美月は我に返ると、翔真の腕にしがみついた。「翔真くん……父さんも母さんも私を捨てた。今はあなたしかいないの。もし翔真くんまで私を見捨てるなら、もう死んだほうがましよ!」そう訴えても、翔真の瞳に宿っていたのは、深い失望だけだった。彼の脳裏には、あの日の光景が鮮明によみがえる。美月のために彩花を人気のない道に置き去りにし、危うく狼の群れに襲われかけ、ついには崖から転落した――あれは、妹を粗末に扱う彩花への戒めのつもりだった。だが真実は正反対。すべては美月の自作自演で、辛い思いをしてきたのは彩花のほうだったのだ。翔真は彩花を見つめ、言葉より先に涙がこぼれた。彼女の左手に残る傷跡。それは崖から落ちたときについたもの。血まみれで意識を失い、辛うじて枝に引っかかって命をつなぎとめた姿が、まざまざと脳裏によみがえる。押し寄せる罪悪感が、彼を押し潰しそうだった。やがて翔真は美月に振り返り、静かに言葉を落とした。「……俺には、お前の面倒を見続けることはできない。俺たちの間にやましいことなんて何もないんだ。これまで大事にしてきたのは、失われた二十年を少しでも埋めてやりたかっただけ。それに……彩花に代わって償いたい気持ちもあった。俺にとってお前は、ずっと妹のような存在だったんだ。今までの二十年を、お前は何不自由なく生きてきて、戻ってきてからも両親に大切にされてきただろう。なら、俺はもう……」そこまで言って、翔真は自嘲するように首を振った。彼自身もまた、美月をかばい、甘やかしてきた。その裏で、同じ家族である彩花のことを、誰ひとりとして気遣うことはなかったのだ。美月は唇を噛みしめ、真っ赤な目で叫ぶ。「嘘よ!妹だなんて言わせない!だって……だって翔真くん、私が眠ってる間に、キスしたじゃない!」彼女はスマホを掲げ、防犯カメラのスクリーンショットを見せつけた。「証拠はここにあるわ!これでも言い逃れするつもり?」翔真の表情が凍りついた。確かに一度、心の隙に流されそうになったことはある。彩花と違って、美月はいつも彼を慕い、頼りにしてくれた。その依存を、男としての誇りのように錯覚してしまった。「妹を守る」という大義名分を盾に、境界を曖昧にしても構わないと思ったこともある。どうせ、美月が佐伯家に嫁げば、すべて終わるのだから――そう
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