「こ、ここは衣裳部屋で……。元々、律さん一人で住んでいたお部屋だったので私の荷物が入りそうになくて。そうしたら、衣裳部屋にするために、律さんが隣のお部屋を借りてくれたんです」「へー、律が。そうなのね」香澄さんは納得したのか分からない曖昧な笑みを浮かべたまま、それ以上は言及してこなかった。しかし、そのことが私をより一層不安にさせた。「あ、そうだ。凜ちゃん、お出かけよね?呼び止めちゃってごめんなさい」「いえ。香澄さんも今から内覧ですよね。声を掛けてくださってありがとうございます。また今度ゆっくりお会いできると嬉しいです」社交辞令的な挨拶を交わし、私はエレベーターに乗り込んだ。一階のエントランスホールを早足で歩きマンションから出ると、周りに誰もいないのを確認してから、すぐさま律に電話を掛けた。「はい。今、仕事中だ。何の用だ?」相変わらずの冷たい律の声が返ってくるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。「何の用じゃないわよ!今、出掛けようと部屋を出たら香澄さんに会ったの。香澄さんが今度このマンションに引っ越してくるかもしれないのよ。しかも、同じフロアだって!」「何だって?それは本当か?」
Last Updated : 2025-10-06 Read more