翔真は一瞬言葉を失ったが、すぐに小さく鼻で笑った。「佐伯さん、何を言ってるんですか?佐伯家と藤原家が競合なのは昔からのことです。だが、それは親世代の因縁であって、女を巻き込む話じゃない。彩花は俺の婚約者です。一線を越えないでいただきたい」恭介は気怠そうに視線を上げ、口元に冷たい笑みを浮かべた。「藤原家くらいの実力では、俺に指図できると思うか?」「なに……!」翔真は拳を握りしめたが、次の瞬間には力を抜いて深く息を吐いた。「……今日は美月ちゃんの大事な日です。あなたと口論する気はありません」そう言いながらも、翔真は彩花を振り返る。だが彼の不安は解消されるどころか、むしろ募る一方だった。彩花の瞳は静かで、翔真を見つめても愛情は宿っていなかった。翔真は焦りを隠すように笑みを作る。「彩花、美月ちゃんを見送りに来たんだな、やっぱりお前は優しい。この荷物も……美月ちゃんのために用意した結婚祝いなんだろ?俺が持っていくよ」そう言ってスーツケースに手を伸ばしたが、恭介の手が先に押さえ、びくとも動かない。翔真は声を荒げた。「何のつもりだ?花嫁を迎えにきたのではなく、喧嘩を売りにきたのか!」そのとき、彩花の冷ややかな声が響いた。「手を離して」翔真は勝ち誇ったように笑った。「聞いたか?彩花が手を離せと言ってる。あなたが彩花を利用して藤原家を潰そうとしても、肝心の彩花が同意しなきゃ話にならないだろ」しかし恭介は薄く笑みを浮かべるだけだった。まさか、藤原家の跡継ぎがこんなにも救いようのない馬鹿だとは、思ってもみなかった。「翔真、手を離してって言ってるの」彩花の声が再び響いた。翔真の笑顔が凍っていく。「え?」「佐伯家に嫁ぐのは私よ、だからもう手を離して、遅れたら大変だから」翔真の表情が固まる。信じられないものを見るように彩花を凝視し、それから正一と美佐子へ視線を向けた。「おじさん、おばさん……これは一体……?」重い沈黙のあと、正一が深いため息を漏らす。「本来、佐伯家に嫁ぐのは美月のはずだった。だが先日、彩花が私にこう言ったんだ。自分が嫁ぎたいと。しかも嫁入り道具に一千億を用意しろ、さもなければ美月とお前が不義を働いたと触れ回ると脅してきた……だから――」言葉が最後まで続く前に、翔真
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