All Chapters of 誰が悪女だから幸せになれないって?〜契約結婚でスパダリを溺愛してみせる〜: Chapter 51 - Chapter 60

86 Chapters

53. 赤いグロスの持ち主

「あ、今日ねケーキ食べようと思って注文していたんだ。もうすぐ着くらしいから受け取ってくるね」食事を終えてお皿を片付けてしばらくしてからの事だった。香澄さんがケーキの受け取りに行くために玄関に向かうと、隼人も手伝うと言って一緒に部屋を出ていった。(隼人さんって誰に対しても紳士な対応よね。律とは大違いだわ)私は、隼人たちの背中を見送ってからトイレを借りた。リビングに戻ろうとしている時だった。「律君、この前はシャツ汚しちゃってごめんね。大丈夫だった?」二人は立ったまま話をしており、瑠理香が律の服の袖を掴んでいるのが見えた。律は視線を逸らし、わずかに落ち着かない様子だった。「大丈夫です。気にしないでください」「でも、落とすの大変だったでしょ。それにあんな真っ赤なシミを胸元の目立つ場所につけてしまったし」(真っ赤なシミ?……胸元?)この前、律の部屋で見つけた、Yシャツのグロスのシミを思い出す。あのシミも、赤く胸元と襟についていて、持ち上げると甘い香水の匂いがふんわりと香ってきた。腕を掴む瑠理香は、律の口元に頭があり、彼女の唇はちょうど律の胸のあたりだった。
last updateLast Updated : 2025-10-12
Read more

54. 鋭い視線と攻撃

それからというもの、瑠理香さんの律への視線も、律の瑠理香さんへの態度も、一つ一つが気になって仕方がなかった。(いくら契約結婚とは言え、シャツにグロスがつくくらい親密な距離の人を私に会わせたりする?普通しなくない?)考えれば考えるほどイライラしてしまい、感情を隠すために作り笑顔の口角を意識して上へ上へとあげていた。五人でテーブルを囲み、誕生日席に香澄さん、私の隣は隼人さん、律の隣は瑠理香さんだった。この席次から見ても、律と瑠理香さんがまるで夫婦のように見えた。「凛ちゃん、あの後ラウンジ行った?」「行きたいと思っているんですが、まだ行けていないんです。あと、この前はご馳走様でした」「いいよ。僕はこの前行ってきたんだけど、前と季節限定のケーキが変わっていて、今月は栗とりんごになっていたよ」「え!栗!?モンブランが大好きなんです。近いうちに行ってみます」ケーキを食べていると、隣に座っていた隼人が思い出したかのようにこの前ラウンジで一緒にアフタヌーンティーをしたことを話しかけてきてくれた。私がその話に乗ると、すぐさま瑠理香さんが鋭い視線と共に食いついてきた。「隼人さんと凛さん、一緒に出掛けられたの?いくら親戚でもまだ知り合って間もないし、律さんがいるというのに?」
last updateLast Updated : 2025-10-12
Read more

55. 閉まる扉と消えた笑顔

その後も律は、他の人にはにこやかに接するが私に対する視線は冷たいままだった。「今日はありがとうございました。ご飯、美味しかったです」「いえいえ、またやりましょうね」夕方になるとパーティーはお開きで解散することになり、香澄さん以外が玄関を出る。あとは隼人さんと瑠理香さんがエレベーターに乗るのを見送ったら終わりだと思った時だった。最後の最後で瑠理香さんから爆弾が落とされた。「そう言えば香澄から聞いたんだけれど、律君たち新居とは別に衣裳部屋も借りているの?荷物たくさんあるのね」その言葉に顔が一瞬ひきつりそうになるのを堪え、律に視線を送った。律は私の方をチラリと見たがすぐに視線を逸らし、瑠理香さんの目を見て答えた。「元々一人で住んでいたものですから、リビングと寝室とは別に書斎を作っていまして。仕事をすることもあるので、もう一部屋借りたんです」「そうなのね、律君って仕事熱心ね。それに部屋を借りてあげるなんて優しくて素敵」優しい声で褒める瑠理香さんの律への好意は明らかだった。律もまんざらではない顔をしているのが余計に腹が立った。ピンポーン――――エレベーターが到着する音が鳴り、扉が開いた
last updateLast Updated : 2025-10-13
Read more

56. 期間限定妻の反撃

「隼人さんには近づくな、と言ったはずだがどういうことだ?」部屋に戻りリビングに入ってすぐに律が問いただしてきた。苛立ちながら腕を組み、右手の人差し指を貧乏ゆすりのようにトントントンと叩いている。そのリズムは、彼の平静さを失っていることを示していた。「だからさっき隼人さんが言っていたでしょ?偶然会って次の予定まで時間があるからラウンジでお茶を飲んだだけよ!」「隼人さんは、そう言っていたな。でもそんな偶然があるのか?隼人さんに呼ばれたり、事前に予定を把握して敢えてホテルに行ったんじゃないのか?」「何言ってるの?そんなわけないじゃない!じゃあ、どうすれば信じるって言うのよ!?」律は私の反論を無視し、冷たい視線で突き放した。「俺はただ隼人さんには近づくなと言いたいだけだ」「だからなんで近付いちゃダメなのよ。理由も説明せずにそう言われたって分かるはずないでしょ!何かあなたが隠していることでもあるの?」「お前は俺の妻だろ!」律の怒鳴り声に、私は負けじと声を荒げた。「ええ、そうよ。期間限定のカタチだけのね!! 妻だから、親族の男性と偶然会ってその場でお茶を飲むのもダメなの?二人きりになりそ
last updateLast Updated : 2025-10-13
Read more

