《離婚して、今さら愛してると言われても》全部章節:第 121 章 - 第 130 章

164 章節

121.報告書

遥side夜になり花蓮と屋敷の中でかくれんぼをして遊んでいた。私が鬼で花蓮を探しているがなかなか見つからない。。(小さい頃は、お布団の膨らみでバレバレだったり、隠れている途中にクスクス笑い声を出しちゃったりしてすぐに見つけられたのに。今は隠れるのも上手になって……難しいわね)花蓮の成長が愛おしくもあり、同時に鬼ごっこを難しくしていることに、私は内心苦笑した。 「花蓮ー、どこかな? もう見つけちゃうわよー」わざと大きな声で呼びかけながらゆっくりと廊下を歩く。リビングでは俊と直人が食後のコーヒーを飲みながらくつろいでいるはずだが、ふと、俊の部屋から微かな物音が聞こえてきた。「花蓮、そこにいるの?俊叔父さまの部屋には、お仕事の大事な書類があるかもしれないから勝手に入ったらだめよ。いるなら出てきなさい」私が扉を開けて声を掛けると、数秒の沈黙の後、書斎の重厚なデスクの下から「ゴンッ」という鈍い音が響いた。「いったーい! ぶつけちゃったぁ……」花蓮はデスクの下に潜り込んでいたようだ。見つからないようにと椅子を限界まで引き寄せていたせいで、出そうとした瞬間に頭を強打したらしい。
last update最後更新 : 2026-05-11
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122.天井

遥side(俊は……本当は私のことをどう思っているのだろう。私を見つけ出した時、すでに私はお腹に花蓮を宿していた。そんな私を迷わず受け入れ、今日まで支えてくれたけれど……。本当は、心のどこかで快く思っていなかったのではないかしら)寝室のベッドに潜り込んでも、俊の部屋で見てしまったあの報告書の内容が、瞼の裏に焼き付いて離れない。もし、私が結婚も妊娠もしていない状態で東宮家に戻っていたら……。きっと私は、東宮家が望むような名家の男性と結ばれ、両家の絆を強固にする役割を果たせただろう。仕事だって、子育ての時間を気にすることなく、もっと自由に俊のサポートできたはずだ。私は、東宮家にとって「本来あるべき形」を壊してしまった存在なのではないか。今まで俊は、一度も奏多との結婚について深く言及してくることはなかった。妊娠中も私の体調を常に気遣い、花蓮が産まれてからは、溺愛して成長を一緒に喜んでくれた。そのことが私や花蓮のことを丸ごと受け入れてくれているような気がしてとても嬉しくて、俊が本心ではどう思っているかなんて考えたこともなかったのだ。眠ろうとするも、心が晴れずに目が冴えてしまい胃がキリキリと痛んで真っ暗な天井をずっと見ていた。こんなに眠れなくなるのは久しぶりだ。(あの時もこうして夜に部屋の天井を見て物思いにふけていたな……)暗闇の中で何度も寝返りを打っていると、過去の奏多と結婚したばかりの重苦しい記憶が底なし沼のように飲み込み始めた。新婚当初―――――住吉家での生活が始まったばかりの頃、私は、自分が『汚らわしい信用できない存在』であることを毎日のように突きつけられていた。「奏多さん……お食事の準備ができました。温かいうちにお召し上がりください」精一杯の勇気を振り絞って声をかけても、ダイニングテーブルについた奏多は、並べられた料理を一瞥することすらなかった。彼の瞳に宿っているのは、軽蔑と剥き出しの嫌悪だった。「食事?……今度は何を盛ったんだ? お前が作ったものなど、怖くて口に入れられるか。次は俺の命まで奪うつもりか」食事だけではなく、私が用意したお風呂やベッドメイキング、部屋の掃除なども過剰なまでの拒絶を示した。「おい、誰かいないのか?すぐに来い!」奏多の怒声が屋敷に響き渡る。駆けつけた家政婦たちの前で、彼は私を指差し冷酷に言い放つ。「この女が
last update最後更新 : 2026-05-13
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123.密会

