翌日、康子は久しぶりにぐっすり眠れた。目を覚ますと、隣にはもう誰もいなかった。階下に降りると、和正がキッチンから皿を持って出てきた。彼女を見るなり笑顔で言った。「起きた?顔洗ったらすぐ朝ご飯だよ」彼女は洗顔を済ませてからリビングに降り、テーブルについた。テーブルいっぱいに並んだ見た目も美味しそうな料理を見て、「これ、全部あなたが作ったの?」まさか料理までできるなんて思ってもみなかった。和正は彼女の皿に料理を取り分けながら言った。「そうだよ。これで俺を選んで正解だったと思ったでしょ?」康子は微笑んだだけで、何も言わなかった。食事の途中、和正がふいに口を開いた。「ねえ、康子。辰巳との関係って、実際どうなってるの?なんであいつ、あんたをさらったの?」彼女が一瞬戸惑い、和正はそれに気づいた。すると彼は続けて言った。「もう、大切な人が突然いなくなるのは嫌だから……」その言葉に康子の心がふっと和らいだ。最初は話すつもりはなかったのに、急に、彼には知る権利があると感じた。任務やシステム、記憶を失ったことは伏せたが、それ以外のことはすべて打ち明けた。和正は話を聞きながら、隠しきれないほどの哀しみをにじませた。椅子から立ち上がり、彼女のそばにしゃがみ込んで、手を強く握りしめ、見上げながら真剣な表情で言った。「これからは、必ず君を大切にするよ」それだけを静かに伝えた。余計な誓いは口にしなかった。言葉にするのは簡単だが、大切なのは行動で示すことだから。彼がこれまでで一番真剣な目をしているのを見て、康子の心臓が一瞬止まりそうになった。「……うん、信じる」その日から、彼女は和正の家で暮らすようになった。辰巳はそれ以来一度も姿を見せず、和正も彼のことを話題にすることはなかった。康子も特に気にしていなかったので、わざわざ聞くこともなかった。一緒の生活は思っていた以上に心地よく、気づけばあっという間に一ヶ月が過ぎていた。この日、康子は家で休みだったが、和正は仕事で、午後に電話がかかってきた。「康子、今夜は友達と集まるんだけど、迎えに運転手を向かわせるよ」電話を切ったあと、なんとなく違和感を覚えた。いつもならこういう時は和正が自分で迎えに来てくれていたのに、運転手を派遣するなんて、今回が初めてじゃない?でも彼女は深く考えることも
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