58. 触れた唇の理由

「昼の休憩が終わりエレベーターが混みあっている時に、俺は瑠理香さんと会った。同じエレベーターに乗り、人がいっぱいになったので扉を閉めようとした時、後ろから四人組が無理矢理、乗り込んできて、仲間が乗るスペースを確保するために一人乗るたびに勢いよく後退して先に乗っていた俺たちを押しているんだ」律は、説明をしながらどんどんと身体を私に近づけてくる。顔が律の服に触れるか触れないかの距離になると、律は身体を押し付けるように近付いてきた。私の唇が律の胸下にギュッと当たる。驚いて顔を上げると、今度は胸元を小さくかすめ、服の素材が唇に当たる。私は、律のシャツから香る微かな匂いに、心臓がバクバクと高鳴るのを感じていた。「3人目が乗ってきて押された時に瑠理香さんの口がシャツに触れてついたのが1回目の胸元、それに驚いて顔を上げた時に、再度ついたのが襟元だ」私と瑠理香さんは身長が違うので触れる場所は違うけれど、今の話もついた場所も辻蠖は合う。瑠理香さんのシミは、本当に事故だったのだという安堵と、この近さへの緊張で全身が熱くなる。「どうだ、納得したか?」律は私を覗き込むように顔を近づけてきた。息をかけられたら、吐息の温かさを感じそうな距離に、私の心臓はバクバクと大きく音を立てている。「ついた理由は分かったけど、実践までする必要ある?」照れ隠しで顔を逸らせて私が言うと、律は「ふっ」と小さ
last updateLast Updated : 2025-10-14
Read more

59. 契約のキスと嘘の抱擁

「え、ちょっと、何?」律が私の腰に手を回して抱きしめてきたことで、今度は、しっかりと律の胸の鼓動が聞こえてきて、私の緊張をより加速させる。「動くな。ベランダに姉さんがいる。今、目が合ったんだ。姉さんから俺たちの部屋のリビングも、俺たちの姿も丸見えだ。さっきのままだと俺が脅しているようだから、こうして抱きしめた。いいか、今から仲良さげな雰囲気を出せ」「何それ、嘘でしょ?」律は、普段の姿からは考えられないほど私を優しく抱きしめる。背中と頭に添えられた手は温かくて、まるで愛しい人を抱いているかのような仕草に、私は勘違いしてしまいそうだった。―――――高層マンションの全面ガラス張りのリビングで壁ドンしてから抱き合う私たち。そしてその姿を義姉に見られていると思うと、想像しただけで恥ずかしくておかしくなりそうだった。「でも、仲良さげな雰囲気って何?どうすればいいの?」「いいか、今から俺は顔を傾けてキスしているように見せるから、凜は絶対に動くな。振り向いたら駄目だぞ。姉さんがまだいたり、見ているようなら手を振ってジェスチャーで追い払うから」窓ガラスに置いていた左手を私の肩に置き、腰に回していたもう一方の手も、やさしく肩に添えてきた。 律の顔がゆっくりゆっく
last updateLast Updated : 2025-10-15
Read more

60. 嘘の温もりと、止まらない鼓動

「ふぅーもう大丈夫だ。姉さんは会釈して引っ込んだ」十秒くらいしたら、律はゆっくりと腕や身体を私から離していった。安堵でついた律の息が私の頬に生温かい風としてかかる。本当は律も動揺していたようで、髪をかき上げながら、もう片方の手で首元の汗を服で拭いていた。髪をかき上げた時の首から鎖骨にかけて見えるラインが、艶っぽくもあり綺麗で、妙にドキドキしてしまった。「ビックリした。まさかお姉さんに見られるなんて……。それに、こんなに近いのにキスしそうでしないから余計にドキドキした」私が両手で胸を抑えながら吐露すると、律は身体を小さくビクンと反応させた後、すぐにいつもの意地悪な顔に戻った。「なんだキスしても良かったのか?それとも、本当にされたかったのか?」「そ、そんなこと言ってない!!!!」律は私の反応を待たずにリビングから去って行く。その背中を眺めながら、私は自分の指を小さく唇に当てた。(私たちが本当の夫婦で、相手のことを好きだったら、『ふり』じゃなくて本当にキスをしていたんだろうな。律は、好きな人にはあんな風に、それとも、もっと優しく抱きしめるのかな?)普段の冷徹な言葉や態度とは違った律の一面を見て、優しさや温もりに触れてくすぐったい半面、自分が契約妻
last updateLast Updated : 2025-10-15
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status