遥side「遥、なんだか疲れた顔をしているけれど大丈夫? もしかして、あまり眠れなかったのかい?」朝食のテーブル。湯気の立つコーヒーを手に俊がいつもの穏やかな笑顔で私に話しかける。いつもなら特に気にすることなく返していただろう。けれど今は、何気ない会話のはずなのに、戸惑って指先がピクリと動いてしまう。「ええ、少し……。でも大丈夫よ、ありがとう」平然を装って短く答えたが、持っていたカトラリーがカチリと震えるのを必死に抑え込んだ。心の中は、昨夜見たあの『調査報告書』の文面で埋め尽くされている。今ここで口にし、「どうしてあんなものを調べていたの?」と尋ねる勇気は、私にはなかった。迎えの車に乗り込み、ぼんやりと外の景色を眺める。窓の外を流れる東京の街並みは、足早にオフィスへ向かう人々、背中を丸めて歩く老人、笑い合う学生たちと無数の日常が溢れているのに、今の私は、自分だけが透明な硝子の箱に閉じ込められたような気分だった。瞳に映るすべてが、実感を伴わない映像としてただ流れ去っていく。「遥……? どうした? なんだか、さっきから元気がないみたいだけれど」取引先への訪問のためにオフィスを出て、二人きりになると直人がそっと私の顔を覗き込んできた。俊も直人も私の変化にすぐに気が付くことに嬉しくもあり、そんなに顔に出てしまっているのかと心の中で苦笑していた。
last update最後更新 : 2026-05-14
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124.真相

遥side走行する車のエンジン音だけが静まり返った車内に低く響いている。私は、自分の人生を狂わせた「あの日」の記憶を言葉に変えていった。「私が住吉と初めて会ったのは、ある財界が主催した大規模なパーティーだったわ。その日、私は西村家の家政婦として会場の裏方で休む間もなく働いていた。……休憩時間に手渡された一杯の飲み物を口にしたのだけれど、それからの記憶が綺麗に抜け落ちているの。……そして、次に目が覚めた時には、朝日が差し込む見覚えのないホテルのベッドの上で、隣には住吉がいたわ」「記憶がない? ……ホテルのベッド……」直人の声が、低く震えている。ハンドルを握る指が白くなるほど力が入っているのが、横目からでも分かる。険しい横顔には怒りと困惑が複雑に混ざり合っている。私は彼の返答を待たず、一気に言葉を重ねた。「ええ。住吉も私と同じようにすぐには事態を飲み込めていなかったけれど、誤解されることを避けるためにすぐにその場を去ったの。……だけど、誰かに見られたようですぐに週刊誌に記事と写真が載った。住吉商事が、その責任問題と商談への影響を最小限に抑えるために出した答えが、私との『結婚』だった。住吉は……私が名家の妻の座を奪い取るために罠に嵌めたのだと考え、私を深く憎んでいたわ」「そんなことって……。たとえ誤解だとしても、結婚までする必要があったのか? 現に、君は妊娠
last update最後更新 : 2026-05-15
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125.真犯人?

遥side「なんだって? 遥……それは誰なんだ?」直人の声がこれまでにないほど低く緊迫した響きを帯びる。私は小さく息を吸い込み、ずっと胸の奥底に沈めていた呪わしい名前を口にした。「岡田……岡田は、私の養父なの」その名を呼ぶだけで、幼い頃から私を縛り付けていた冷たい鎖の感触が蘇るようだった。「普段、あの規模の財界パーティーにお供として同行するのは経験を積んだベテランの執事や家政婦の役割だったわ。だから、私が選ばれることなんて一度もなかったのよ。なのに、その日に限って、同行する予定だった人たちが体調不良や急用で全員いなくなってしまって……岡田の指示によって私が代わりに会場へ行くことになったの。それに、結婚してからも私の知らないところで、岡田は住吉から毎月多額の『仕送り』を受け取っていたのよ」「仕送り……? 一体、なんのために? 君は住吉社長と結婚して一緒に暮らしていたんだろう?なぜ養父にお金を支払う必要があるんだ」「私はずっと後になってから知らされたんだけど……。急遽、私が結婚することになって西村家の家政婦を辞めることになったから、その『迷惑料』、そして私をここまで育てたことに対する『恩義』として、毎月決まった額を仕送りとして支払うように岡田が住吉家に要求していたそうなの」
last update最後更新 : 2026-05-16
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127.心変わり②

