All Chapters of 誰が悪女だから幸せになれないって?〜契約結婚でスパダリを溺愛してみせる〜: Chapter 21 - Chapter 30

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21.縮まらない距離

下着の一件はあったものの、SNSのフォロワーはその後も順調に増え続け、三ヶ月で一万人以上を獲得した。憧れていた海外ブランドのバッグやキッチン雑貨を紹介する案件依頼も届くようになり、私のインフルエンサー活動は順調だった。料理も、今まで習っていた家庭料理の教室から、パーティーのテーブルコーディネートも学べる、より専門的な教室に切り替えた。毎日の料理ではなく、見て楽しみ悦ばせる、セレブ妻にふさわしい料理を学ぶことにした。「今までは結婚した人にお料理を食べてもらう姿を想像したけれど、今は食事すら別々だし、それなら反応をくれる人に届けるまでよ。でも……」SNSで多少の承認欲求は得られるものの、現実の虚しさは消えない。そして、律との距離はこのままではいつまで経っても縮まらない。三年という期間限定の生活が本当に終わってしまうかもしれないという焦りが私の心をざわつかせる。(プライドとか言っている場合じゃない。行動しないと。)意を決してスマホを取り出して、律にメッセージを送った。『凛:ご飯一緒に食べない?何か食べたいものがあったら作るわ』メッセージはすぐに既読になったが、返事は一向に来ない。ソファでハーブティーを飲みながら動画を見て過ごしていると、二時間以上経ってからようやく返事が届いた。『律:どういうつもりだ、何を企んでいる?』
last updateLast Updated : 2025-09-25
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22.誤解とすれ違いのディナー①

『律:誰が無理していると言った』このメッセージを受け取ったが、律に返信はしていない。だけど、もしかしたら律が本当に来るかもしれない。もし来てもいいように、私は少しの期待を持ちながら、習っているテーブルコーディネートを参考に食卓を整えた。一人一枚ランチョンマットを置いて、高級ブランドの金色に輝くカトラリー、中央には箸と箸置きを丁寧にセッティングする。食卓は、それだけで華やかな雰囲気を醸し出していた。しかし特に連絡はなく、時刻は二十時を回ろうとしている。お腹も空き始めたので、今日も一人で食べようと、前菜とスープを温めなおし、お皿に盛り付けた。(もうヤケだ!ここまで準備したなら、しっかり二人分盛り付けちゃえ!)スープと前菜を二人分盛り付けてテーブルに並べる。そして、SNS投稿用に二人分だと分かるように、向かい側の席まで映りこませて様々な角度から何枚も写真を撮った。テーマは『夫婦で楽しむ休日前夜のゆったりディナー』ワインを嗜みながらおうちで記念日のようなコース料理を楽しんでいる設定だ。写真は綺麗に撮れて、優雅な雰囲気だが実際に食べるのは自分だけ。「あー美味しい。今日はいつもより丁寧に裏ごしして食感も滑らかにしたのよね。私、料理の腕が上がった気がする。」寂しさを埋めるように自画
last updateLast Updated : 2025-09-25
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25.孤独を埋める隼人との時間②

「職場がきっかけでして。結婚前、私はT製薬会社で秘書をやっていたのですが、その時に律さんと知り合いました」この前の叔母のパーティーの時は途中で帰らされて言う機会がなかったが、律と話を合わせておいた答えを滑らかに口にした。まさか、出会いが合コンだなんて言えるわけがない。「そうなんだ。凛さんは前職は秘書だったんだね。美人秘書がいて、凛さんが担当していた役員の方は幸せだっただろうな」「いや、それほどでも……」久々に褒められる感じがくすぐったくも心地がいい。若干言い慣れている感じがしなくもないけれど、愛くるしい子犬のような隼人に言われると嫌な気はしなかった。「お待たせしました―――」ウエイターが紅茶と一緒にティーセットを持ってきた。三段のスタンドには、一口サイズのものが何種類も綺麗に盛り付けられている。「わ、可愛い。あの、写真を撮ってもいいですか?」「もちろん。盛り付けも素敵だよね。思う存分撮ってね」写真を撮っている間、隼人はコーヒーカップを右手で持って飲みながら、私を優しく見守っていた。ティースタンドの奥には、隼人の腕と時計がさりげなく映りこんでいる。「
last updateLast Updated : 2025-09-27
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27.部屋とYシャツと消えない口紅②

