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All Chapters of 鍾愛王子のあいしらい: Chapter 21 - Chapter 30

40 Chapters

#20

「いやいやいや!」予想外の話。しかし咄嗟に否定することはできた。「俺は妖魔なんて倒してません。俺が駆けつけた時には既に妖魔は退治されていて、残骸から吹き上がってる返り血を浴びただけなんです」そう。軍の兵士や街の皆にはそう説明した。自分が倒したなどと言ったら、それこそ怪しい奴と判断されて大変なことになる。「俺はお前が本当に倒したんじゃないかと思ってる」「ど、どうして」「初めて会った時、俺はなにかと衝突して階段から転落しただろう。その後、混濁した意識の中でずっと声を聴いていた」起きろ。目を覚ませ、と何度も呼ぶ声。口の中に響く甘い声は、千華とまったく同じだった。「少しずつだが思い出してきたんだ。お前に口付けをされてから、全身の痛みが薄れていった。夢か現か分からない状態でも、身体の内側でお前の熱を感じていた。肌を重ねてからは一層な。初めて抱いたとは思えない馴染み方だった」「そこら辺は省いてほしいんだけど……」「とにかく、お前には妙な力があると思っていたよ」紫弦は肩までかかる髪を後ろに払い除け、瞼を伏せた。「目覚めた時にお前が隣で倒れていて……不思議で仕方なかった。こんな綺麗な青年を見たのは本当に久しぶりだと思ったから……存外、既に一目惚れだったのかもしれないな」煽て過ぎだ。そしてどれも否定しなきゃいけないのに、言葉が中々出てこない。服を掴む手ばかり汗ばんでいく。「それに、お前に正義感があることはよく知ってる。泊まっていた宿を放火された時も、お前がすぐに教えてくれたから、俺も他の客達も助かった。一見女人のように華奢なのに、実は芯が強いところも尊敬している」「どうしたんだよ、急に。持ち上げないといけない病にかかってるのか」動揺を隠す為に、彼の話を一笑に伏す。立ち上がって小窓の外を眺めた。「俺はただの……どこにでもいる人間だよ」「違うな」問答無用という言葉が頭を過ぎる。いつもの猪突猛進な思考のせいかと思ったが、紫弦は確信に満ちた目をしていた。「それならお前はどこから来た? 親や兄弟、生まれた場所にしてきたこと。今細かく言ってみろ」「……」千華は拳を握って振り返った。心が波立っているせいで、もしかしたら睨んでしまったかもしれない。ただ問い掛けるのではなく、彼の質問の仕方はまるで責め立てるようだったから。「答えられないんだろ。それは
last updateLast Updated : 2025-10-12
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紫弦

理性の皮が剥がれた。場所も相手も悪過ぎだ。越えてはいけない一線を自分から飛び越えようとしている。でも自分で自分を止められないなら……もうこの状況を打破してくれる者は存在しない。「んん……っ」馬乗りになり、服がはだけるのもかまわずに屈む。紫弦の驚く顔も次第に見えなくなる。互いの唇が重なった時、世界は完全な闇に包まれた。なのに、涙が出るほど温かい。「ん、ふ……ぅ」両手を繋げて深い口付けを交わした。軽く触れて終わるつもりだったけど、何を言えばいいのか分からず離せなかった。口付けしている間は言葉は要らない。卑怯な考えで、さらに紫弦の口腔内を貪った。紫弦も千華の背中に手を回し、離れないように抱き留めてきた。互いの思惑は同じなのに、伝わることはない。自分だけが求めていると思っている。歯列をなぞり、舌を絡め合う。川のせせらぎでは水音をかき消すにはもの足りず、耳元でいやに大きく鳴っていた。自分達の行為を自覚しながら、深いところまで落ちていく。こんな強引なやり方でも繋がっていることになるのだろうか。「貴方を想っている」と。これが今できる精一杯の答えだと……少しでも伝わるだろうか。彼の唇を舐め取り、震えながら離れた。改めて顔を合わせるのは怖かったけど、いつまでも抱き合ってるわけにはいかない。腹を決めて上体を起こし、それから彼の手を引いて起こした。「千華……」「……」紫弦が好きだ。たがその気持ちを貫いていいのか。どこへ着地すべきなのか分からずにいる。王族として立場がある彼を好きになること自体罪かもしれない。自分は天界から逃げ出した身だし、平和な日常を築ける保障はない。むしろ多くの人に迷惑をかけるだろう。「んむっ!?」「また何か考えてるな」紫弦は千華の両頬を引っ張り、顰めっ面を浮かべた。「初めてお前から触れてくれてすごく嬉しい。……なのにそんな辛そうな顔をされると俺も悲しい」「むぐぐ……っ」なにか喋ろうにも両側に引っ張られているせいで上手くいかない。しばらくもごもご言っていると、ようやく離してもらえた。「今の口付けが答えなら、お前も俺のことを好いている。そう自惚れてもいいか?」紅潮した頬は、まるで鏡のようだ。きっと今の自分も彼と同じぐらい真っ赤になっている。しかし、この問いに答える必要があるだろうか? 紫弦は恍惚とした表情を浮かべ、幸
last updateLast Updated : 2025-10-13
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#1

