辰巳はかなり酒を飲み、足元がふらつきながら外へ出ようとし、途中で誰かにぶつかって壁に強く押し付けられた。「前を見て歩けよ!」彼は壁に手をついて体勢を立て直し、それを気にも留めずそのまま出口へ向かった。一人で来ていたため、アシスタントを呼ぶつもりもなく、ただあてもなく道を歩いていた。馴染みのある通りに差しかかると、ふと、二人が付き合い始めた頃のことが思い浮かんだ。まだ自分のすべてを取り戻していなかったあの頃、二人は手をつないでこの道を歩き、偶然にもその年最初の雪が降り始めた。そのとき、雪の中で彼は彼女にキスをして、初雪を一緒に見た人とは一生一緒になれると言った。しかしそのとき南はただ笑って彼を抱きしめ、何も言わなかった。すべてには兆しがあったのだ。彼女がいつか去ってしまうことも、最初から決まっていたのだ。しかし後になって彼は、南が自分を見る目に隠しきれない愛情が宿っていることに気づいた。口には出さなくとも、彼女が本気で自分と一生を添い遂げたいと思っていることは分かっていた。もし彼がその後のことをしなければ、彼女は離れていかなかったのだろうか。だが今となっては、そんなことを考えても意味がない。彼女はすでに去り、自分も彼女を見つけることができないのだから。辰巳の口元には苦い表情が浮かび、心は千切り裂かれる思いだった。突然、南によく似た後ろ姿が見える。胸が衝かれ、人混みを掻き分けながら追いかけた。横断歩道を渡るとき、彼の心は目の前のその人を追うことでいっぱいで、横から走ってきた車に気づかず、はねられて地面に倒れた。運転手は慌てて車から飛び出し、周囲には人だかりができ、騒然とした声が響いていた。しかし、辰巳の目にはその人しか映っていなかった。彼は必死に手を前に伸ばし、口からは叫び声が漏れた。「南、南……」しかし、その人はどんどん遠ざかっていき、とうとう一度も振り返ることはなかった。彼は立ち上がって追いかけようとしたが、視界が次第に暗くなり、ついにはそのまま意識を失った。次に目を覚ましたとき、彼はすでに病院のベッドの上にいた。そばには裕司がいて、彼の目が覚めるや否や、すぐに医者を呼びに行った。診察を終えた医者は、「軽い脳震盪ですね。深刻な状態ではありません。数日入院すれば退院できますよ」と告げた。裕司は申し訳な
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