律の部屋を覗いたのは、ほんの少しの出来心だった。いや、正直に言えば、この前、私の部屋に入ってくるなり、他の男性を連れ込んだと疑われて部屋中を探し回られた挙句、勘違いだと分かっても謝罪もせずに帰ったことへの苛立ちがまだ残っていた。書斎や寝室は、ハウスキーパーに頼んでいるだけあってモデルルームのように綺麗だ。たくさんの書籍が陳列している本棚も、ほこり一つなくジャンル別に綺麗に整頓され、清潔感に溢れている。(うわー難しそうな本。どこの国の本よ)本棚には、経営やマーケティングのビジネス書や洋書まで様々なジャンルの本が並んでいる。「あ、これ懐かしい」難しそうな本の中に、一冊だけ子どもの頃に流行った海外の書籍が置かれていた。世界中で大ヒットしたその本は、何カ国語にも翻訳されシリーズで映画化され、私でも知っている。(なんだ、可愛いところもあるじゃない)私はクスリと小さく笑い、書斎を後にした。そのまま帰ろうと玄関へ向かっている時だった。洗面所の棚に無造作に置かれた白いYシャツが目に留まる。部屋中が綺麗に整頓されている中で、くしゃくしゃに丸められたシャツはとても目立ち、クリーニング前だということがすぐに分かった。
last updateLast Updated : 2025-09-28
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28.夢で逢えたら

「わぁ、その本、知ってる!続きが今度、発売されるみたいで気になっているんだ!」 夢の中で、中学の制服を着た当時の私が、誰かに向かって話しかけていた。 (あれ、この会話、話した覚えがある―――。たしか中学の時……) あと少しで思い出せる、そう思った時、視界が急に明るくなり私は目が覚めて、ゆっくりと瞼を開けた。 「なんで、こんな夢を見たんだろう?」 中学の時の思い出なんて他にもいっぱいある。初めて彼氏ができたのも中学一年生の時だし、一緒に帰り道を歩いたり、夏祭りで花火を見たりした。それなのに、なぜこのシーンが夢に出てきたのだろうか。 布団の中でぼんやりと考えていたが、夢の中で見た『その本』が、昨日、律の部屋にあったものだと分かり、途端に気分が悪くなった。 「そうだ、私、あの本二巻までは読んだんだ。三巻も楽しみにしていたのに、発売が遅れることになって、熱が冷めて読まなくなったんだった。あーでも、夢で律を連想させるって、なんか……すごく、嫌な感じ。」 私は急に目が冴えて、豪快に布団をめくってから洗面所に向かい、顔に冷たい水を何度もかけた。蛇口から流れ出る水の音に紛れて、Yシャツ姿の律と、律の胸に顔を寄せて微笑む女性の姿が浮かんでくる。 「あーもう、いやいや!本のことも律のことも忘れるんだから!」 気分転換とストレス発散をしたくなり、この日はジムに行きパーソナルレッスンで汗を流すことにした。完全会員制で他の会員と顔を合わせることもなく、自分のトレーニングに集中できるところが気に入っていた。 「あれ、今日なんだか気合い入っていますね。もうワンセット追加しましょうか」 プルプルと震えながらウエイトをこなす私に、トレーナーは笑顔でさらなる追加を言ってきた。 『もう、鬼……!』 心の中でそう呟きながらも、私は必死で追加のセットもこなした。レッスンが終わると心地よい疲労感に包まれて、朝の気分もすっかり良くなっていた。 シャワーを終えて、スマホを見ると律からメッセージが来ていた。 「来週、海外への事業進出を祝って取引先も含めたレセプションパーティーを行う。準備しておけ」 「分かりました」 特に何も考えずに短く返事をした。 しかし、その取引先は、あの人の会社で、まさか会場で顔を合わせることになるだなんて、その時の私は思いもしなかった。
last updateLast Updated : 2025-09-28
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29.思わぬ人物との再会