あの子は幼いながらもしっかりしていて、見ず知らずの自分に興味津々で近付いてきた。警戒心など欠片もない。人の子は困ったものだと思ったけど、あの出会いを機に人に対して興味を抱くようになった。どんな生き物も、幼い頃は純粋さを内に秘めている。とても危ういものだけど、関わる者の心を癒す力がある。俺はそれに感動したんだ。あの時渡した石のように、いつまでもこの輝いてほしい。人が持つ強さは、自分以外の誰かを思いやれる優しさだ。それを忘れてはならない。優しい大人になってほしいと願いを込めた、あの時の子が……こんな。「思い出したんだ。ずっと昔に、俺はお前に会ったことがある」強い力で手を握られる。まるで心そのものを包み込まれたようでどきっとした。「実を言うとお前が城を出て行くまで忘れていた。幼いときにこの石を渡してくれた人がいたことを……。御守りとして持っていたから、しょっちゅう見返すわけでもなかったしな」紫弦は自分の手を、石を握っている千華の手に重ねた。これも久しぶりに感じる温もりだ。「すごく不思議だ」……とても印象的な出来事だったのに、大人になるにつれ忘れていった。それでもこの石だけは失くさないよう大切に持っていた、と紫弦は続けた。拙い記憶が彼の脳裏を掠める。昔は今よりずっと物わかりが悪くて、驚きと疑問の連続だった。皇子として生まれたことも、皇子として振る舞わなくてはいけないことも分かっている。しかし肝心の見本はいない。むしろ幼い弟がいるので、自分が見本として務めなければいけなかった。街の子ども達のように、好きな時に泥だらけになって遊ぶことは許されない。思いきり身体を動かすことが許されたのは武芸の稽古の時間だけだった。どうして自分だけ城に閉じこもっていないといけないのか? 考えれば考えるほど疑問の糸は絡まり、複雑な塊が肥大する。悲しい。いつしかこっそり城を抜け出し、街中へ遊びに行くようになった。父に知られたら大変なことになるけど、街を歩いていると憂心は吹き飛んでしまう。見るもの全てが鮮やかで、同じ言語を話しているのにまるで違う世界へ飛び込んだようだった。あの日もそう。ひとしきり外を冒険して、密かに帰ってきた時だった。城内に建てられた三重の塔の手前で、ひとりの青年が佇んでいた。小さな抜け口から中へ入ったせいで前を見ておらず、勢いのままぶつかって
last updateLast Updated : 2025-10-14
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#2

