴は、見知らぬ相手に強く身構えてしまう状態だ。それなのに、柚葉としばらく話しているうちに、張っていた気持ちが、少しずつ和らいでいく。思っていたより、言葉が自然と続いていた。しばらくして、柚葉は穏やかな声で尋ねる。「夏鈴、もし良かったら……少し二人だけで話してもいいかしら?」夏鈴は少し迷ったようだった。彼女はまず優斗を見て、それから奈穂へ視線を向ける。二人の優しい視線を見た瞬間、不思議と心が少し落ち着いた。そして小さく頷く。「……はい」「ありがとう」柚葉は奈穂と視線を交わし、柔らかく頷き返した。それを見て、奈穂たちは一旦病室を出ることにした。病室の近くには、病院側が特別に用意した休憩室がある。病院側は正修と奈穂の立場を分かっているから、対応にも自然と気を遣わざるを得ない。休憩室には小さなキッチンまで備え付けられていた。広くはないが、必要なものは一通り揃っている。部屋に入るなり、付き添いのスタッフが気を利かせて尋ねた。「何かお飲み物をご用意しましょうか?」奈穂は特に飲みたい気分ではなく、首を横に振る。「私は大丈夫です」「じゃあ、コーヒーを一杯お願いします」ソファへ腰を下ろしながら、優斗はこめかみを揉んだ。その表情には隠しきれない疲れが浮かんでいた。夏鈴の前では気丈に振る舞っていた。だが病室を出た今、さすがに張り詰めた糸が緩んでしまったのだろう。今の彼には、コーヒーが必要だった。スタッフは頷き、準備へ向かう。奈穂と優斗の共通の話題といえば、結局は夏鈴のことだけだ。だがもう話せることも、ほとんど残っていなかった。だから今は、特に言葉もなかった。奈穂は別のソファへ座り、スマホを取り出して正修へメッセージを送る。【こっちは順調だよ。そっちはどう?】今日、正修はある人物の見舞いへ向かっていた。その人は岳男と昔から付き合いのある人で、昨夜突然倒れたらしい。有名な医師たちが屋敷に呼ばれたと聞いているから、まだ予断を許さない状態らしい。ちょうど正修が川岸市にいたため、祖父の代理として見舞いに向かっていた。奈穂からのメッセージが届いた時、ちょうど彼の車は大きな屋敷の門前に停まったところだった。降りようとドアへ手をかけた瞬間、スマ
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