レセプションパーティーは、芸能人が挙式で使用することでも有名なホテルの高層階で行われた。運転手がマンションまで迎えに来て、私は後部座席で律の隣に座った。 「最初は重役への挨拶のため隣にいてもらうが終わったら好きにしろ。帰りたかったら勝手に帰ればいい」 「分かったわ……」 それだけ言うと、律は窓に頭をもたれさせて、すぐにウトウトと眠ってしまった。彼のシャープな顎からスッと伸びた首筋、そして鎖骨のラインが綺麗で、つい見惚れてしまう。だが、同時にこんな間近な距離で、彼を見ている女性が他にもいるかと思うと、胸の奥がチクチクと痛んだ。 「さっきから何を見ているんだ」 目を瞑ったまま、律が溜め息交じりに呟いてきた。 「ね、寝ていたんじゃないの?」 「視線を感じて眠りたくてもこれじゃ眠れない。俺は疲れているんだ」 「悪かったわね、もう邪魔しないわよ」 顔を窓に向け、ぼんやりと外の景色を見ていた。トンネルを通過するたびに、ガラスに映る物寂しそうな自分の顔と、眉をひそめた律の寝顔が重なって見え、私はその姿に、ますます物思いにふけった。疲れているのは単に仕事のせいだろうか。それとも、あのYシャツのシミの相手との関係が原因だろうか。 パーティー会場のある二十九階にあがると広々としたロビーが私たちを迎え入れる。会場入口では、受付の係員が何人か並んでいた。 「あの受付はあなたの会社の人?」 「いや、取引先の海外事業部の人だな。何人か顔を見たことがある」 受付の順番が回ってくると、髪が顔にかからないように後ろで一つに結い、大粒のダイヤモンドのピアスを輝かせた黒いパンツスーツの女性が律に声を掛けた。 「招待状を拝見します。……蓮見様ですね、お待ちしておりました」 女性がお辞儀をして顔をあげた、その時だった。女性も私に気がつき一瞬動きを止めた。 それは、私が結婚を邪魔しようとした元カレ・啓介の彼女、佳奈だった。左手の薬指に指輪をつけているから、彼女ではなく、きっと今は啓介の妻だ。 元カレの妻に、よりによってこの場所で律の取引先として会うことになったことに、私はひどく動揺をしていた。
last updateLast Updated : 2025-09-29
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30.思わぬ人物との再会

「大和田社長、お世話になっています」 「ああ、蓮見くん。久しぶりだね。君の活躍を聞いているよ。もう専務になったんだって?それから結婚したそうじゃないか。公私ともに絶好調だね」 「おかげさまで。社長のご指導のおかげです」 威勢のいい体格の大和田は、律に笑顔で話しかけた。律も外向きの明るい笑顔で応じた後、私を紹介した。 「美人な奥さんだね、これは蓮見くんがやる気になるのも分かる。これからもよろしく頼むよ」 その声に律は深々とお辞儀をして、大和田を見送った。そして、他の重役にも同様に挨拶を一通り終えると、「もうあとはいい。好きにしろ」と先ほどとは別人かと耳を疑うような冷たく小さな声で私に言ってきた。 「分かったわ」 誰も知り合いのいない立食パーティーの場で、ひとり孤独にワインを飲みながら辺りを見渡している。 会場にいる人々は皆、自分に自信があり輝いていて、成功者独特のオーラを醸し出していた。誰もが煌めいているこの場は、契約妻で特に肩書のない自分には不釣り合いに思えて肩身が狭かった。 (こんな時に隣にいてくれたら、不釣り合いな世界でも自分を認めてくれる人がいるって思えるのにな……。) 「あれ……」 そんな時、会場で談笑している佳奈の同僚、佐藤と一瞬だけ目が合った。佐藤とも、啓介の婚約パーティーで知り合い、律と出会う前のプレミアム合コンで再会し奇妙な縁がある。 佐藤も、まさか私がいるとは思わず目を丸くして驚いている。誰かと話をしていたが、ひと段落すると私のところに来て話しかけてきた。 「誰かと思ったら。なんでここに?」 「今日は夫に言われて来たの」 私は、謙遜しながらも律がくれた一カラットの大きなダイヤモンドが輝く婚約指輪を見せつけるようにバッグを持つ手を左が上になるようにさりげなく動かした。 「おお、結婚したのか。おめでとう。坂本は受付にいるぞ。一緒についてってやろうか?」 「良いわよ。遠慮しておくわ」 「あ、あと。」 佐藤は周囲を気にしてから、内緒話をするように少しだけ顔を私に近づいてきて囁いてきた。
last updateLast Updated : 2025-09-29
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