もし本当に会えなくても、この石をずっと持っていよう。そして忘れないよう胸に刻みつける。自分の心を初めて奪ったひと。その存在を閉じ込めるように……。以降は、記憶に蓋をされていたようだった。忘れないように努めたつもりが、思い出さないようにしてしまっていた。会いたい気持ちが爆発してしまうことが怖い。思い出す方が辛くて、記憶の箱に大切に仕舞った。だけど本当はこの時から……自分の心は、彼に奪われていたのかもしれない。絶対、また逢いたいと。「お前と会って久しぶりにこの石を握ったら、懐かしい記憶が頭の中に流れ込んできたんだ」追想に蓋をし、紫弦は千華を見据える。千華は驚いたまま、二の句が継げずにいた。「初めてお前を抱いた夜も、実はちょっとだけ思い出していたんだ。と言っても確信できるほど鮮明なものではなくて、一瞬で終わる場面が脳裏に過ぎっただけ。石を貰った時の映像もあっという間に終わったから、顔までは確認できなくて」「……」なんてことだろう。千華は唇を軽く噛み、石を掴む手に力を込める。紫弦の怪我を治す為に、自分の神気を注ぎ込んだ。それによって身体や心にも変化が生じ、古い記憶まで反応してしまったのか。堪えきれず、今度こそ長いため息をついてしまった。千華は覚束無い足取りで紫弦を横切り、寝台に倒れ込んだ。そんな千華を心配し、紫弦は目の前へ移動して床に膝をつく。「今度はどうした」「……そうなんだ、って思って」掌で顔を覆い、闇に逃げ込む。こうでもしないと口が上手く回らなかった。「そうだったんだ……」もう一言繰り返し、今度は勢いよく起き上がった。「お前が、あの時の子ども」見つめて呟くと、紫弦は大きく目を見開いた。「やっぱりお前だったんだな!」そして立ち上がり、千華に抱き着いた。その勢いで二人とも倒れ、枕は床に落ちてしまった。紫弦は千華を押し倒したまま、彼の胸に顔をうずめる。「嬉しい。ずっと、ずっと会いたかった……」引き離そうとしても子どものようにすがりついてくる。その様子を見たら突き放すのも可哀想に思えてきた。諦めて、背中と頭に手を回す。「会いたかったって、ちょっと話しただけじゃん」そこまで想ってもらっていたなんて知らなかった。ちょっとしか話していない自分なんかを。どうしよう。どうしようもなく嬉しい。けど急には素直になれず、照れ隠しの為に顔を
last updateLast Updated : 2025-10-15
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#3

つい揶揄を込めて言うと、紫弦の目つきは鋭くなった。しまった、と口元を押さえても後の祭りで。「悪い! 冗談だよ、冗談」全力で両手を振り、笑って誤魔化す。紫弦はしばらく千華を睨んでいたが、湯気が見えなくなった花茶に気付きゆっくり口に運んだ。「吃驚だな。神道から外れたら飲み屋でもどこでも働くとは」「だって、郷に入っては郷に従えと言うだろ」上界と下界。大きく異なるものだからこそ、最初が肝心だ。余計な先入観は順応の妨げになる。それに自分から訪れたからには、その地の文化や習わしを理解するのが道理だ。純粋に答えると、紫弦は困ったように笑った。「ちょっと訊きたいんだけど、道士って皆お前みたいな考え方なのか?」「うん? どうかな。俺はちょっと変わってると皆に言われてたけど」するとやっぱり、という返答。何だ、やっぱりって。少し腑に落ちないが、ここで言い返しても仕方ない。「それで、千華は……今後も天界に戻る気はないのか」紫弦はこちらを真っ直ぐに見つめてきた。目を見開いているため瞳の色までよく分かる。綺麗な琥珀色だな、と密かに羨んだ。ここまで綺麗な目で誰かを見つめるなんて、自分にはできない。人は好きだ。けど、何十年も生きていながら恋というものをしたことがない。何を恋情と呼ぶのかも分からず、じたばた足掻いている。先程紫弦に告げた通り、気持ちいいことをされて勘違いしているだけかもしれない。紫弦が好きなのではなくて、単純に気持ちいいことが好きなのかも……。なんて、曖昧で女々しい考えに内心舌を出した。「戻る気はないよ。戻ったらどんな目に合うか分からない。俺は、俺と関わる大勢を裏切って来たから」曇った思考は一旦振り払い、膝に手を置いた。「師に黙って修行を投げ出すのは重罪なんだ。そこにどんな理由があっても」「……謝ればいい」安直な解決法に思わず吹き出す。「紫弦が俺の師なら、ね」「だな。俺が一緒に謝って許してもらえたらいいんだけど、そんな生易しい世界じゃないだろうからな……」紫弦は難しい顔を浮かべて頬杖をついた。極めて個人的な話なのに、彼はまるで自分のことのように悩んでいる。もう、それだけで充分だった。真剣に自分のことを想ってくれている。こんなに幸せなことは他にないだろう。これから先何があっても、自分はこのことを忘れない。むしろすぐに思い出せるよう、そっ
last updateLast Updated : 2025-10-16
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#7