遥side「このサラダ、おいしいね。無花果のドレッシングなんて珍しいけれどサッパリしていて案外合うものなんだね」直人が明るく話しかけてくるも私の耳には届かない。私の頭には麗華と一緒に車に乗り込んで去っていた光景が何度も何度も繰り返されている。(この前のカフェだけじゃなくて、今度は会社の前で堂々と会うなんて……。会社の車に乗せるのもそれほどまで麗華を信用しているという証なの?)「……遥、大丈夫?さっきの俊さんのこと、気になるよね。でも大丈夫だよ。俊さんは遥が悲しむようなことはしないよ。遥だってそう思っているでしょ?」「ええ、だけど……こんな期間を空けずに二人でいる姿を見ることなんてないから。もしかしたら、私が知らないところで頻繁に連絡をしたり会っているのかもって。それも最近ではなくもっと前から……」そう言えば麗華の就任パーティーの時も、呼ばれたのは俊と私だった。麗華の嫌がらせに反論してくれたのは直人で、俊は一言も口を出していない……考え出すとネガティブな思考が止まらない私に、直人はそっと手を重ねて優しく撫でた。「心配になるのは分かるけれど、今までの彼女の悪事を見てきたら誰も興味を持たないよ。むしろ敬遠して距離を置くはずだ。それが敢えて近づくと言うことは、それ以上の目的があるんじゃないかな?」俊に絶大な信頼を置いている直人は、私を笑顔で励まし続けてくれている。直人のようにブレずに信じ続けられる人でありたいと思うのに、過去が絡むと私の心は不安定になる。あんな過去を知ったら失望されるかもしれないという不安が常に付きまとうのだ。「今は目の前の料理を楽しもう。サラダ、美味しいから食べてみて。それともう少し一緒にいる俺のことも見て欲しいな。久々に二人きりで食事しているのにさっきからずっと上の空だ」直人が冗談っぽく拗ねた真似をしている。色んな言葉を使って場の空気を変えようとしてくれている直人。重ねられた手をひっくり返して指を絡めて、直人をじっと見つめた。「そうね、直人の言う通りだわ、ごめんなさい。……でも、私、直人が近くにいてくれて本当に良かったって思っているの。すぐ不安やネガティブになる私を直人が支えてくれて感謝している。ありがとう、直人がいてくれて良かった」直人の言う通り、無花果のドレッシングはサッパリとしているけれど、ほのかな香りもあって美味しい。直人
last update最後更新 : 2026-05-18
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130.来客

遥side午後、直人が業績の報告をするために俊のいる社長室に向かってすぐのことだった。まだ五分しか経っていないのに、スマホが鳴って画面を見ると、直人の名前が表示されている。(直人……? 向かったばかりなのに、何か資料に不備でもあったのかしら?)「もしもし、どうしたの?」 「……遥。今、社長室の前まで来たんだが、俊さんは来客応対中でね。外で待機しているんだ。どうやらその来客というのが、星野社長らしいんだよ……一応報告した方がいいと思って」星野と言う言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がして胸が大きく跳ね上がった。 「嘘でしょ……? 私たちの会社とは何の取引もないはずよ。本当に、彼女なの?」 「ああ。秘書に確認したから間違いない。社長室の中にいるのは間違いなく彼女だ」俊が、よりにもよって麗華を社長室に招き入れているなんて……耳を疑う情報に、指先が冷たくなる。「……打ち合わせは、もうすぐ終わるのよね?」 「十四時からだから、あと数分で終わるはずだ」 「それなら私もそっちへ行くわ。直接確かめたいことがあるの」 「え……一人で大丈夫なのか? なんなら俺も一緒に……」 「大丈夫。ありがとう。とにかく、今すぐ向かうわ」直人は心配してくれたが、この問題は麗華と直接対峙して解決したかった。ノートパソコンを片手にすぐさまエスカレーターに乗って社長室のある二十三階へと急いだ。「遥……。まだ中にいるよ」廊下の角で待ち構えていた直人が、小声で手招きをする。私が駆け寄ったその瞬間、背後の社長室の扉が音もなく静かに開かれた。「まあ、これは……月島社長と、遥さんじゃない。親会社の社長室に何の用なの?」」扉の向こうにいた麗華が私たちを見つけると、勝ち誇った笑みを浮かべながら話しかけて来きた。麗華はまるでこの場所の主のような態度でこちらを見下ろしている。その声を聞きながら、反論したい気持ちをぐっと抑えて拳と口元に力を入れた。(それはこっちの台詞よ……あなたこそなんでうちの会社の社長室になんか来ているのよ。あなたの方がよっぽど部外者でしょ?)喉まで出かかった言葉を必死に飲み込み、お腹に力を入れた。麗華は私たちが何も尋ねていないにもかかわらず、高揚した様子でペラペラと言葉を並べ始めた。「私は俊さんとこれからの仕事の話をしていたのよ。今後のビジョンについても詳しく共有させても
last update最後更新 : 2026-05-22
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