部外者を拒むようなこの城も、上空だけは繋がっている。紫弦は目を眇めた。それは王族でも何でもなく、純粋に自由を切望するひとりの青年の横顔だった。彼は王位や潤沢な暮らしより発見を求めているんだ。千華は気付かれないよう、小さなため息をついた。紫弦は長く生きてる自分にとっては子どもとそう変わらない。色々消化できない部分はあるけど、今は憐憫の情を買ってしまっているようだ。やり切れない思いのまま思案していたが、視線に気付いた紫弦が恥ずかしそうに手を振った。「いや、今のは忘れてくれ。柄にもなく女々しいことを言った」「あははっ、良いじゃありませんか。過去を振り返ることは何もおかしくない」銅製の手摺を掴み、もう片方の手で風に揺れる前髪を押さえる。「息苦しい環境から抜け出したいと思うのは当たり前です。それすら思わなくなった時が、一番恐ろしい」「……そうか?」「ええ。そういえば、家出したこともちゃんと陛下に怒られるみたいですね」「ちゃんとって何だ。当然だろう……恐らく謝罪の文を何枚も書くことになる」 「それだけで済むなら良かったじゃないですか」階段を下りながら、修行に明け暮れた日々を思い出していた。師や兄弟弟子には良くしてもらっていたけど、日々憔悴していく身体が恐ろしかった。誰にも相談できなかったのは、間違いなく己の見栄と弱さによるものだ。逃げ出す道を選んだのは、考えることを放棄したかったから。天界そのものと縁を切りたかったのだ。そして、自分を知る者が誰ひとりいない世界に行きたかった。卑怯な臆病者がすることだ。でもだからこそ、紫弦の気持ちが少し分かる。「はは。けどお前もやっぱり根は真面目なんだな!」紫弦は納得した様子で千華の背中を叩いた。それは本当に軽い力だったのだが、「うわっ!?」ちょうど足を宙に浮かせたところで、バランスを崩した千華は前方へ倒れてしまった。「危ない!」紫弦が彼の腕を掴み、間一髪で抱き締める。幸い地面まで数段の距離だったので、共に頭は打たずに済んだ。紫弦に庇われたことで、千華もほとんど無傷である。しかし、千華は自分でも驚くほど取り乱していた。「大丈夫ですか!? なん……っで階段下りてる時に押すんですか! 危ないでしょ!」怒っているのか心配しているのか分からない剣幕に、紫弦は数秒固まった。しかしすぐに起き上がり、笑って手を
Last Updated : 2025-10-02 Read more