事後、お互いあられもない姿で寝てしまった。物音でも何でもなく、部屋を取り巻く朝の冷気で目覚めた。寝相が悪い千華は紫弦の上に被さっており、布団も掛けていなかった為、すっかり身体が冷えていた。「ううう、寒い……!」千華は床に落ちた服を拾い上げ、ひとまず上半身に羽織った。紫弦も遅れて目を覚ましたが、眠気のせいか動作は緩慢だ。すっぽんぽんで瞼を擦っている。自分が起きなかったら凍死していたかもしれない。想像したらまた背筋がひやっとした。紫弦の散らかった服も拾って、彼の上に被せる。「そうだ、風呂。風呂に行くぞ」「くろ?」「風呂!」眠そうな彼の手を掴み、ほとんど引きずる形で部屋を出る。この宿にあるのは男女で別れた二つの大浴場。有難いことに朝から温かい湯が溜まっていたので、洗身後、すぐに湯船に浸かった。「はああ、生き返る……。紫弦も早く。あったかいぞ」「うーん……」振り返ると、紫弦は揺れながら頭を洗っていた。こちらの言葉も、耳には入っても頭には入ってないようだ。時間が早いせいか中には自分達しかいない。少し温まった為、千華は湯船から出て紫弦の元へ向かった。「さすがにもう流していいだろ……」紫弦はずっと頭を洗っており、先へ進んでいなかった。お湯をかけて洗い流し、浴用の綿布で身体を洗ってやる。恋人にすることもあるだろうが、今の気持ちとしては子どもを相手にしてるようだった。「はい、終わり。早く湯に浸かろう」彼はこくこく頷いて、湯船の中に入った。「お前、本当に朝に弱いんだな」この様子では城で暮らしていた頃も大変だっただろう。……もちろん、起こす人が。「ふう……」だだっ広い浴場には天井付近に小窓があり、そこから陽光が差している。下界へ来てからばたばたの連続で、同じ朝なんて一度もなかった。ようやく落ち着いたと思ったら、翌朝に何かが起きる。まだ平穏な日常は手に入れていない。昨日の朝と今朝とでは、また状況が違う。いなかったはずの人物が隣にいるのだから。ある意味毎日が闘いだ。けど悪いばかりではない。今日は特にそう想う。肩まで湯に浸かり、そっと隣を盗み見ると、彼は目をぱっちり開けていた。「目覚めた」「お、おはよう」やはり今までは寝ていたようだ。しかし現在の覚醒ぶりを見ると、それはそれで身構えてしまう。なんせお互い全裸の状態だ。湯船の中で手拭い
last updateLast Updated : 2025-10-17
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#5

紫弦が用意した潤滑油が穴からこぼれ、内腿を伝う。おかげで指は入りやすくなったが、たまに奥へ入り過ぎて弱い部分を引っ掻く。それが嫌で腰を揺らしたが、紫弦は手の動きを緩めようとしなかった。「指だけで気持ちよくなっちゃって……本当に順応性が高いな」尻を優しく弄られながら、前も扱かれている。同時に攻められるせいで身体は獣のように陥落してしまっていた。射精はしてないはずなのに、性器の先端から細い糸が引いている。それが紫弦の指に絡み、一層卑猥な音を立てていた。彼はぬれた手を紫弦に見せつける。「すごい。こっちも良さそう」「や、やだっ」「どうして。俺はすごい嬉しいよ。お前がそんなに感じてくれてるって思ったら、……それだけでイきそうになる」「あっ! あっ、あぁあ!」また激しく前と後ろを攻められ、千華は震えた。耐えなくては、と焦れば焦るほど腰が揺れてしまう。自ら高く上げ、彼が見えやすいように突き出した。「だめ、いくっ、出ちゃうっ」底知れない何かが湧き上がってくる。自分を手放せと囁く悪魔が忍び寄っていた。嫌だ嫌だと振り切っても、それは自分の身体を捕らえて離さない。腰の痙攣は大きくなっていく。開いた脚の間から、揺れる性器と紫弦の口元が見えた。「心配しないで、思いきりイけ」そう聞こえた瞬間、頭の中で火花が散った。「あああぁぁっ! イく……っ!」白い雨が降ったようだった。今まで見たことのない量が吹き出す。「う、あっ、やだ、止まんな……」どうしてこれほどの量が体内にあるのか、不思議で仕方ない。この一瞬も、紫弦は目を凝らして見ているんだろう。そう思うと羞恥心で爆発しそうだった。だが休む間もなく、彼は自分のものを擦り付けてくる。「ち、ちょっと待てって……早い」「でも早くしないと閉じちゃうだろ?」悪びれるでもなく、紫弦は千華の穴を指で撫でた。「それとも無理やりこじ開けられるのが好き?」「んなわけないだろっ! 痛過ぎる!」「じゃあ今のうちに入れておこう。大丈夫、そんなすぐには動かないから」今やっておいた方がお得、みたいなノリで言われるのが少し腑に落ちない。でもにこにこしている彼を見るとため息しか出なかった。手足を投げ出し、できるかぎり自然体を装う。「……はい。じゃあどうぞ」「……何かそういう誘い方をされると複雑だな」「文句言うな!」こっち
last updateLast Updated : 2025-10-18
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#6

