天界の代表……の、付き添い。見習い。またの名をおまけ。居ても居なくてもいいという、とても絶妙な立ち位置に俺はいた。「新たな国王陛下、また聖上に御健康と御多幸を。この時世に平和と幸福、繁栄を祈念致します」今から十数年前。父に連れられ、若き道士、千華は人界に下っていた。時の王の戴冠式に出席し、祝辞を述べる。千華の父は天界でその役目を担う重要な存在だった。人界へ来たことが初めてで右往左往する千華は、普段とは別人の父の姿に二重で戸惑った。もしかすると、大きな責任と誇りを背負った背中に怯んでいたのかもしれない。いつか自分がこの大役を引き継ぐ可能性があると思うと、立ちくらみがしそうだった。自分としては今隣に佇んでいるだけで精一杯だ。両脇に並ぶ赤い柱や美しい装飾は天界の神殿と似ていて親近感があるものの、やはり地上の空気はひりひりして、喋ってもいないのに喉が渇く。くわえて幕のような何かが肌に張り付いていた。新鮮で美しいが、長居する場所じゃないな、と密かに首を横に振った。凛々しい顔立ちの国王は中央に置かれた王座に腰掛け、嬉しげに笑みを浮かべた。「上界の者が訪れるのも、祝辞を受けるのも、私にとって初めてのことだ。地上のもてなしが気に入るか分からないが存分に楽しんでいってほしい」「ありがとうございます」もう一度だけ寿いだ後、父は後ろへ下がって揖礼した。時間の経過と共に人がどんどん増えていく。周りの礼式を注視してる間に城中の者が集まり、大広間で盛大な宴が始まった。「すごい」これほど多くの人が王を祝っている。少し背伸びしながら群衆を眺め、千華は何度も頷いた。「道士様、宜しければ……」「あ。ありがとうございます」給仕をしていた女性が近くに来て、酒が入った金杯をくれた。修行中の身だが、今日だけは酒を飲むことが許されている。「…………」でも独りで飲んでも楽しくないなあ。父は物珍しい上に運気目当ての人間達に取り合いにされ、とても近付ける雰囲気じゃない。暇だ。初めて会う“ 人間”と打ち解けられるほど社交的じゃないし、終わるまで何をしよう。自分が抜けても問題なさそうな雰囲気だったので、お祭り騒ぎの鹿台から離れ、城下町を探索することにした。生まれて初めて来た場所なのにどこか懐かしい雰囲気が漂う。牛車で作物を運ぶ人や、道端でものを売る人。自分が暮らしている世界と
Last Updated : 2025-09-09 Read more