これは恥ずかしくて、俯きながら呟いた。顔が熱い。真っ赤になっていることが鏡を見なくても分かる。いっそそこにある掛け布団を取って頭から被ろうかと思った。ところがそれより前に、足元に影がかかる。なにかと思って顔を上げた時、強い力で押し倒されてしまった。「いったぁ……な、何……っ」「はああぁ。いや、やっぱり可愛いなって思って」紫弦は悦に入った顔で千華を力いっぱい抱き締める。再びひとつの寝台に、男二人で横たわった。彼はまったく王子らしくない。やることが一々稚く、自尊心もまるで感じられない。そういうところが憎めない理由だな、と密かに笑った。紫弦の肩を掴んで無理やり引き剥がし、息が当たるほど近くで囁いた。「男に可愛いってのもどうかと思うけどな。せっかくだからその台詞、そのまま返してやる」彼の襟を掴み、無防備に開いた口を塞いだ。「お前の方が可愛いよ」意地っ張りなところ、一途なところ、嘘がつけないところ、その全てが愛おしい。まるごと包み込んで、めいっぱい可愛がってやりたい。そんな風に想わせるなんて、彼も相当凄いと思う。ふと、この感情の正体について考えた。もしかして、今自分が抱いているこの気持ちが愛情なのだろうか。心臓はずっと激しく鼓動している。もっと彼に触れたい。千華の呼吸が荒くなっていることに気付き、紫弦は不敵な笑みを浮かべた。「よし、今日は記念日だな。お前の方から攻めてくれた記念日」頬に手を添えられる。今度は紫弦が千華の唇を奪った。初めは優しく、啄むような触れ方が、時間が経つにつれて貪るような動きに変わる。「っ!」直に股間を掴まれ震えたが、上から押さえつけられているせいで身動ぎできない。なされるがまま、彼の愛撫を全身に受けた。「あっ、待って……俺は、先に身体を洗った方が良い」「……」つい流されて続けそうだったが、大事なことだ。しかし紫弦は少し考えた後、再び手を動かした。「いや、いいよ。むしろ今は、お前のありのままの匂いを嗅ぎたいんだ」「うわ、変態」「そうだよ。お前にだけ」揶揄を戒めるように、紫弦に口を塞がれる。身に付けているものは全て奪い取られてしまった。素肌が外気に触れ、ぶるっと震える。紫弦の愛撫により、千華の性器は勃ち上がっていた。これも何回見ても慣れない。紫弦のものを見た時は「ああ、こんなもんだよな」と思うのに、自
last updateLast Updated : 2025-10-19
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#7

先程よりも速く、冷たい風が吹き抜けた。鹿台の上の重厚な門が開かれる。もう二度とここには戻ってこないと思ったのに、今また足を踏み入れている。不思議な気分に駆られて俯いていると、ぎゅっと手を握られた。「不安そうだな」もう片方の手で額に手を当てられる。紫弦は千華の前髪を掻き上げ、身体を屈めて覗き込んだ。「大丈夫だ。俺が傍にいる」「……うん。ありがとう」門をくぐった時から緊張が付き纏っている。これからもっと恐ろしい事態が起きてしまうのではないかと、暗然とした想いを抱えて歩いていた。だが紫弦に微笑まれた瞬間、安心して笑いがこぼれた。彼が隣にいることが本当に心強い。単純たけど、ここまで力を与えてくれる彼の存在に感謝した。城内に入ると、数人を引き連れてある人物が現れた。「紫弦様!」「董梅」千華が城を出る前に話した、紫弦のお世話係を担っている文官、董梅。彼は先の件もあり少し苦手だ。思わず、一番に会ってしまった運の悪さを嘆いてしまう。「無事で良かった……でもまた勝手に城を抜け出して! 貴方の身を案じて捜し回る我々のことも少しは考えてください!」「すまなかった。どんな罰でも受ける」紫弦は臣下を相手に謝罪した。董梅を含め、全員がどよめく。「お、皇子。どうかお顔を上げてください」「そうです。心配こそすれ、怒ってる者など誰ひとりいません。……あ、ひとりを除きまして……」臣下のひとりが声を潜め、怖々前方を窺う。そこには今までで一番鋭い目付きの董梅が立っていた。「私もただ怒っているわけじゃありません。貴方の御身に何かあったらと気が気じゃなくて……!」付き合いの浅い千華からすれば怒っている様にしか見えない。けど見回すと、他の臣下は皆笑いを堪えている様子だった。紫弦も申し訳なさそうにしながら、どこか嬉しそうに見える。それは、彼の人柄を知った今だから気付いたことだろう。もし意識を向けていなかったら、彼らの信頼関係も何も分からずにいた。「心配かけて本当にすまなかった、董梅」紫弦は彼の傍に寄り、そっと手を取った。「俺になにかあったらお前達の責任になる。でもそんなことはさせない。どんな罰も俺が受けて、お前達のことは絶対に護る」「そんな……貴方が罰をうける必要はありませんよ」董梅は困り果てた顔で、その手を握り返す。「でも、そうですね……貴方には、この城は狭す
last updateLast Updated : 2025-10-20
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#8

紫弦の背中を見つめ、呼吸を整える。……これぐらい何だ。彼らの反応は分かりきっていたことじゃないか。正しさを基準に置いたら、自分達が間違っている。けど、人の世界で蔓延る“常識”に従って好きな人を諦めるほど、自分は正しい存在じゃない。拳を握り締めて前へ向いたとき、その手を包むような感覚がした。前を見ると、紫弦は笑って自分の手を握っていた。「若気の至りじゃないってことを証明するには時間が必要だ。だって、歳とった時に笑いながら話せるのが若気の至りだろう。どれだけ時間をかけても、お前達に納得してもらえるよう頑張るよ。千華を選んだ俺の選択は正しかった、って」「……!」身体を引き寄せられ、ぽんぽんと頭を叩かれる。いつもだったら羞恥心が押し寄せて、やめろと突き飛ばしたかもしれない。こんな時にふざけるなって思ったはずだ。でもそんなことできなかった。この時は心からほっとした。紫弦の気が揺らがなかったことに感謝した。良かった。……いや、幸せ過ぎて辛いぐらいだ。「紫弦。……ありがとう」何故か目頭が熱くなってきたので、俯きながら袖で顔を隠す。紫弦はそれを照れてると勘違いしたのか、嬉しそうに頷いた。「約束したろ? 俺達が分かってもらう努力をしなきゃ」「うん」董梅はその様子を黙って見ていた。まだ困惑していることは明らかだが、先程以上に鋭い目付きで自分を注視している。身体に穴が空きそうなほど見られている。居心地の悪さに軽く目眩がしたが、何とか堪えて一礼し、彼のことを見返した。紫弦が逃げも隠れもしないと言ったのだ。なら自分も、彼の気持ちに応えたい。少しでも認めてもらえるように、彼に相応しい存在でありたい。「……はぁ」重くて低いため息が聞こえた。董梅は頭が痛そうに額を押さえている。「董梅、心配するな。……と言っても心配するよな」「当然でしょう」「すまんな。どうか俺にも、選択の猶予をくれないか?」紫弦は未だに千華の腰をしっかり掴んでいる。それを見せつけるのは如何なものかと思ったが、案外吉だったようだ。董梅はもう一度ため息をついた後、近くの臣下に本殿へ向かうよう伝えた。「貴方は一国の未来を背負って生まれた、特別な方です。……ですが、本当に国の為だけに死んでいった王は今までほとんどいません」「夜遊びが過ぎて病に倒れたり、火遊びが過ぎて野盗に殺されたり、だ
last updateLast Updated : 2025-10-21
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